生命保険は相続対策にも使えます!その活用法、注意点を解説

[取材/文責]マネーイズム編集部
河鍋公認会計士・税理士事務所代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)

生命保険(死亡保険)に加入していれば、「一家の大黒柱」が亡くなっても、残された家族に生活資金などを残すことができます。同時に、その保険が相続税の節税をはじめとする相続対策としても有効なことをご存知でしょうか。どのように「使える」のか、その際の注意点も併せて解説します。

相続税とはどんな税金か

最初に相続税について概観しておきます。

基礎控除額を超えた遺産額に課税される

相続税は、被相続人(亡くなった人)の残した現預金、不動産、有価証券、貴金属や骨董品など、すべての財産が課税対象になります。ただし、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除額があって、相続財産の総額がこれを下回る場合には、基本的に申告・納税の必要はありません(※)。

税金は、相続財産額から上の基礎控除額を差し引いた金額に課税されます。相続財産(法定相続分に応ずる取得金額)が多いほど税率も上がっていく「累進課税」になっているため、遺産が多い場合には、必要な対策を講じないと納税額が膨らみます。

※配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などの各種制度を利用した結果、基礎控除額を下回るケースでは、税務署への申告が必要になる。

課税対象の相続は増加傾向にある

高齢化に伴って、相続の発生件数は増加傾向にありますが、その中で相続税の課税対象になる案件の割合は、9%強になります。2015年に、今説明した相続税の基礎控除額が大幅に引き下げられたことから、以前は4%そこそこだった課税対象が拡大しました。特に注意すべきは、東京などの大都市圏に自宅があるケースで、被相続人の残した現金が少額でも、不動産の評価額で基礎控除額をオーバーし、相続税を課税される事例が多くなっています。

2013年度から2022年度までの統計で、相続税申告が提出された相続財産税の占める財産で構成比率が高いのは「土地」と「現金・預貯金」です。「相続税がかかるのは富裕層だけ」という話は過去のものになってしまっています。

河鍋公認会計士・税理士事務所代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)

生命保険を利用して相続税の節税ができる

生命保険金は「みなし相続財産」になる

では、生命保険を活用した節税とはどういうものなのか、みていきましょう。まず、相続の際に受け取った生命保険金の扱いに、民法と相続税法で違いのあることを理解してください。

民法上、生命保険金は「受取人固有の財産」とされ、被相続人の相続財産には含まれません。例えば、被相続人が長男を受取人として契約していた生命保険の保険金は、全額を長男が受け取ることができ、遺産分割の対象になったりはしないのです。

一方、税法上は、生命保険の保険金は「みなし相続財産」という扱いになり、相続税の課税対象には含まれます。そうしないと、被相続人が資産の多くを保険料に変えて生命保険を契約し、亡くなったら保険金の形で、無税で高額の現金を相続させる、ということが無制限で可能になってしまうからです。

保険金には非課税枠があり、節税に使える

ただし、税法上、生命保険には次のような非課税枠があって、この分は課税対象の相続財産から差し引くことが認められています。

  • 生命保険金の非課税枠=500万円×法定相続人の数

相続人が仮に配偶者と子ども2人の3人だったら、1,500万円が非課税枠となり、この金額までは相続税ゼロで保険金を受け取ることができるわけです。

生命保険を使った相続税の節税とは、すなわちこの非課税枠を使った節税です。簡単に説明すると、以下のような仕組みになります。

  • 節税策なし:被相続人が相続時に1,500万円の現金を残していた
    相続人が受け取った1,500万円は、そのまま相続財産としてカウントされる
  •  

  • 節税策あり:被相続人が生前に1,500万円の保険料を支払って、3人の相続人が総額1,500万円の保険金を受け取れる生命保険に入っていた
    相続人が受け取った1,500万円は、(みなし)相続財産としてカウントされない

さきほども説明したように、相続税は累進課税方式になっているため、相続財産の総額を減らせる非課税枠は、大きな意味を持ちます。他の財産の状況によっては、このスキームを実行することで、総額を基礎控除の範囲内に収めて、相続税ゼロにすることができるかもしれません。

保険料を誰が支払うかに注意

なお、被相続人が夫だった場合、生命保険が相続税の節税になるのは、

    ①契約者(保険料を支払う人)は夫
    ②被保険者(保険を掛ける対象)は夫
    ③受取人は妻や子

の場合であることに、注意が必要です。あくまで、被相続人が保険料を負担していたことが条件になります。

生命保険には、これとは別の契約の仕方も可能で、

    ①契約者は妻
    ②被保険者は夫
    ③受取人は妻

の場合には、相続税ではなく、妻に所得税・住民税が課税されます。妻が自分で保険料を払い、自分で保険金を受け取ることになるからです。

また、

    ①契約者は妻
    ②被保険者は夫
    ③受取人は子

だと、子に贈与税が課税されます。この場合は、妻から子への贈与とみなされます。

「保険金には税金はかかりませんよね?」とご質問を頂く機会は多いです。本文のように契約者と被保険者、受取人が誰なのかによって課される税金の種類が異なります。税金が異なれば納めるタイミングも異なりますので要注意です。

河鍋公認会計士・税理士事務所代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)

生命保険を使った生前贈与

これとは別に、生命保険を使って子どもに財産を贈与し、節税することもできます。今の相続税の節税スキームと比較して、トータルの税金の支払い額が少なくなる場合には、選択を検討する意味があるでしょう。

この方法では、①契約者と③受取人を子どもにして、②被保険者を親にします。保険料は契約者である子どもが負担することになるのですが、そのお金を親からの贈与でまかなうのがポイントです。贈与税には、年間110万円という非課税枠があります。これを利用して、時間をかけて保険料を支払っていくことで、贈与税ゼロないし少ない税負担で、親の死後に子どもが保険金を受け取れます。

この方法で保険金を受け取った場合、その金額には、相続税ではなく所得税・住民税が課税されます。相続税の非課税枠を使った節税とどちらが有利なのかは、遺産額や対策を実行できる期間などにより、違ってきます。活用を考える場合には、専門家のアドバイスを受けながら、きちんとシミュレーションしてみる必要があります。

相続税や贈与税の節税対策に万人に当てはまる究極の方法はありません。
財産の種類や金額、相続人の数や状況によって適切なスキームがそれぞれ異なりますので事前のシミュレーションは大切だと思います。

河鍋公認会計士・税理士事務所代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)

節税以外にもメリットがある

相続での生命保険の活用には、節税以外にもメリットがあります。

財産の受取人を指定して、確実に渡すことができる

最初に述べたように、生命保険の保険金は、受取人の固有の財産です。被相続人の死後、指定された人は他の相続人の意向などに関係なく、保険契約に記された金額の保険金を受け取ることができます。

被相続人が遺言書を残せば、やはりその意志に沿った遺産分割は可能です。ただし、法定相続人には、遺留分(最低限受け取れる遺産の割合)が認められているため、それを侵害して財産を受け取った場合には、他の相続人からその分を請求されるかもしれません。保険金には、原則としてそうした問題は起こらないのです。

遺言書がない場合には、相続人全員による遺産分割協議で、財産の分け方を決めることになります。すんなりまとまらなければ、「争続」に発展する可能性もあります。受取人を指定した生命保険には、そうした揉め事を防ぐ、という効果も期待できるでしょう。

スムーズに現金化でき、納税資金にも使える

金融機関が預金者の死亡を知ると、その口座はいったん凍結されます。遺産分割協議がまとまるまで、原則として被相続人の預金を引き出すことはできません。これに対して生命保険の保険金は、請求すれば、比較的速やかに支払いに応じてもらえます。

遺産を相続税の納税資金の一部に充てようと考えていたにもかかわらず、納税期限(相続発生から10ヵ月)までに遺産分割協議がまとまらないこともありえます。相続財産に不動産が多く現預金が少ない場合などにも、納税資金に困ることが珍しくありません。被相続人がまとまったお金をスムーズに受け取れる生命保険に加入していれば、そうした事態に備えることが可能です。

相続放棄しても受け取れる

相続では、現金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産があったら、それも引き継がなくてはなりません。マイナスがプラスを上回るようなときには、相続放棄を選択することもできます。ただし、相続放棄をすると、プラスの財産を含む相続財産のすべてが「相続不可」になります。

しかし、生命保険金は受取人固有の財産ですから、たとえ相続放棄をしても受け取ることができるのです。ただし、相続税の納税に際しては、生命保険の非課税枠を使うことはできません(非課税枠を計算する法定相続人の人数にはカウントされます)。

生命保険を利用する際の注意点

他方、相続対策として生命保険を利用する際には、以下の点に注意する必要があります。

保険料の支払いリスク

当然のことながら、保険金の支払いは、契約した保険料の払込みが前提になります。全額を払い込む一時払いならば問題ありませんが、長期に渡って払い込んでいく場合には、それが可能な無理のないプランニングを考える必要があるでしょう。

非課税枠が使えるのは相続人だけ

相続税対策に有効な保険金の非課税枠は、法定相続人が受け取った場合にのみ利用できる点にも、注意が必要です。相続放棄した人が非課税枠を使えないのは、法的に「相続人ではない」とみなされるからです。

改めて、相続放棄した人がいる場合をまとめます。
「相続税の基礎控除額」や「生命保険金等の非課税枠」の計算には影響は与えません(相続放棄がなかったものとして計算します)が、生命保険金等の非課税枠を使うことはできません。あくまでも相続をする人に対する制度であるためです。

河鍋公認会計士・税理士事務所代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)

「著しい不公平」は問題になることも

「生命保険の保険金については、原則として遺留分の問題は起こらない」といいました。ただし、保険金の受取人である相続人とその他の相続人との間に著しい不公平が生じる場合は、生命保険金が遺留分の対象になることがあり得ます。具体的な基準があるわけではないのですが、例えば子どもの1人だけに高額の保険金を渡すといった行為には、遺留分侵害のリスクがあることも、頭に入れておいてください。

まとめ

生命保険は、節税のほか、「争続」の回避、相続人の納税資金の確保をはじめとする相続対策に有効です。活用の検討や実行に当たっては、必要に応じて、相続に詳しい税理士などの専門家にサポートを依頼しましょう。

記事監修者 河鍋税理士からのワンポイントアドバイス

今回は生命保険と相続対策について解説をしてきました。
相続対策の代表例として挙げられる生命保険ですが、保険契約をしているだけでは十分ではありません。あくまで相続対策として有効なのは、「契約者(保険料負担者)が被相続人」の場合のみです。これ以外のケースでは所得税・住民税や贈与税等、相続税以外の税金が課せられるため、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠も適用できません。
「とりあえず営業マンに言われるままに契約した…」という方や「終身保険だと思っていたら掛け捨ての定期保険だった…」という方も意外と多いので、ご自身の保険証書を今一度ご確認されることをお勧めいたします。
生命保険は本来、万が一のときに残される家族のためにお金を残すためのものです。事前にしっかりと検討をした上で契約をし、残される家族のために自分の財産を守る方法を選択していきましょう。
具体的な対策やシミュレーションは、相続税や贈与税に詳しい税理士にご相談されることをお勧めします。

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河鍋公認会計士・税理士事務所代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)

大手監査法人、税理士法人で会計監査、相続税申告を数多く担当し、独立。物腰が柔らかく、真面目な30代の若手代表が運営しており、"気軽に"そして"気楽に"相談できる事務所を目指す。個人・法人の税務顧問はもちろん、資産税や株式上場支援まで幅広くサービス提供しており、顧客のベストパートナーとしてあり続ける会計事務所。

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