【相続対策 前編】は「節税」だけではありません。円満な相続のために、特に不動産オーナーは生前の準備を

アスク税理士法人 代表税理士 金田誠一郎氏
[取材/文責]マネーイズム編集部 [撮影]世良武史

「うちに限って揉めるはずがない」。そう考えていても、問題が起こるのが相続だ。特に財産に不動産がある場合には、要注意。価値が高い財産であるうえに、分割するのが難しいため、“争いの種”になりやすいからである。今回は、「相続特化の提案型事務所」というキャッチフレーズを掲げるアスク税理士法人の金田誠一郎代表税理士に、相続の際の不動産評価額を抑えるポイントとともに、円満な相続のために必要なことをお話しいただく。

記事では、「前編」で不動産の相続で起こりやすい問題と対処法を、「後編」では相続税の対策と、相続を誰にいつ相談すべきかを中心に語っていただいた。

不動産が相続トラブルを生みやすい理由

――現在、何件ぐらいの相続を扱っていらっしゃるのでしょうか?

金田(敬称略) 当社は設立して2年で、総勢5名という体制なのですが、リアルな数字を申し上げると、現在進行形の案件が7件、うち3件が争いになっています。「争続」の比率が高いのは、トラブルになってから当社のことを知り、駆け込んでいらっしゃるお客さまが多い、という事情もあります。

――不動産の相続に強いことも貴社のアピールポイントになっていますが、やはり不動産の相続は、トラブルを生みやすいと考えるべきですか?

金田 はい。相続財産に不動産があると、遺産額に占める割合が高くなるのが普通です。にもかかわらず、現金のように分割するのが難しいですから、「誰がもらうんだ?」ということになりやすいのです。

遺産が高額なほど争いになりやすいと思われがちですが、決してそんなことはありません。例えば、「財産は自宅などの不動産が大半で、キャッシュはわずか」のような、分割のしにくいパターンの場合、たとえ少額であっても揉め事が起こりやすくなります。

また、不動産が賃貸アパートなどの収益物件の場合も、リスクは高まります。例えば、被相続人(財産を渡す人)が、2つのアパートを持っていたとします。仮に不動産そのものの価値は似たようなものだったとしても、毎月の家賃収入が同じとは限りません。誰しも、収益性の高い物件を欲しがるでしょう。

――そういうお話を聞くと、どんな分け方をしても、完全に平等にはならないような気がします。

金田 被相続人の遺言書がない場合、遺産の分け方は相続人による「遺産分割協議」という話し合いで決めます。相続で不公平感が高まると、その場で、必ずといっていいほど「過去の話」が始まるんですよ。「兄貴は留学の費用を出してもらったじゃないか」「お前こそ、借金を助けてもらっただろう」というような。

そういう感情レベルの話になってしまうと、解きほぐすのはなかなか大変で、それぞれが弁護士を立てて争う状況になることもあります。ちなみに、遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所による「調停」、さらには裁判で決着をつけることになります。

ただ、ここまでくると、多くの場合、元の家族関係を取り戻すのは困難になってしまいます。

不動産を含む相続の流れは?

――そもそも、不動産を持っていた親が亡くなった場合、相続はどのような流れになるのでしょうか?

金田 不動産のあるなしに関わらず、被相続人が遺言書を残していたら、遺留分(※)の侵害などがない限り、原則として遺産はその記載内容の通りに分けられることになります。「不動産は長男に、現預金は次男に譲る」と書いてあれば、不平等が生じていたとしても、その内容で分割されます。

※遺留分:配偶者など一部の相続人に認められた最低限の遺産取得割合で、これを侵害することはできない。配偶者や子どもの遺留分は、法定相続分の1/2となっている。

遺言書がない場合には、遺産分割は、「法定相続分」が基準になります。法定相続分というのは、民法に定められた相続人の遺産の取得割合のことです。例えば相続人が妻と子ども2人の計3人だったら、遺産取得割合は妻が1/2、子どもも1/2になります。子どもは2人いるので2分割され、1/4ずつになるということです。ただし、遺産分割協議で相続人全員が同意すれば、これとは違う割合での分割も認められます。

では、物理的に分割が難しい不動産については、具体的にどう対応したらいいのかというと、よく使われるのが、「代償分割」という方法です。簡単にいえば、不動産を相続した人が、他の相続人に「不足分」を現金で支払うのです。

――不動産として遺産を多くもらい受けた人が、その分を現金で補填する、ということですね。

金田 そういうことです。また、持ち続ける必要がない不動産ならば、売却して現金を分ける、というやり方もあります。

不動産を相続人の共有名義にして相続するケースもあるのですが、この方法は、基本的にお勧めはできません。他人と共有になっている不動産は、持分を勝手に売却したり、抵当権を設定して融資を受けたりすることはNG。つまり、「使い勝手」が非常に悪いのです。さらに、共有者が亡くなると、相続によって所有権が移り、権利関係が複雑化していくというのも、大きなリスクです。

トラブルを生まないためにやるべきこととは

――不動産の相続は大変だということが、あらためてよくわかりました。トラブルを防ぐためには、どんな行動を取るべきでしょうか?

金田 1にも2にも、生前の対策が重要です。具体的には、「不動産オーナーの方は、遺言書を作りましょう」ということを、声を大にして言いたいですね。何といっても、子どもにとって親の意向は重いのです。しっかりした遺言書が残っていれば、多少中身に不満を覚えたとしても、揉めるところまではいきません。要件を満たした遺言書には、法的効力もあるわけですし。

――そういう遺言書の大事さは強調されるのですが、実際に書く人はまだまだ多くないと聞きます。

金田 それが現実だと思います。でも、私の経験上、不動産を含む相続ですんなりいくのは、被相続人がきちんとした遺言書を残しているケースがほとんどなんですよ。円満な相続を実現するうえで、そのくらい有効な手段だということを、ぜひ理解していただきたいですね。繰り返しになりますが、相続財産に複数の不動産があるような方は、遺言書の作成が「マスト」だと考えてほしいのです。

さらにいえば、家族が納得できる「いい遺言書」を作るためには、できるだけ早い段階から準備を進めることが重要になります。例えば、複数の収益物件を持っていたなら、それぞれがどれくらいの利益を上げているのかといった情報を共有したうえで、どのように分けるのかを決める。高額の不動産を相続すれば相続税も膨らみますから、納税資金をどのように捻出するのかも含めて、シミュレーションをしておく。親が主導してそんな話し合いができれば、理想的です。

――その結果を遺言書という形にするわけですね。

金田 そうです。遺言書は何度でも書き直すことができます。早めに作っておいて、何か環境に変化が生じた場合には、リライトすればいいわけです。

このように遺産分割について話し合うというのは、家族の将来を考えることでもあると思うのです。相続というと、どうしても「財産」や「税金」に目が行きがちです。もちろん、我々は税のプロとして、節税のお手伝いをします。でも、相続には、説明したように人の心が介在しますから、お金のことだけ考えていてもうまくいかないことが多いんですよ。何より重要なのは、家族が納得できる円満な相続にすること。私はそう考えています。

――相続が争いになったら、節税どころではなくなってしまいますよね。

金田 私が経験した相続で、次のような事例がありました。多数の不動産を所有する父親が亡くなり、相続になったのですが、長男が「不動産は全部もらいたい」というのです。父親の生前から、全てを彼が管理していたので、「自分が引き継いで当然だろう」という認識でした。そして、母親や他の子どもたちも、明らかに遺留分が侵害されるレベルにもかかわらず、「それで構わない」という姿勢だったんですよ。

――普通は揉め事になると思うのですが。

金田 そうですね。ところが、珍しくすんなりいくのかと思ったのも束の間、やっぱり争いになりました。長男が「現金も欲しい」と主張したのです。他の相続人も、「さすがにそれは」ということになってしまいました。

極端な例に感じられるかもしれませんが、相続では何が起こるかわかりません。だからこそ、生前の準備が欠かせないのです。

「後編」では、相続の際の不動産の評価、相続税の減税を中心にお話しいただきます。

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