ロシアのウクライナ侵攻で“値上げラッシュ”が加速する!?

[取材/文責]マネーイズム編集部

ロシアのウクライナ侵攻は、日本にとっても”対岸の火事”で済みそうにありません。各国から経済制裁を受けたロシアは、言わずと知れた世界有数の穀物やエネルギー資源の生産国。一方で攻められたウクライナも、鉄鉱やレアメタルなどの重要な資源輸出国です。これらの供給が支障をきたすことによる生産への影響やモノの値上がりが、現実味を帯びてきました。今回は、現状で日本にどのような影響が予想されるのかをまとめました。

生活必需品を直撃する値上げ

“泣きっ面に蜂”の物価上昇

国内では、昨年から光熱費や食品などの値上げが相次ぎました。その主な原因は、世界的にコロナ禍からの経済回復が鮮明になり、需要が急激に増加したことです。その流れが今年に入ってからも続くことは、織り込み済みでもありました。

『2022年が「値上げの年」になるのはなぜ?「こんなものが上がるリスト」で対策を』

ところが、そこに降って湧いたような「ロシア軍によるウクライナ侵攻」という事態が勃発し、さらに「物価上昇要因」が重なる形になったのです。しかも、影響は食品やエネルギーなど生活必需品を直撃する公算が大きく、心配の声が高まっています。

日本はロシアとウクライナから何を輸入している?

そもそも日本は、当事国のロシアとウクライナから何を輸入しているのでしょうか?おさらいしてみます(金額は2021年財務省「貿易統計」より引用)。

■ロシアからの主な輸入品

  • 1位:天然ガス(液化天然ガス=LNG) 3,772億円
  • 2位:石油 2,577億円
  • 3位:石炭(瀝青炭) 1,905億円
  • 4位:白金 1,506億円
  • 5位:アルミニウム合金 698億円
  • 6位:アルミニウム(合金を除く) 659億円

 
LNGは発電などに欠かせないエネルギーですが、日本はその10%程度をロシアからの輸入に依存しています。それに石油・石炭を含めたエネルギー資源、産業用の非鉄金属などが主要な輸入品で、21年の輸入額は、1兆5,431億円(前年比34.8%増)でした。

■ウクライナからの主な輸入品

  • 1位:たばこ 401億円
  • 2位:鉄鉱(凝結させたもの) 218億円
  • 3位:鉄鉱(凝結させていないもの) 40億円
  • 4位:アルミニウム合金 36億円

 
実はウクライナは、ネオン・アルゴン・クリプトン・キセノンといった半導体製造用不活性ガスの主要な供給国です。中でもネオンは世界シェア7割ともいわれ、ただでさえ不足気味の半導体生産への影響が懸念される状況です。日本は、鉄鋼やアルミニウム、チタンなどの資源を多く輸入しています。

「ウクライナ危機」で値上がりしそうなものリスト

ロシアのウクライナ侵攻により値上がりする可能性のあるものは、日本が両国から直接輸入している産品に限りません。以下にリストアップしてみました。

LNG、原油高⇒ガソリン、灯油、ガス、電気

ロシアは、天然ガス生産規模で世界2位、石油は同3位の資源大国です。経済制裁が必要とはいえ、特にヨーロッパは同国のエネルギー資源への依存率が高いため、関連産業に直接制裁を科す可能性は低いとみられますが、供給不安が高まっているのは事実です。

それを反映して、2月末には、原油の代表的な指標となる米国産WTI先物相場が、2014年7月以来の1バレル=100ドルをつけるような状況になっています。天然ガス相場も高騰していて、ヨーロッパが中東などからの買い付けを増やせば、さらに拍車がかかるものとみられています。

エネルギー相場の高騰がストレートに響くのが、ガソリン・灯油などの燃料です。ガソリンについては、急激な値上げを抑制するために、政府が石油元売りに対して補助金を出しています。現行1リットル当たり5円を、段階的に25円に引き上げる方針を示していますが、当面は「良くて高止まり」の状況となりそうです。

天然ガス相場の上昇が続けば、都市ガスの料金に影響するのは必至。日本の火力発電の燃料はLNGの比率が高いため、電力料金も同様です。

影響はそれにとどまりません。ガソリンや軽油の値上がりは、物流コストの上昇要因になります。石油が食品をはじめとするあらゆる商品の包装資材、農業資材などの原料であることも忘れてはいけません。”平時”であれば企業努力などで吸収することができたものも、昨年来の断続的な原材料の値上がりで、すでにその余力がなくなっている可能性が多分にあります。

小麦などの穀物、農産物⇒パン、パスタ、カップ麺、食用油

ロシアとウクライナは主要穀物の一大産地でもあり、中でも小麦の出荷量は両国で世界の25%以上を占めています。

小麦の大半を外国産に頼っている日本ですが、両国からは輸入していません。しかしながら、この地域の供給が不安定になれば、やはり相場の高騰に拍車がかかるでしょう。実際に国際指標である米シカゴ商品取引所の先物相場は、ロシアの侵攻の可能性が高まって以降、高値での推移となりました。

国内の小麦価格は、年に2回の「政府売り渡し価格」によって決まります。現在パンやめん類などの小麦製品の値上げやその発表が相次いでいるのは、昨年10月にこの売り渡し価格が20%近く引き上げられたことによるものです。4月に予定される改定で、また大幅引き上げになれば、今年後半以降さらに価格が上昇することになるでしょう。

『輸入小麦大幅値上げで気になる「政府売り渡し価格」って?』

また、世界最大のヒマワリ油の輸出国であるウクライナをめぐる危機は、パーム油や大豆油などの高騰を招いています。昨年に断続的に値上げされた国内の食用油ですが、今年もそのトレンドを引き継ぐ可能性が出てきました。食用油の値上がりは、揚げ物などそれを使う加工食品のコストアップも招きます。

水産物⇒生食用魚介類、水産加工品

日本は、ロシアからサケ・イクラ・ウニ・カニをはじめ多くの水産物も輸入しています。これらの輸入が滞るようなことがあれば、刺身や加工品のスーパーの売値などに影響が出る可能性があります。居酒屋や回転寿司のメニューも、価格改定を余儀なくされるかもしれません。

半導体の原材料⇒自動車、スマートフォン

広範な工業製品に欠かせない半導体も、パソコンなど「テレワーク需要」の急増、生産・物流の乱れなど、新型コロナも関連した需給ギャップで「品不足」に陥っていました。そこに先ほど説明したようなウクライナ産の原材料ガスの供給不安が重なることで、状況がさらに深刻化する可能性があります。

組み込まれる半導体が不足すると、自動車のほか、スマートフォンやゲーム機、家電製品など多くの製品の生産を抑制せざるを得なくなり、価格の上昇要因となります。

貴金属相場にも影響?

ロシアではプラチナなどの貴金属も産出されます。他方で「有事の金」と称されるように、世界情勢が懸念材料を抱えた際には、“安全資産”として金が買われ、今回も値上がり基調になりました。危機が長期化した場合には、こうした貴金属の相場にさらに影響を与えるかもしれません。

「停戦」後も影響が残る可能性

ロシア軍のウクライナ首都キエフ包囲が進む中、両国で停戦に向けた協議も開始されましたが、先行きは不透明です。仮に停戦が合意されたとしても、いざとなれば強権を発動するロシアに食糧や資源を大きく依存することのリスクは、強く認識される結果になりました。

一方、ロシアからすれば、各国が世界中の銀行間の金融取引の仲介を担う「国際銀行間通信協会」(SWIFT)からの排除を決めるなどの厳しい制裁に出た現実を踏まえ、ますます“自国ファースト”の立場を鮮明にしていくかもしれません。そうした状況が、ロシアが影響力を持つ資源や商品の相場に長期にわたって影響することも考えられます。

まとめ

ともに「資源国」であるロシアによるウクライナ侵攻は、私たちの家計にも影響を及ぼす可能性が高まっています。今後の情報にも注意しながら、必要なものは値上がり前に確保するなど、生活防衛に努めることを考えましょう。

中小企業オーナー、個人事業主、フリーランス向けのお金に関する情報を発信しています。

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