新型コロナで地価が下落でも、「路線価」の減額は見送りに

[取材/文責]マネーイズム編集部

9月と10月、地価についての2つの調査結果が公表されました。国土交通省の「基準地価」と、国税庁の「路線価」に関する臨時調査です。新型コロナウイルス感染症の地価への影響を測る数値として注目を集めましたが、予想通り3大都市圏を中心に無視できない下落を示す結果となりました。ただし、数字次第では路線価の下方修正を行う可能性があるとしていた国税庁は、それを見送る方針を明らかに。その決定の背景と、予想される影響を中心に解説します。

「基準地価」「路線価」とは?

新型コロナによる経済活動の停滞は、当然、土地の相場にもマイナス要因として働きます。コロナ禍が顕在化した今年春以降、どのくらい値下がりしているのかに注目が集まっていたわけですが、2つの調査結果をみると、あらためてこの感染症が「ただ者ではない」ことが実感できます。

 

ところで、そもそも「基準地価」と「路線価」はどう違うのでしょうか? 実は、土地は「1物4価」と言われ、このほかに「公示地価」、「固定資産税評価額」というモノサシもあります。本題に入る前に、ごく簡単に整理しておきましょう。

 

毎年3月半ばに国土交通省が発表するのが、「公示地価」です。調査主体は国で、毎年1月1日時点の「標準地」(その地域で標準的だと国交省の審議会が判断した土地)の価格です。

 

「路線価」は、国税庁が毎年7月1日に発表します。やはり1月1日時点の評価で、相続や贈与で土地取引があった場合の税金の算定基準となるものです。

 

「基準地価」は、9月中旬下旬に発表されます。調査主体は地方自治体ですが、調査の目的や評価方法は公示地価とほぼ同じ。ただし、こちらは、毎年7月1日を基準日に評価を行います。

 

最後に、3年に1回、地方自治体の発表するのが、「固定資産税評価額」になります。その名の通り、持ち家のある人が支払う固定資産税の基準になる価格のことです。

基準地価は、全国平均で3年ぶりに下落に転じた

具体的な調査結果をみていきましょう。まず、9月29日に発表された基準地価について。

 

今年の基準地価は、7月1日が調査の基準日だったことによって、にわかに注目を集めることになりました。公示地価や路線価が新型コロナがこれほど重大な問題になるとは予想されていなかった今年1月1日の調査なのに対して、基準地価は「禍」が急速に拡大した春以降の状況を反映しているからにほかなりません。期せずして、コロナの地価への影響が初めて明示される指標となったわけです。

 

調査結果について、国交省はリリースで概要次のように述べています。

 

「2020年都道府県地価調査の結果では、全国全用途が17年以来3年ぶりに下落に転じ、全国住宅地の下落幅が拡大し、全国商業地が15年以来5年ぶりに下落に転じるなど、新型コロナウイルス感染症の影響により、これまでの回復傾向から変化した。」

具体的には、

 

〈全国平均〉

  • 全用途平均は、昨年の+0.4%から-0.6%で、下落に転じる
  • 住宅地は、-0.1%から-0.7%と、下落率が拡大
  • 商業地は、+1.7%から-0.3%と、大幅に下落

〈3大都市(東京、名古屋、大阪)圏〉

  • 全用途平均は、同じく+2.1%から今年はほぼ横ばいに
  • 住宅地は、+0.9%から-0.3%と、下落に転じる
  • 商業地は、+5.2%から+0.7%と、上昇率は大幅に鈍化

 

などとなっていて、全国平均に比べて3大都市圏の値下がり幅が大きく、なかでも商業地の受けた打撃の大きいことが見てとれます。コロナによるインバウンドの落ち込みが影響したのは、明らかでしょう。

路線価でも大都市圏で大幅な下落は見られたが

次に、10月28日に発表された路線価の臨時調査です。さきほど説明したように、通常路線価は、その年の1月1日時点の調査を基に決められるのですが、やはり今年は、その後のコロナ禍の影響を正確に測る必要が生じたため、6月までの半年間の動向をあらためて調べたわけです。

 

国税庁は、7月の通常の路線価の発表の際、「広範な地域で大幅な地価下落が確認された場合などには、納税者の皆様の申告の便宜を図る方法を幅広く検討いたします」としていました。

「申告の便宜を図る」とは、「路線価を下げます」ということ(なぜなのかは後述します)。実際にはどんな結果だったのでしょうか?

 

調査は、全国約1,900ヵ所の地点について、外部専門家に委託するかたちで行われました。それによると、1月からの半年間に地価が15%以上下落した地域が、やはり3大都市圏に、名古屋市中区錦、大阪市中央区宗右衛門町(いずれも-19%)、東京都台東区浅草(-16%)など6ヵ所ありました。

 

しかし、結果的には、今回の路線価の減額補正は見送りになりました。理由は、国税庁が、独自調査に加え、さきほどの基準地価の数値(全国全用途平均で0.6%下落など)も踏まえ、「広範な地域で大幅な地価下落」にはなっていないと判断したからです。

「大幅」の基準はどこに?

国税庁がわざわざ路線価の減額補正に言及するのは、それが相続税や贈与税算定のベースになるからです。実際に土地が大幅に値下がりしているのに課税のベースをそのままにしていたのでは、割高な税を取られることになってしまうでしょう。それでは、「税の公平性」に疑義を生じさせてしまいます。

 

では、補正の根拠となる「大幅」の目安は、どこにあるのでしょうか? それについては、今回の判断について述べた文書(「令和2年分の路線価等の補正について」)に答えがありました。国税庁は、「1月から6月までの間に、相続等により取得した土地等の路線価等が時価を上回る(大幅な地価下落)状況は確認できませんでした」と説明しているのです。

 

路線価は、「地価公示価格等を基にした価格(時価)の80%程度を目途に評価」(国税庁ホームページ)された基準です。つまり、「時価が20%以上下落して、路線価のほうが高くなるような状況」が「大幅な地価下落」で、今年前半についてはそこまでは至らなかった、ということです。

 

とはいえ、土地の時価が下落しているのは事実。3大都市圏などでは、「土地が20%近い値下がりになっているのに、相続での評価額はそのまま」という状況も考えられます。また、相続した財産をすぐに売却するような場合にも、不利が生まれかねません。コロナの影響で値下がりした物件を売りに出す場合にも、相続税は1月時点の評価で支払わなくてはならないからです。

7月以降の相続では見直しの可能性も

今回の決定は、2020年1月~6月までに発生した相続についてのものです。一方で国税庁は、「7月から12月まで(7月から12月までの相続等適用分)に、広範な地域で大幅な地価下落が確認された場合の路線価等を補正するなどの対応については、今後の地価動向の状況を踏まえ、後日、改めてお知らせします」とアナウンスしています。

 

仮に、今後、路線価の補正があった場合、すでに相続税などの申告・納税を済ませていても、更正の請求(※)で、払い過ぎは取り戻せるものと思われます。

※更正の請求
税金を払い過ぎた場合、法定申告期限から5年以内ならば、税務署に対して還付請求ができる。

まとめ

基準地価と路線価の臨時調査の結果が相次いで公表され、コロナ禍による土地の下落が可視化されました。ただし、今年1月~6月の相続などに関しては、注目されていた路線価の減額は行われないことになりました。

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