【資産形成 後編】「お金を貯めておくのはリスク」の時代に。新NISAを武器に、海外にまで目を広げて資産形成を
クライサー税理士法人 代表社員 石田昇吾氏保険は「必要最低限」のものに見直す
――資産を守り育てるために、運用が必要な時代になっていることはわかりました。では、どう行動したらいいのかに、話を進めたいと思います。資産形成を第一歩から始めたいという人には、先生はどのようにアドバイスなさいますか?
石田 実例からお話ししましょう。顧問先の社長に、息子さんの学資保険に月7万円ほど支払っている方がいました。私のアドバイスは、ひとことで言えば、「その保険を見直して月々の出費を減らし、その分を投資に回しましょう」というものでした。
この方の場合、保険料を払い続けると、15、6年で総額1,400万円ほどになります。満期には、それが1,410万円になって返ってくるイメージ。その間、社長に万が一のことがあった場合にも保険金が出るわけですが、その保障は、掛け捨てにすれば、月に1,000円程度で作ることができるのです。そうやって備えを固めたうえで、保険料に費やしていたお金を年4~5%で運用できれば、同じ期間で1,400万円を2,500万円ぐらいにすることが可能なんですよ。
お客さまには、そういうプランを提案して、結局月3万3,000円を今の「つみたてNISA」に「転換」していただきました。ちなみに、3万3,000円というのは、現行の「つみたてNISA」の非課税上限額(年間40万円)です。
今の事例は学資保険でしたが、特約付きの生命保険などに、毎月けっこう高い保険料を払っている人は、少なくないはずです。まず考えるべきなのは、そうした保険を見直して、「最小限の必要な保障」に切り換えること。それをやれば、ちゃんとした資産運用に回せるお金も作れるはずです。
――積み立てタイプの保険は、資産形成に一役買うイメージがありますが。
石田 それは、誤解と言っていいでしょう。なぜなら、保険の積み立て部分は、確かに運用はされるものの、利回りが極めて低く設定されているからです。インフレの世の中ではなおさら、資産を作る手段としては、ほとんど役に立たないと思ってください。
私は、保険というのは、あくまでも「いざというときの保障」だと割り切る必要があると思うのです。わかりやすいのが、掛け捨ての死亡保険や火災保険です。確率は低いけれども、もし不幸な状況になった場合、必要になるお金を預貯金でまかなうのは難しい。そうしたことに備えるために、損を覚悟で文字通りの「保険」を掛けるわけですね。資産形成は、それとは切り離して考えるべきです。
「個別」ではなく「指数」を買うという選択も
――その場合、具体的にどのようなものに投資したらいいのでしょうか?
石田 投資の初心者の方、なるべく安全、着実に資産を築いていきたい場合などに向いていると思われるものに、投資信託のインデックスファンドと呼ばれる商品があるんですよ。どんなものなのか、なぜそう考えるのかを順を追って説明しましょう。
金融商品には、株式以外にも、国債をはじめとする債権などさまざまなものがありますが、長期的な視点でみると、株式が最も成長率が高いことは、歴史が証明しています。とはいえ、「A社の株を持っていたら、想定外の値下がりで大損をした」という話も、珍しくはありません。
お話しした投資信託では、多くの投資家から集めたお金を基に、専門家が複数の株式に「分散投資」を行います。個別株のような“大化け”は期待できないかもしれませんが、大切な資産を一気に減らしてしまうようなリスクは減らすことができます。
――老後資金を貯めていくような場合には、うってつけというわけですね。
石田 同時に、投資なのですから、確実にお金を増やしていかなくてはなりません。投資信託にも何千という商品があるのですが、そういうニーズに合致するのが、市場全体の動きを表す代表的な指数に連動するインデックスファンドなのです。インデックスとは、例えば日経平均のような株価指数のことです。
日本でも、アメリカのNYダウやS&P500といった経済指標に連動したインデックスファンドを買うことができ、いずれも日本株を上回る運用実績を上げています。さらに言えば、世界中の株式を対象にしたオールカントリーなどのファンドもあるんですよ。
――海外にまで目を広げると、選択肢がかなり広がる感じがします。
石田 日本株と併せて、こうしたファンドを持っていれば、それ自体がリスク分散にもなります。「投資先は全世界にある」と、発想を転換させてみてはいかがでしょう。
新NISAを使い、無税で投資する
――そうした資産形成のために、来年からスタートする新NISAが有効な武器になる、というお話がありました。あらためて、どういうメリットがあるのかを説明していただけますか。
石田 資産運用には“敵”が2つあって、すでにお話しした金融機関の手数料と、もう1つは税金です。通常、このような投資で得た利益には、所得税などが約20%課税されるのです。運用利回りが年5%だったとすると、その1%分が税金に消えてしまう。このことが、投資に二の足を踏む一因にもなっています。
NISAは、そのハードルを緩和して、資産形成をサポートするためにできた制度で、一定の投資額、保有期間については、非課税で運用することができるんですよ。現行NISAのうち、長期の積み立て、分散投資向けの「つみたてNISA」の場合、年間40万円まで、20年間、非課税の運用が可能になっています。
さらに、新NISAでは、「つみたて投資枠」(※)の年間投資枠が、3倍の120万円まで拡大され、保有期間は無期限になります。画期的といってもいい制度で、資産形成に活用しない手はない、とさえ思います。
※新NISAの「つみたて投資枠」が、現行NISAの「つみたてNISA」に相当。
【新NISA参考記事】新NISAでどれくらい積み立てる?新しいNISA制度について解説 ❘ マネーイズム
――確かに20%の税金がかからないというのは、とても大きいと感じます。
石田 手数料に関しては、ネット証券などを利用することで、「無駄遣い」を避ける。税金はNISAを使って、ゼロにする。そうやって“敵”に対策を打つことで、長期の運用の結果として手元に貯まるお金は、ぜんぜん違ってきます。
なお、金融庁は、ホームページで「つみたてNISAの対象商品」を明示しています (つみたてNISAの対象商品 : 金融庁)。そこにラインナップされているものは、基本的に高い確率で運用益を上げられそうな商品、いい方を変えれば、手数料が割安な投資信託です。さきほど述べたような、海外のインデックスファンドも含まれています。あれこれ迷う前に、まずはそういうものから始めてみてはいかがでしょうか。
――NISAと並び、資産形成の手段として注目されているiDeCo(個人型確定拠出年金)については、いかがでしょう?
石田 iDeCoは、自分で掛け金を払い、自分が選んだ商品を運用して、60歳以降に老齢給付金として受け取る制度です。NISAと同じように運用益が非課税になるだけでなく、掛金も所得控除の対象になるのは、大きなメリットといえるでしょう。
例えば、月に2万円、年間24万円を積んでいる人の所得税率が33%だとすると、控除額は、24万円×33%で7万9,200円になります。これだけの金額が、サラリーマンなら毎年の年末調整で、個人事業主などは所得税の還付で戻ってくるんですね。
――やはり、かなりお得感があります。
石田 ただし、「年金」のため、原則として60歳になるまで、引き出すことができません。NISAのように、いつでも現金化できるわけではないので、その点には注意が必要です。「使い勝手」という意味では、非課税の条件が拡充されるNISAにメリットがあるでしょう。
【iDeCo参考記事】「iDeCo」を使って節税や老後の資金形成を考えてみませんか? ❘ マネーイズム
――お話をうかがってきて、失敗しない資産形成のためには、表面的な利回り以上に、手数料や税金に留意する必要のあることがよくわかりました。最後に、貴社のこれからの目標について、お聞かせ願えますか。
石田 今日のテーマのファイナンシャルプランニングについては、お話ししたように、ビジネスとして基盤を築くために、もう一工夫必要だと考えています。実績を重ねながら、みんなで知恵を出し合っていきたいですね。
事務所としては、おかげさまで、ここまで順調に成長することができましたが、現状では規模のメリットを享受するところまではまだ足りないと認識しています。
当面は、50人規模を目指して、事業の拡大を図るのが目標です。最近は、IPOのサポート依頼なども増えてきているので、そうした分野も含め、新たな機能の強化に取り組んでいきたいと思います。
――今後の事務所のますますの発展を期待しています。本日は、どうもありがとうございました。
税務というフィールドでありながら、コンサルティング的な視点でお客さまに寄り添い、多様な課題を解決する専門家集団。税務会計業務だけではなく、相続・事業承継からファイナンシャルプランニングまで、幅広い内容に対応。著書:『人生100年時代の着実なお金の作り方』(総合法令出版)
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