【経営計画書 後編】「経営計画書」を作成すると社長が変わり、 社員が変わり、会社も変わる。 会社や自分の将来を考える機会に

NA税理士法人 代表理事 荒井正巳氏
[取材/文責]マネーイズム編集部 [撮影]世良武史

あらためて、なぜ経営計画書が必要なのか

――実際には、経営計画書を作成している会社はそんなに多くない、というお話がありました。

荒井 目の前の仕事には、みなさん本当に一生懸命取り組んでいらっしゃるのですが、明確な理念や計画性を持って経営に取り組んでいるという社長は、残念ながら少数なのが現実です。そもそも、数字が苦手で、自社の状況をわかっていない方が少なくないんですね。決算書の読み方がわからないとか、極端な例では「自分の役員報酬は、いくらだったかな?」と、私に聞いてきたり(笑)。

――先生が信頼されている証ではないでしょうか(笑)。

荒井 それは嬉しいのですが、やはり経営している会社の基本的な数字は、社長ご自身で押さえておく必要があります。そのうえで、先を見据えたビジョン、その基盤となる経営理念というものにも目を向けてほしいのです。

私はよくお客さまに対して、「社長、考える時間を取ってください」と言うんですよ。この場合の「考える」は、仕事の現場のあれこれとか人のトラブルの話とかではなく、会社の将来や、自分自身がこの先どうなっていきたいのか、ということです。

――経営計画書の作成は、まさにそうしたことを考える機会になるのではないでしょうか。

荒井 そういうことです。会社を経営していれば、不測の事態も起こりえます。判断に迷うこともあるはず。そういうときに、立ち帰ることのできる会社の軸というか指針があるのとないのとでは、大きく違うわけです。事実、世の中で成功している会社の多くは、しっかりした経営計画書に基づいて経営が行われていますよね。

――ご紹介いただいた経営計画書には、そうした実例なども紹介されているわけですね。

荒井 はい。さらにいえば、経営計画書は、社長だけのものではありません。起業して間もない時期ならば、「とにかく売上を上げよう」でいいかもしれませんが、ある程度の規模になり社員も増えてくれば、「会社が何を目指しているのか」を、みんなに共有してもらう必要が出てくるでしょう。

それがないと、社員は社長が何を考えているのかがわからず、能力を発揮できないばかりか、さまざまな問題が起こる原因にもなりかねません。

まず、社長自らがビジョンを考えてもらいたい、そのうえで経営計画書を理念や目標を社内で共有するための武器に使ってほしい、というのが私の思いなのです。ただ、正直な話をすれば、他にも考えることの多い社長にそういう意義を語っただけでは、なかなか実践までには結びつかない、という現実もあるのですが。

経営計画書は、成功した会社を真似して作ってもいい

――ただでさえ忙しい経営者が経営計画書を作ろうと思ったら、何から始めればいいのでしょうか?

荒井 最初に、当社の経営計画書は「他社を参考にしている」といいました。提供元に「まずはこのツールを真似しなさい」とアドバイスされて、そうしたわけです。お話ししたように、それが正解でした。

経営計画書の作成については、「成功した会社の真似をする」というやり方を、私はお勧めします。経営者の方は、みなさん真面目なので、いざ経営計画書を作ろうということになると、ゼロからオリジナルのものを考えようとするんですね。でも、それにはかなりのエネルギーが必要です。結局、作成の途中で頓挫してしまうことになりかねません。

――「真似ればいい」というのであれば、経営計画書作りのハードルは、かなり下がると思います。

荒井 お手本にするのは、「経営がうまくいっていて、現実に生き残っている会社」です。自分も生き残るために、その会社が採用している方法を真似て、経営計画書を作る。そう単純に考えれば、いいのではないでしょうか。

――ネット上には、フリーダウンロードできる経営計画書などもあります。

荒井 自社にふさわしいと思ったら、そうしたものを利用して作成するのもアリだと思います。その際にも、成長している会社の経営計画は、参考になるでしょう。大事なのは、とにかく一歩を踏み出すことです。

同時に、いうまでもないことですが、「作って終わり」にしないことも重要です。定期的に実績の数字をチェックしつつ、計画に照らして問題があれば、原因と対策を考えてみる。環境の変化などに伴って、計画自体に変更が必要になったところがあれば変えていく。そういう使い方をすべきでしょう。

――経営計画書の活用という点では、社内にその内容をどれだけ浸透させていくのか、というのもポイントになると思います。どんな工夫が必要になりますか?

荒井 当社の例でお話しさせていただくと、週に2回、月にすると計3時間くらい、読み合わせの時間を取っています。読み手は、私自身です。それには、自分自身が「原点」を忘れないようにすること、自ら口にしているのだから先頭に立って実践するという決意表明、その2つの意味の意味があるんですよ(笑)。

そうした読み合わせをするかどうかは別にして、折に触れて経営計画書を基にした話を社員にする、といった取り組みは必要になると思います。

――トップが本気度を見せるというのは、大事ですね。

自社の実績を生かし、顧客をサポート

――貴社の顧問先に対しては、どのような形で経営計画書の普及を図っているのでしょうか?

荒井 私たちは、経営計画書の作成をお手伝いするだけでなく、導入後もお客さまをフォローします。自分たちが日々実践しているものを提供し、サポートするというのも、一般の経営計画のコンサルなどにはない特徴ではないでしょうか。自社の経験、蓄積がアドバイスに生かせることは、お客さまにとっても大きなメリットになっているのではないかと思います。

より具体的な話をすれば、紹介した経営計画書には、それと連動するオリジナルの『月次決算書』というツールがセットになっています。導入していただいたお客さまとは、月に1回の面談の際に、それに基づいて前の月の数字をチェックしながら、改善のためにはどうしたらいいのか、といった話をして、経営に生かしていただくのです。

――「苦手な数字」を克服するためのアドバイスですね。

荒井 実際、それをやって「数字に興味が持てるようになった」という社長もいます。経営計画書を作ったことで、以前に比べて業績が安定した会社もあります。本音をいわせてもらえば、そういう取り組みをすればもっと儲かるだろうな、と感じる会社がたくさんあるんですね。

ただし、さきほどもお話ししたように、経営計画書の作成を勧めても、すぐに「よし、やろう」ということにはなりません。そこは、私たちの努力不足もあると思うのですが、どれだけ活用を広げられるかは、当社の大きな課題の1つだと思っています。

経営計画書を作成することによって、社長が変わります。社長が変われば社員が変わり、やがて会社も変わるのです。繰り返しになりますが、そういうことに、まず社長が気づいてほしいですね。

――わかりました。最後に、貴社の今後の目標をお聞かせください。

荒井 業績を着実に伸ばして、従業員の給料を少しずつでも上げていけるようにしていきたい、というのが大目標です。数字としては、5年後に300名体制、売上30億円の達成を掲げています。

弊社の成長のエンジンになるのが、やはりM&Aです。今後も経営の最重要課題に位置づけて、年に数件程度をめどに実行していきたいと考えています。

――ますますのご活躍に期待しています。本日はありがとうございました。

「人を大切にする経営」を掲げ、経営者の悩みに寄り添った提案をする専門家集団。税務会計業務だけではなく、経営計画書等の経営サポートや、社労士とのワンストップサービス、税理士事務所の事業承継の支援など、幅広いサービスを提供する。

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