韓国で税滞納の外国人Jリーガーから国税が代理徴収。広がる徴税の国際協力「徴収共助」を解説

[取材/文責]マネーイズム編集部

日本のサッカーJリーグのチームに所属していた外国人選手2人(すでに退団)が来日前に韓国で滞納した税金を、韓国当局の要請を受けた日本の国税局が徴収していたことが明らかになりました。「徴収共助」というこの制度、もちろん私たち一般人も無関係ではありません。どのように運用されているのか、解説します。

税金の“踏み倒し”は許されなかった

滞納金額は計3,000万円

「朝日新聞デジタル」(1月6日)によれば、選手2人はいずれもブラジル出身で、2017~20年にそれぞれJリーグの別のチームに所属していました。1人は、J1でも活躍していたそうです。

 

2人が韓国で滞納した税金は約3,000万円。同国プロリーグに在籍していましたが、韓国の税務当局が滞納分を徴収しようとした際にはすでにJリーグに移籍し、韓国内には差押えできる財産は残されていませんでした。状況的には、「国境を越えれば、徴税を免れることができるのではないか」と考えていた疑いが濃厚です。

韓国当局の要請で国税が動く

しかし、その考えは甘かったようです。韓国当局が「徴収共助」という租税に関する国際ルールに基づいて、2人の所属チームがある地域を管轄する関東信越国税局に徴税を依頼したのです。報道によれば、これを受けて同国税局はチームが支払う報酬の一部を差押えたり、チームを通じて納付を促したりして滞納分を徴収し、韓国当局に送金しました。徴収は昨年1月までに完了しました。

他国に徴収を頼める「徴収共助」

租税に関する多国間条約を基に運用

社会や経済のグローバル化に伴って、国をまたいだ脱税や、いわゆる租税回避行動が問題視され、さまざまな対策も講じられています。ただ、今回のように、他国の税務当局に「代理徴収」を依頼できるシステムがあることについて、初耳の人も多いのではないでしょうか。

 

この仕組みは「多国間税務行政執行共助条約」という取り決めを根拠に運用されており、財務省ホームページでは次のように説明されています。

 

税務行政執行共助条約は、本条約の締約国間で、租税に関する以下の行政支援を相互に行うための多数国間条約であり、本条約を締結することにより、国際的な脱税及び租税回避行為に適切に対処していくことが可能になります。

  • (1)情報交換:締約国間において、租税に関する情報を相互に交換することができます。
  • (2)徴収共助:租税の滞納者の資産が他の締約国にある場合、他の締約国にその租税の徴収を依頼することができます。
  • (3)送達共助:租税に関する文書の名宛人が他の締約国にいる場合、他の締約国にその文書の送達を依頼することができます。

日本は2011年11月4日にこの条約に署名し、13年10月1日に発効しました。ちなみに、日本にとって租税に関する初めての多国間条約でした。

なぜ条約が必要なのか?

国際協力で脱税を許さないというのは、言われてみればもっともな話なのですが、実はわざわざ条約を結ぶ必要があるくらい、ハードルの高い行政執行でもあります。国が税金をかけたり徴収したりできるのは、その国の主権が及ぶ範囲に限られる、という大原則があるからです。

 

例えば、日本の税務当局が滞納を理由に差押えられる財産は、日本国内にあるものに限られます。ただ、そういう人が海外に潤沢な資産を持っていて、それにはまったく手が付けられないというのでは、「税の公平性」は大きく損なわれることになってしまうでしょう。そこで、そうした理念、問題意識を共有する国同士が、相互協力してこの課題に対応しようと制度化されたのが「徴収共助」なのです。

 

なお、日本において徴収共助の適用対象となる税目は、所得税・法人税・復興特別所得税・復興特別法人税・消費税・相続税・贈与税となっています。

すべての国と「共助」できるわけではない

最初の外国人Jリーガーの一件では、韓国当局の要請により日本の国税が動いたわけですが、当然日本側から他国に要請を行うケースも想定されています。ただし、説明したように、それができるのは“条約を締結済みの国”に限られます。

 

朝日新聞の報道によれば、日本がこの条約を結んでいるのは、昨年12月時点で77ヵ国・地域となっています。韓国は締約国なので同国内の滞納分についての差押えなどが行えましたが、アジアでも中国やシンガポールなどとは“未締結”の状態です。国境を越えた不正を許さないために、締約国の拡大が望まれています。

マークが強まる「海外の資産」

海外にある口座情報が丸裸に

さて、徴収共助は徴税という「行政執行」の話ですが、その前段階である情報収集においても、国際協力が目に見えて進んでいます。例えば2014年にOECD(国際経済協力機構)が、非居住者の金融口座情報(氏名・住所・口座残高など)を税務当局間で定期的に交換するための国際基準である「共通報告基準(CRS)」を策定しました。わかりやすく言えば、海外に持つ預金口座の情報が、自国の税務当局に筒抜けになるということ。現在までに100を超える国・地域がこの枠組みに基づく情報交換に参加しており、今後も参加国・地域の増加が見込まれています。

 

日本も2018年から諸外国の税務当局との間で、この枠組みに基づく情報交換を毎年実施しているのですが、2019事務年度(19年7月~20年6月)には86の国・地域から205万8,777口座の情報提供を受け、65の国・地域へ47万3,699口座の情報を提供しています(「国税庁レポート2021」)。

1件当たり約530万円を追徴

また、「令和2事務年度における所得税及び消費税調査等の状況について」(国税庁)によれば、2020事務年度には、海外投資などを行っている個人に対して2,172件の実地調査(税務調査)が行われました。

 

その結果、1件当たりの申告漏れ所得金額は2,239万円(前事務年度2,406万円)、追徴金額は527万円(同627万円)となりました。所得税の実地調査全体と比べると、申告漏れ金額が1.5倍・追徴金額は1.9倍の高水準となっています。

 

国税庁は、「富裕層」「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動(※)に係る取引を⾏っている個人」とともに、「海外投資等を行っている個人」の納税に監視の目を強めているものとみられます。

 

※国税庁は、「シェアリングビジネス・サービス、暗号資産(仮想通貨)取引、ネット広告(アフィリエイト等)、デジタルコンテンツ、ネット通販、ネットオークションその他新たな経済活動を総称した経済活動」と定義。

まとめ

 

国境を越えた脱税を許さない国際的な税の「徴収共助」の仕組みがあり、実際に成果を上げています。情報収集の進展も含めて、海外に資産を移すことによる税逃れの監視・防止対策は、今後もさらに強化されていくでしょう。

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