【法人向け】中小企業に優遇される税金と間違いやすいポイントを解説

[取材/文責]阿部正仁

中小企業は税金面で優遇されています。しかし、ルールが細かく、間違いやすい項目でもあります。しかし、税務調査で間違いを指摘されたリスクは節税効果に比例します。そのため、優遇税制を適用する際には細心の注意が求められます。そこで、優遇税制の概要と間違いやすいポイントについて解説します。

中小企業の優遇税制の概要

中小企業に対するおもな優遇税制について紹介します。

法人税の優遇税制

所得金額に対して課税される法人税の優遇税制は次の通りです。

(1)軽減税率の適用

法人税率は原則23.2%ですが、中小法人等の場合は年800万円の部分まで軽減税率15%(2019年4月以降に開始する事業年度は19%になる予定)が適用されます。

(2)欠損金の繰越控除・繰戻還付

中小法人等に対して優遇されている内容は次の通りです。

1.繰越控除

法人の赤字額を翌年度以降10年間の所得金額から控除できる制度です。原則は欠損金の金額(赤字額)の50%相当額しか、翌年度以降の所得金額から控除できませんが、青色申告法人の中小法人等の場合は100%の控除が認められています。

2.繰戻還付

前年度納付分の法人税の還付請求ができる制度です。原則は制度が停止中のため、還付請求できませんが、青色申告法人の中小法人等に限り還付請求が可能です。

(3)交際費課税の特例

法人の場合、接待費や贈答費用などの交際費は原則損金不算入ですが、中小法人等は年800万円まで損金算入が認められています。

(4)中小企業投資促進税制

中小企業の投資を促進する税制であり、たとえばソフトウェアなら70万円以上など一定額以上の新品資産(中古資産を除く)を購入すると次の優遇税制が適用されます。

1.特別償却

特別償却とは、中小企業者等が新品資産の取得価額(基準取得価額)の30%相当額を前倒しで経費に計上する制度であり、法人税の納税を先延ばしができます。

2.特別控除

特別控除とは、特定中小企業者等が新品資産の取得価額(基準取得価額)の7%相当額を税額控除する制度であり、法人税の減額ができます。

(5)少額減価償却資産の特例

中小企業者等はパソコンなど固定資産について、経費に一括計上できる取得価額の基準が10万円未満から30万円未満までに拡充されます。

消費税の中小企業の特例

中小企業は消費税でも優遇され、おもな内容は次の通りです。

(1)免税事業者

免税事業者とは、消費税の納税が免除される事業者のことを指します。

(2)簡易課税制度

簡易課税制度とは、仕入税額控除(支払った消費税)を概算計上できる制度です。具体的には、課税売上高をベースに業種に応じたみなし仕入率(40%~90%までの6段階)をかけて仕入税額控除を計算します。

(3)軽減税率制度補助金

中小企業の場合、軽減税率に対応したレジの購入費用、受発注システムの購入・改修費用の一部について補助金が支給されます。

優遇税制ごとの中小企業の範囲

優遇税制ごとで中小企業の範囲が異なります。

(1)法人税

中小法人等、中小企業者等、特定中小企業者等の意味は次の通りです。

1.中小法人等

資本金が1億円以下の法人のことを指します。ただし、大企業の100%子会社などのグループ企業は対象外です。

2.中小企業者等

青色申告法人のうち、いずれかの法人のことを指します。

  • 資本金1億円以下の法人
  • 従業員数1,000人以下の資本金を有さない法人
3.特定中小企業者等

中小企業者等のうち、いずれかの法人のことを指します。

  • 資本金3,000億円以下の法人
  • 従業員数1,000人以下の資本金を有さない法人

(2)消費税

法人税と異なり、中小企業の基準はさまざまです。

1.免税事業者

基準期間(前々年度)の課税売上高が1,000万円以下の法人のことを指します。

2.簡易課税制度

基準期間の課税売上高が5,000万円以下の法人のことを指します。

3.軽減税率対策補助金

軽減税率対策補助金の対象となる中小企業者はおもに次の通りです。

業種 規模
製造業、ソフトウェア業、情報処理サービス業 資本金3億円以下または従業員数300人以下
卸売業 資本金1億円以下または従業員数100人以下
小売業 資本金5,000人以下または従業員数50人以下
サービス業 資本金5,000人以下または従業員数100人以下

優遇税制の適用ミスが発覚した場合

各種優遇税制は節税効果が大きい分、適用ミスによる損失も多額になります。たとえば、3,000万円の機械装置を購入し、中小企業投資促進税の適用により特別償却費を900万円計上したとします。後日、税務調査で900万円の特別償却費が否認された場合、実効税率30%相当額の270万円と延滞税など追徴課税分の追加納付をしなければなりません。

優遇税制を受ける際の注意点~法人税編~

法人税の優遇税制を受ける際の注意点は次の通りです。

中小企業の判定時期

中小法人等、中小企業者等、特定中小企業者等に該当しない優遇税制は受けられないため、判定時期を理解することが大切になってきます。

(1)通常は決算日

軽減税率、交際費課税の特例などの中小企業の判定時期は決算日です。

(2)少額減価償却資産と中小企業投資促進税制

固定資産にかかる優遇税制の中小企業の判定時期は事業供用日です。

少額減価償却資産の取得価額の単位

固定資産の取得価額が30万円未満かどうかは単体で判断するとは限らず、応接セットなどテーブルと椅子が一体となって機能する場合は、複数の設備を取得価額の単位とします。

少額減価償却資産の特例と中小企業投資促進税制を受けるタイミング

少額減価償却資産の特例と中小企業投資促進税制など固定資産にかかる優遇税を受けるタイミングは事業供用日である、いずれかを指します。

  • 実際に使用した日
  • 使用可能な状態になった日

優遇税制を受ける際の注意点〜消費税編〜

消費税の優遇税制はルールが細かく、誤った適用により損失を被るケースがあります。

簡易課税制度の注意点

簡易課税制度の適用を受ける際の注意点は次の通りです。

(1)届出書の提出期限

簡易課税制度の適用を受ける場合、消費税簡易課税制度選択届出書の提出期限はいずれかになります。

  • 原則:簡易課税制度の適用を受ける年度の前年度末日
  • 設立年度の特例:設立年度の末日

(2)2年間の縛りがある

簡易課税制度を選択した場合、たとえ実額計算のほうが仕入税額控除を多く計上できても、原則2年間は計算方法の変更が認められません。

(3)消費税の還付が受けられない

簡易課税制度は課税売上高にみなし仕入率をかけて計算するため、必ず納税額は発生し、還付されることがありません。

免税事業者になった場合の注意点

免税事業者は預かった消費税がプールできるため優遇されていますが、デメリットや注意点もあります。

(1)還付が受けられない

消費税を納付しない代わりに還付も受けられません。そのため、免税事業者が還付を受けるためには、自ら課税事業者を選択する必要があります。

(2)棚卸資産にかかる消費税に注意

「免税事業者→課税事業者」または「課税事業者→免税事業者」に変更する場合、仕入税額控除を計算するときに、課税事業者のときに購入した棚卸資産の期末残高にかかる消費税を次のように調整する必要があります。

  • 免税事業者→課税事業者:仕入税額控除にプラス
  • 課税事業者→免税事業者:仕入税額控除からマイナス

(3)簡易課税制度の効力は残ったまま

簡易課税制度を選択している法人が免税事業者になった場合、その効力は残ったままです。

課税事業者を選択した場合の注意点

消費税の還付を受けるために課税事業者を選択した場合の注意点は次の通りです。

(1)届出書の提出期限

課税事業者を選択する場合、消費税課税事業者選択届出書の提出期限はいずれかになります。

  • 原則:課税事業者として選択する年度の前年度末日
  • 設立年度の特例:設立年度の末日

(2)2年間または3年間の縛りがある

課税事業者を選択すると原則2年間は免税事業者になれません。ただし、課税事業者を選択した年度から2年以内に調整対象固定資産(税抜100万円以上の固定資産)を購入した場合、免税事業者になれない期間が3年間に延長されます。

(3) 手続きをしないと免税事業者になれない

消費税課税事業者選択不適用届出書を提出しない限り、たとえ基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも免税事業者になれません。提出期限は前年度末日です。

まとめ

中小企業の優遇税制はルールが細かく、間違いやすいのが特徴です。しかも、節税効果に比例して税務調査でのリスクが多くなります。そのため、優遇税制を受ける際は慎重になる必要があり、不安なら専門家に相談することをおすすめします。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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