エリザベス女王が与えた世界経済への影響とは?イギリス経済の現状も

[取材/文責]田中あさみ

2022年9月8日に亡くなったエリザベス女王は70年という長期に渡り在位し、イギリス国民に愛されていました。6月には女王即位70周年の「プラチナ・ジュビリー」として約1兆円の経済効果が見込まれていました。本記事ではエリザベス女王の生涯と功績、世界経済に与えた影響を解説していきます。

エリザベス女王の功績とは

エリザベス女王の生涯と世界に残したもの

エリザベス女王は1926年にアルバート王子(後のジョージ6世)の長女として生まれました。
1947年にフィリップ王子と21歳で結婚し、翌年にはチャールズ王子(現在は国王)を出産します。
1952年に父・ジョージ6世が亡くなり、25歳で女王に即位します。
当時のイギリスは植民地が次々と独立を果たしていくという時期でした。エリザベス女王は戴冠式の後に、太平洋の国々やニュージーランドなどを訪問し新しいイギリスの国づくりに尽力していきました。

1965年には当時東西に分断された西ドイツを訪問し、民主国家となった西ドイツとの連帯を示しました。
差別の撲滅や民主主義の普及にも努め、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離)政策にも大きな関心を寄せました。

しかし、1997年に国民に人気のあったダイアナ元皇太子妃が交通事故で亡くなった際には「王室の対応が冷淡だった」と批判を受けました。

エリザベス女王は「開かれた王室」として王室の近代化を推し進め、直系男子を優先していた王位承継の制度を男女平等に改正し、国民にTwitterやインスタグラムで情報を発信しました。

旧植民地との親善関係の構築、王室の改革、70年間の長期に渡る在位がエリザベス女王の功績と言われています。

2022年6月は女王在位70年の「プラチナ・ジュビリー」だった

2022年6月はエリザベス女王即位70周年の「プラチナ・ジュビリー」でした。6月2日から4日間に渡り、ロンドン中心部のパレードなど数多くのイベントが開催されました。

女王をモデルに限定記念品として発売されたバービー人形(定価95ポンド)は入荷して3秒で売り切れた百貨店もあるほどの人気でした。転売サイトでは「約1,000ポンド(約16万円)の値段で取り引きされていた」と言われています。

記念品だけでも約6億1000ポンド(約980億円)の売り上げが見込まれ、イギリスの企業バウチャー・コーズの調査では、関連商戦によりイギリスに約63億7000万ポンド(約1兆円)の経済効果が見込まれると試算されていました。

エリザベス女王の死去で観光需要が増加、チャールズ国王の相続税免除が話題に

2022年9月8日にエリザベス女王は亡くなり、9月19日には国葬が執り行われました。
国葬が近くなると、観光客の増加によりロンドン中心部のホテルの価格は2倍となりバッキンガム宮殿近くの2つ星ホテル「Corbigoe Hotel」は満室となりました。

観光客だけでなく、世界各国の指導者・王族など約2,000人の参列者がイギリスに集まったことから警察関係者のための宿泊施設も必要となり需要は急激に高まりました。

2023/5/19追記

これまで公表されていませんでしたが、イギリス財務省は5月18日に、2022年9月に亡くなったエリザベス女王の国葬にかかった費用が、およそ1億6174万ポンド(日本円でおよそ278億円)にのぼったことを明らかにしました。

チャールズ国王の相続税免除が話題に

エリザベス女王の個人純資産は約3億7,000万ポンド(約600億円)と言われています。遺産は長男・チャールズ国王が引き継ぎました。

主な遺産は宮殿などの不動産・絵画のコレクションなどです。
イギリスでは代が替わることで資産が目減りしていくことを回避するために、君主から君主への相続税は免除されます。

イギリスでは現在インフレにより国民の生活が厳しくなっていることから、相続税免除に対して賛否両論の声があります。

エリザベス女王は1992年以降、個人資産に対する所得税とキャピタルゲイン税を支払っており地方税も負担しています。

しかしイギリス王室には新型コロナウイルス流行による収入減・インフレによるパーティーの主催費・王宮や邸宅の維持・修繕費などのコストの高騰という実状があります。

チャールズ国王の今後の動向が注目されます。

現在のイギリスの経済は?減税政策を公表後、通貨・国債・株価が「トリプル安」へ

IMF(国際通貨基金)の統計によると、イギリスは2021年にはG7で最も経済成長が著しい国でした。しかし、インフレやウクライナ情勢の影響などにより2022年4~6月期のイギリスの実質国内総生産(GDP)は年率換算で0.3%減となりました。

2022年9月23日にはトラス政権が所得税の最高税率を45%から40%に引き下げ、法人税率の引き上げを凍結するなど大型減税政策を発表しました。
そしてトラス首相が9月上旬に表明した光熱費の上昇抑制策に対して半年間で600億ポンド(約9兆4,000億円)が必要なことも明らかになりました。財政悪化に繋がるという懸念から為替市場ではポンドが売られ、対ドルで37年ぶりの安値となりました。

イギリス国債も急落し株式市場ではFTSE100種総合株価指数が一時2%超下げ、通貨・国債・株式の「トリプル安」という事態に陥り市場は混乱しました。

10月3日にトラス首相は、所得税の税率を引き下げる案を撤回すると発表しました。

チャールズ国王は、イギリスの経済状況が混迷を極める中で即位となりました。

チャールズ国王が50ペンス硬貨に

イギリス王立造幣局は9月30日、チャールズ国王の肖像を使用した50ペンス(約80円)硬貨のデザインを公開しました。チャールズ国王の左横顔を描いたデザインとなっています。

エリザベス女王の硬貨は、右横顔の肖像が使用されていました。イギリスの伝統では前の君主と反対を向いた肖像が利用されるため、今回のチャールズ国王もエリザベス女王とは反対の左横顔です。

硬貨は年内に流通する見通しで、新しい君主・チャールズ国王のシンボルマークとなりそうです。

まとめ

エリザベス女王在位70周年のプラチナ・ジュビリーでは、約1兆円の経済効果が試算されており記念グッズは大人気でした。9月に女王が亡くなった際には国葬が行われ、観光需要が増加しました。

一方でイギリス国民の生活は厳しい状況にあります。今後のイギリス経済と新しい王室に注目が集まるでしょう。

大学在学中に2級FP技能士を取得、会社員を経て金融ライターとして独立。金融・投資・税金・各種制度・法律・不動産など難しいことを分かりやすく解説いたします。米国株・ETFなどを中心に資産運用中。CFP(R)の相続・事業承継に科目合格、現在も資格取得に向けて勉強中。

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