法人税の調査件数は減少も、1件当たり追徴額は2.5倍!「不正な消費税還付」など国税に狙われた“手口”を紹介
国税庁が公表した「令和2事務年度 法人税等の調査事績の概要」によると、新型コロナの影響で調査件数は大幅に減ったものの、実地調査1件当たりの追徴税額は前年比約2.5倍となりました。前年度に続き“悪質な不正”を確実に押さえる姿勢を貫いた結果ですが、「概要」では調査の主要な取組として、高額の申告漏れなどを指摘した事例が紹介されています。一体どのようなケースが調査のターゲットになったのでしょうか?
1件当たりの追徴額は780万円に
「概要」は、2020年7月~21年6月(20事務年度)の法人税・消費税および源泉所得税に関する“簡易な接触”も含めた税務調査(※)の結果をまとめたものです。初めにそのポイントをみておきましょう。
3年間で1割以上の法人に“接触”
新型コロナの影響は、税務調査にも及びました。
密な対面になりやすい”実地調査(調査官が法人などに出向く調査)”は、大口・悪質な不正計算が想定されるなど、調査必要度の高い法人を中心に実施されました。
その一方で、申告内容に誤りなどが想定される納税者等に対しては、“簡易な接触”により、自発的な申告内容の見直しなどの要請が行われました。“簡易な接触”とは、書面や電話による連絡や、来署依頼による面接などを指します。
“実地調査”と“簡易な接触”を合わせ、2018~20事務年度の3年間で、法人税・消費税については全体の11.2%、源泉所得税に関しては19.5%の法人に接触が持たれています。
法人税・消費税について
▼実地調査
調査件数は2万5,000件で、前年度比67.3%と大幅減となりました。ただ、申告漏れ所得金額は5,286億円(32.3%減)、それに伴う追徴税額(加算税、地方法人税及び地方消費税を含む)は1,936億円(18.2%減)で、1件当たりにすると780万6,000円・前年度比249.0%と大幅に増加する結果となりました。
▼簡易な接触
こちらの件数は前年度を上回り、6万8,000件(前年度比56.5%増)で、申告漏れ所得金額は76億円(79.2%増)、追徴税額は62億円(28.7%増)でした。
源泉所得税について
▼実地調査
調査件数は2万9,000件(前年度比68.0%減)で、非違があった件数は1万件(65.0%減)、追徴税額は145億円(50.9%減)、1件当たりの追徴税額は50万7,000円(53.2%増)となっています。
▼簡易な接触
接触件数は13万8,000件(前年度比0.6%減)、追徴税額は74億円(6.5%増)でした。
国税当局に指摘され、高額の追徴が発生した事例
では、「概要」に挙げられている、これらの税に関する不正の具体的な事例をみていくことにします。
消費税の免税取引を悪用
事業者が国内で商品を仕入れる際には消費税が課されます(課税取引)が、国外に商品を販売(輸出)する際には消費税が免除(免税取引)されます。事業者は、売上に係る消費税から仕入に係る消費税を控除して(差し引いて)マイナスとなった場合には、消費税の申告を行うことで、仕入れに係る消費税の還付を受けることができます。
A社はこの仕組みを悪用し、取引実態がないにも関わらず国内での仕入を装って架空仕入(課税仕入)を計上し、同時に国外への販売を装い仕入を下回る架空免税売上(免税取引)も計上しました。この方法で約3,000万円の還付金を記載した消費税の確定申告書を提出し、不正に消費税の還付を受けようと画策したといいます。
20事務年度には、こうした消費税還付申告法人に対し、総額219億円を追徴(うち不正還付34億円)しました。国税庁は「消費税の不正還付は、いわば国庫金の詐取ともいえる悪質性の高い行為であるため、特に厳正な調査を実施」した、と述べています。
海外取引を悪用
B社は、X国にあるペーパーカンパニー3社(いずれもA社代表者の親族が主宰)と虚偽の代理店契約を結び、3社から役務提供の実態がないにもかかわらず手数料を計上し、同国でのリベート資金を捻出していました。国税庁は、X国の税務当局に対して租税条約等に基づく情報交換要請を行い、ペーパーカンパニー3社について、B社からの収入の計上がないことを把握しました。
「概要」ではこのほか、海外取引に関して
●外国子会社に係る外国子会社合算税制の適用誤り:申告漏れ所得金額約20億円
●海外のリベート費用について、関係者への貸付金に仮装し貸倒損失を計上:同約3億円
●投資資金等について、海外送金依頼書を虚偽記載することにより費用に仮装:同約3億円
などの事例を挙げています。こうした海外取引に関する申告漏れ所得に関しては、総額1,530億円を把握したということです。
海外取引法人の源泉徴収漏れ
C社は、X国に所在する100%親会社D社に対する配当について、配当の受益者ではないD社が租税条約の免税要件を満たしているものとして、源泉徴収を行っていませんでした。しかし、調査により、実際の受益者はD社ではなく同社の出資者であり、免税の要件を満たさない=源泉徴収が必要であることが確認されました。
日本が締結している租税条約の中には、親子会社間の配当について、一定の要件を満たす場合に源泉地国における租税を軽減又は免税とする規定を設けている場合があります。ただし、この軽減又は免税の要件は、各国との租税条約によって異なります。
「概要」ではこのほか
●非居住者に支払った給与等に係る源泉徴収漏れ:追徴税額約2千万円
●非居住者に支払った不動産譲渡に係る源泉徴収漏れ:同約5千万円
といった事例が紹介されています。
無申告法人
E社は店舗での営業で多額の収入を得ていましたが、申告義務があることを認識しながら、請求書等を破棄するとともに、申告を一切せずに納税を免れていました。「概要」ではこのほか
●接待を伴う飲食店における多額の収入について、売上げに係る書類を破棄することで取引を隠蔽:追徴税額約7千万円
●不動産コンサルタント業務で得た収入について、領収証等を破棄することで取引を隠蔽:同約4千万円
などの事例が挙げられています。
国税庁は「無申告は、申告納税制度の根幹を揺るがすことになるため、資料情報の更なる収集・活用を図り、積極的に調査を実施」という基本姿勢で、この不正に臨んでいます。例えば、インターネット情報のチェック(店舗の営業時間、SNS情報、口コミ)、店舗などの現況確認(無申告なのに活況)、金融機関で口座を確認、といった手段も用いて、事業実態や取引状況について監視を行っているのです。
20事業年度には、無申告法人に対して総額162億円を追徴(うち不正会計があった法人に係る追徴税額95億円)しました。
コロナの鎮静化で税務調査件数が増える?
先述のように、このところ税務調査(実地調査)の件数が減っているのは、新型コロナが影響したからにほかなりません。そのため、今後にオミクロン株の感染が沈静化して、様々な規制が解除されることになれば、調査件数が回復する可能性は高いでしょう。特に、例年調査件数が増える秋口以降、当局が満を持して「行きたくても行けなかったところ」に調査に出向くことになりそうです。
まとめ
法人に対する税務調査は、新型コロナの影響で件数が大きく減る一方、1件当たりの追徴税が増える傾向が続きました。「消費税還付申告法人」「海外取引法人」「無申告法人」などへの調査の取り組みを強化したのも、その一因といえそうです。ただ、今後コロナの感染が落ち着けば、調査件数は増加に転じる公算大です。
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