所属タレントへの「お年玉」で追徴課税ジャニーズ事務所の問題はどこにあったのか?
2022年末、ジャニーズ事務所が、毎年所属タレントに渡していた「お年玉」に関連して東京国税局の税務調査を受け、約4,000万円を追徴課税されていた、というニュースが流れました。この出費を会社の経費として計上していたということですが、どこが問題だったのでしょうか? そもそもお年玉に税金はかかるのか? 今回はこの問題を考えてみたいと思います。
「事件」の概要
渡した現金は5年で総額9,000万円
ジャニーズ事務所の一件がどんな出来事だったのか、まずは22年12月27に配信された時事通信の記事を引用します。
ジャニーズ事務所(東京都港区)とグループ会社2社が、所属タレントに渡していた「お年玉」を経費として計上し、所得税の源泉徴収を行っていなかったとして、東京国税局による税務調査で計約4000万円を追徴課税されていたことが27日、関係者への取材で分かった。
お年玉は毎年年始に渡され、2022年までの5年間で総額約9000万円に上ったという。(略)ジャニーズ事務所を含め3社とも藤島ジュリー景子氏が社長を務めている。既に修正申告は済ませたという。
この記事が“第一報”だったと思いますが、ちょっと不親切で、わかりにくい記述になっています。例えば、「所得税」とは誰の税金なのでしょう? その後の報道なども踏まえてポイントを整理すると、以下のようになります。
ジャニーズ事務所のスタンス
同社は、毎年タレントに渡していたお年玉を会社の経費(必要経費)として計上していました。「経費」というのは、会社が売上を上げるために必要な出費、例えば従業員への報酬、外注の費用、光熱費などのことです。経費に該当するものは、税金(会社の場合は法人税)を計算するベースになる所得から差し引くことができますから、この金額が大きくなるほど節税につながります。
同社は、タレントへのお年玉を経費の1つである「交際費」として経費処理し、税務署に申告していました。経理上の「接待交際費」とは、「取引先との会食、お中元やお歳暮などの贈答品にかかった費用」を指します。
タレントなどの芸能人の多くは、それぞれが個人事業主として芸能事務所と契約して仕事をしています。事務所から見れば「取引先」ということもできるでしょう。ただし、お年玉は通常、渡す側の「心遣い」から支出されたもので、事業とは直接関係ない(=経費にはならない)という考え方が一般的です。
国税は「経費に当たらず」
しかし、国税当局が今回、同社の申告に「ノー」を突きつけたのは、それが理由ではありませんでした。第1のポイントは、「このお年玉は、そもそも会社から支出されたものではない」と判断したことです。
実は同社のお年玉は、毎年藤島社長が封筒に入れ、一人ひとりに渡すのが習わしでした。封筒の中身は「最高数十万円」とされ、金額には差があったようです。こうしたことから、当局は「お年玉は、藤島社長の個人的な支出」と断じたのでした。
「所得税の源泉徴収漏れ」とは?
そのうえで、国税当局は、同社など3社に4,000万円の追徴課税を課しました。
しかし、待ってください。今、お年玉は会社の支出ではなく、藤島社長が個人的に配ったものだ、という当局の指摘を紹介しました。ならば、どうして藤島氏ではなく、会社が追徴というペナルティを課されることになったのでしょうか?
その理由が、記事にある「所得税の源泉徴収を行っていなかった」ことです。「源泉徴収」とは、納税者本人に代わって給与や報酬の支払者が所得税を徴収し、本人に代わって納税する制度をいいます。今回の事例では、藤島社長が個人的に支出した金額は、結果的に会社からの「賞与」(所得)に当たる、とされました。だから、会社は、そこから所得税分を源泉徴収して納税すべきだったのに、それを怠った、というのが国税当局の見解なのです。
追徴課税の中身
「追徴課税」とは、申告・納税額が本来納めるべき税額(本税)よりも少なかったり、納税自体が遅れたりした際に、本来の納税額との差額が課税されることをいいます。同時に、ペナルティとして「加算税」などが上乗せされることもあります。
その加算税には、次のようなものがあります。
- 過少申告加算税:期限内に申告・納税をしたが、本来の納めるべき税額より少なかった場合
- 無申告加算税:期限内に申告・納税を行わなかった場合
- 不納付加算税:源泉徴収して税金を納付しなければならない法人や個人事業主が、期限内に納付しなかった場合
- 重加算税:申告の際に、意図的な隠ぺいや仮装などの不正事実がある場合
新型コロナの補助金でも「申告漏れ」
なお、冒頭の記事には、続きがありました。
これとは別に、ジャニーズ事務所とグループ会社3社が21年までの5年間に計約65億円の申告漏れを同国税局から指摘されたことも分かった。国の補助金を収益として計上する時期に誤りがあったなどとして、過少申告加算税を含む法人税など計約19億円を追徴されたとみられる。
新型コロナウイルスによる音楽、演劇の公演中止や延期に伴って支給された「コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金」などが指摘の対象で、計上時期の誤りについては意図的な所得隠しではないと判断された。
もらったほうは「お咎めなし」なのか?
お年玉に話を戻すと、ジャニーズ所属タレントのほうは、毎年、最高数十万円の現金をもらっていました。こちらについては、税金の問題は発生しないのでしょうか?
このケースでは、お年玉は社長からタレントへの「贈与」とみなされます。納税義務が生じるとしたら贈与税ですが、金額は最高でも1人数十万円なので、非課税と判断されたのでしょう。この点については、次に説明します。
「お年玉と税金」の注意点
贈与税は問題ない?
お年玉は、私たちにとっても身近なものです。ただ、その税金について考えたことは、あまりないと思います。実際は、どうなっているのでしょうか?
国税庁は、「贈与税がかからないもの」の1つとして、「個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物または見舞いなどのための金品で、社会通念上相当と認められるもの」を挙げています。子どもが親や親戚からもらう通常のお年玉は、これに該当すると考えていいでしょう。
ただし、「お年玉なら、いくら渡しても無税」というわけではありません。贈与税には、年間110万円という基礎控除額があり、この範囲ならば税金はかかりませんが、これを超える分には、原則として課税されることになります。ジャニーズのタレントたちは、このラインを超えなかったために、問題にはされませんでした。
従業員へのお年玉
従業員にお年玉を配ろうと考える社長が、いるかもしれません。そういう場合には、注意すべきことが2つあります。
1つは、さきほども述べた「支出を経費にするのは難しい」ということ。取引先の指定に渡すような場合も同じです。この点を誤解して経費で落としたりすると、税務署に指摘されるリスクが生まれます。
もう1点は、賞与などと同様の扱いとなり、従業員の所得にカウントされる可能性があることです。所得が増えるのはいいことですが、所得税や住民税の負担も増えます。また、会社はその分も忘れず源泉徴収しなくてはなりません。
まとめ
ジャニーズ事務所所属タレントへのお年玉は、会社の経費として認められなかっただけでなく、社長の藤島氏の個人的な支出とされました。会社の従業員や関係者にお金を渡すときには、「渡し方」に十分な注意が必要です。
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