ロシアが排除された“SWIFT”とは?SWIFTの仕組み、排除の影響、他国の動向などを解説

[取材/文責]マネーイズム編集部

当初は首都キーウを数日で制圧できると踏んでいた…とも伝えられるロシアによるウクライナ侵攻。しかし、その思惑は外れ、戦いは長期化の様相を見せています。欧米諸国などから武器援助も受けたウクライナ軍の激しい抵抗に遭っているためですが、同時に各国の厳しい制裁の結果、足元の経済が揺らぎ始めていることも、ボディーブローのように効いているようです。
ところで、今回の対ロ経済制裁の柱は、「ロシアの銀行をSWIFTから排除する」というものでした。SWIFTとはどんな仕組みで、そこから締め出された結果、何が起きたのでしょうか?

泥沼化する戦況

当てが外れた首都の早期陥落

ロシアがウクライナに侵攻を開始した当初、国際的にも、強大な軍隊の前に小国ウクライナは長くはもたないだろう、という見方が優勢でした。ところが蓋を開けてみると、ロシアはウクライナ軍の予想外の“善戦”に苦しみ、一部でジェノサイド(集団殺戮)の疑いをかけられるような戦いを余儀なくされています。

首都キーウの制圧を目指したロシアでしたが、とりあえず断念。現在は「キーウ、チェルニヒウなどのウクライナ北部方面から後退し、ハルキウ、ドンバス地域といった東部方面及びマリウポリなどの南部方面への攻撃を強化」(2022年4月12日時点、防衛省ホームページより引用)しています。

ロシアの戦費は1日3兆円?

戦争の長期化によって、ロシアは戦費の増大という点でも想定外の事態に見舞われています。報道によれば、英国の調査研究機関などが3月下旬、ロシアの戦費に関し「最初の4日間は1日あたり70億ドル(約8,610億円)、5日目以降は200億~250億ドル(約2兆4,600億~3兆750億円)に膨らんだ」と試算したそうです(「読売新聞オンライン」2022年3月30日)。
ロシアの戦費については他にもさまざまな試算が行われていますが、いずれにしても年間の歳入が25兆ルーブル(約31兆2,500億円)程度の同国にとって、「過大な出費」であるのは、間違いありません。

加えて、武器の供与など国際的な支援を受けるウクライナとは反対に、ロシアは強力な経済制裁により資金ショートになりかかっている、という現状があります。ロシアは4月4日、ドル建て国債21億ドルの償還(支払い)を自国通貨ルーブルで行いました。経済制裁により、アメリカ財務省がロシア中央銀行の外貨準備(ドル)を凍結したからです。

ともあれ、支払いができなければ「デフォルト」になるところでしたが、それはなんとか免れました。ただし、ドル以外での償還は契約違反であり、救済措置である30日以内のドルの支払いができなければ、正式にデフォルト認定となる見込みです。

SWIFT(スウィフト)とは何か?

SWIFTからの排除は「経済制裁の最終兵器」「金融版核兵器」とも

アメリカは、ウクライナ侵攻前から、「そんなことをすれば、ロシアの金融機関をSWIFTから締め出す」というカードをちらつかせてきました。そして、侵攻後の3月2日、EU(欧州連合)とアメリカは、実際にロシアの複数の銀行をSWIFTから排除したのです。

SWIFTとは「国際銀行間通信協会」のことで、ひとことで言えば、世界中の銀行間の金融取引の仲介と実行を行う民間の非営利団体なのですが、経済制裁という視点からは、ここからの排除は「最終兵器」とも「金融版の核兵器」(ルメール仏経済財務相)ともいわれます。なぜなのか、詳しく見ていきましょう。

金融取引の安全性を担保

SWIFTが担っているのは、国際送金・外国為替・証券取引などに関する金融機関同士の金融情報のやり取りです。自ら口座を持っていたり送金業務を行ったりするわけではなく、加盟する金融機関に対する迅速で安全性の高い情報伝達サービス(例えば「○○銀行にいくら送金してもらいたい」といったメッセージの中継)を提供しています。この団体が各国の金融機関を結ぶ国際的な決済ネットワークとして機能することにより、スムーズな国際間の資金移動を可能にしているわけです。

1973年に各国の銀行によって協同組合形式の団体として設立され、現在は約200か国・地域から1万超の金融機関などが参加し、決済額は1日平均5兆ドル(約630兆円)に上ります。世界中の高額決済の約半分が、このネットワークを利用して行われているといわれ、事実上国際決済における標準システムとなっているのです。

排除されるとどんな影響が?

ロシアが受ける影響

経済制裁により特定の国の金融機関がSWIFTから排除されたのは、実は今回が初めてではありません。2012年には、核開発疑惑が浮上したイランに対してこの制裁が発動され、同国の原油の輸出額が半減したという先例があります。

SWIFTから排除されたことで、そのネットワークを使っていたロシア企業などは、海外企業との決済が困難になっています。例えば、何かを輸出してもその代金を受け取れない、という事態が発生します。海外からの投資や借入も受けられなくなることから、ロシア経済は大きな打撃を被るのが避けられません。

また、主要な金融機関がグローバルな決済システムから排除されたことは、ロシアの通貨ルーブルの暴落を招いています。日本の急激な円安と同様で、自国通貨の下落は輸入品の高騰という形で国民生活を圧迫しつつあります。

さきほども触れた対外債務(国債の償還)の問題も、待ったなしの状況です。SWIFTからの排除により、外貨調達の幅は狭まりました。欧米や日本などによるロシア中銀の外貨準備の凍結(外貨が引き出せない)も相まって、デフォルトの危機がますます現実味を帯びているのです。

他国が受ける影響

貿易や海外投資には、相手国(企業)があります。ロシア企業の経済活動が阻まれるということは、それと裏腹に、ロシアと取引のあった相手も個別にダメージを受けることを意味します。

特に影響が大きいとされたのが、石油や天然ガスなどのエネルギーと、小麦などの穀物です。中でもロシアへのエネルギー依存度が高いヨーロッパでは、当初SWIFTからの排除には消極的な意見も多く聞かれたほどです。

ロシアの打撃は限定的、という見方も

そのため、SWIFT排除によるロシア経済への影響は限定的だ、という見方もあります。実は、SWIFTから排除された銀行に、国営ガス会社ガスプロム傘下の「ガスプロムバンク」は含まれていませんでした。ここはロシア産の石油・天然ガス関連の“メインバンク”なのですが、この決済ルートが遮断されることを、誰あろうEUが恐れたからにほかなりません。
そうしたこともあって、制裁下においてもロシアの経常収支は大幅な黒字が続いています。石油・天然ガスの収入は、少なくとも1日に11億ドル(1,350億円)に上るとされます。

気になる中国の動向

ところで、ロシアの銀行のSWIFT排除が断行される中、それとは別の決済ネットワークであるCIPS(人民元国際決済システム)がクローズアップされました。これはその名の通り、中国が人民元の国際決済のために構築したシステムで、決済だけでなく送金情報の伝達機能を有しているといいます。中国の「一帯一路」政策参加国などの1,288行が参加(2022年4月1日時点)し、中には日本の銀行も含まれています。このシステムが、ロシアにとって代替手段になりうるのではないか、という憶測が浮上したのです。

ただ、決済は人民元に限定されており、送金情報の伝達においてはSWIFTに接続し、同システムに依拠している部分が大きいといいます。そのため、ロシアの救世主とはならないという見方が支配的ですが、資金決済の一定部分を担う可能性はあるようです。

こうしたことも含めて、ロシアへの経済制裁の効果という点では、それに反対の立場をとってきた中国の出方が注目されます。中国は、3月2日に行われた国連のロシア非難決議を棄権するなど、「親ロシア」の姿勢を明確にし、その見返りとしてロシア産のエネルギーや穀物を安価に入手しているとも報じられています。

一方で、アメリカ・バイデン政権は、中国によるロシアへの軍事的・経済的支援があった場合には、同国に対しても経済制裁を課す意向であることを明らかにしました。制裁で経済が混乱するのは、今秋に共産党大会を控える習近平政権にとっても大きなリスクです。そうしたこともあってか、戦争が長期化する中で、中国は表向きの「欧米批判」を抑えるスタンスをとっています。

まとめ

SWIFTは世界各国の銀行を結ぶネットワークを構築し、安全性の高い送金などを担保しています。ウクライナ侵攻に対する制裁措置として、ロシアの複数の銀行がそこから排除されたことは、ロシアはもとより取引のある海外にも影響を及ぼしました。日本も例外ではなく、輸入に依存する燃料や食料品などの高騰の一因となっています。

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