【経理 後編】専門知識が必要で、人を雇うとコストがかかる経理業務。会社の状況に合わせた“経理のアウトソーシング”を利用するという選択
アイエクシード税理士法人 代表社員 女屋直之氏まず「不要なもの」を捨てる
――経理代行サービスを通じて、いろいろな会社のバックオフィスの内実に触れることになると思います。何か共通の問題点を感じられることはありますか?
女屋 長年任せていた経理担当者がいなくなったから代行を頼みたい、といったケースでよくあるのですが、やっていたことを調べてみたら、「はたしてこの業務は必要なのか?」という“謎の仕事”がけっこう出てくるんですね。昔からやっているからと、惰性に近い感じでルーティンワーク化している業務が、とても多いのです。それこそITを使って簡単に処理できるのに、わざわざ手書きでやっている、というようなものも含めてですが。
――経理は特にブラックボックス化しやすいですから、社長もなかなかそういう点に気づきにくい面がありますね。
女屋 あえていえば、経理担当者本人は、そうした非効率を自覚していることも少なくないように感じます。でも、省力化したら仕事が半分なくなってしまうかもしれませんから、なかなか自分から申告はしにくい、という事情もあるのでしょう。
ともあれ、そうしたケースで経理代行の依頼を受けた場合、我々がまずやるのは、それぞれの業務が本当に要るものなのかどうかを社長に確認し、不要なものを切り捨てていくことです。それをやると、たいていの社長は「そんなところにお金を使っていたのか」と驚くんですよ。私の感覚では、ある程度利益が上がっていて、余裕のある会社ほど、そういう無駄がスルーされやすいので、注意が必要だとは思います。
――経理のアウトソーシングが、業務の大幅な効率化に結びつくかもしれません。
女屋 当社の仕事としては、そのようにして業務のスリム化を図り、その遂行に見合った料金を設定して、OKならばサービスを提供させていただく、という流れになります。
一方、スタートアップのような段階から経理代行を請け負う場合もあります。数人規模のときから担当し、バックオフィス支援も記帳もすべてサポートしていた会社が、いまや数十名に成長している例もあるんですよ。
――会社のステージが上がってくれば、経理を外注から逆に内製化させる必要が生じるかもしれません。そうしたフォローも行うのですか?
女屋 ええ、実際にお手伝いしたこともあります。これについても、会社によって置かれた状況やニーズは様々ですから、やはりそれぞれが求めるサービスを提供できるよう、努めています。例えばIPOを考えるならば、経理を自社でしっかり管理しないと基準を満たせませんから、それに見合った組織の構築ができるようにサポートを行います。
税理士事務所に経理代行を依頼するメリット
――経理をアウトソーシングするメリットをあらためて整理すると、どうなるでしょうか?
女屋 とにかく、社長が得意とはいえない“お金まわり”の実務から解放される、ということですね。それにより、営業などの本業に集中できるようになります。何度か述べたように、専門の人を1人雇うのに比べてコストダウンも可能です。
――あえていうと、同様のサービスを提供する専門の企業や、コンサル会社なども存在します。税理士事務所に依頼する利点は、どこにあるとお考えですか?
女屋 やはり会社の会計や経理というものをよく知っているのが、我々の強みです。お客さまからすれば、コストを抑えつつ正確な仕事が期待できる、という信用を感じられるのではないでしょうか。その期待に応えるのが、我々の使命だと思っています。
信用という点で補足すると、さきほども触れましたが、そうはいっても社長はお金のことを外部に託すのには、「大丈夫か」という思いもあるんですね。その点でも、税理士事務所というのは安心感があると思います。
なお、当社では、支払いに関する決済まで関わることは、通常はしません。受け取った請求書の金額を「これでOKですか?」と社長に確認して、支払いを実行するのが基本で、それがスムーズに進行するような仕組みづくりを工夫するわけです。まあ、お付き合いが長くなる中で、「決済も任せたから、確実に振り込んでほしい」というようなケースも、あることはあるのですが(笑)。
――それも信用の証といえるのではないでしょうか。
女屋 コンサルタントなどに依頼する場合には、経理業務の負担軽減にどこまで有効なサポートをしてもらえるのか、という点を見極める必要があるかもしれません。例えば、「この業務は無駄なので削りなさい」「IT化を図りましょう」といったアドバイスだけでは、具体的な問題解決にはならない可能性があるでしょう。その点、税理士事務所は、中小企業のお客さまの「困りごと」を解決するのが仕事ですから、よりきめ細かな対応が望めると思います。
これも自社の例で恐縮なのですが、請求書の発行業務を請け負った場合、発行、送付までやるのはもちろん、先方からの問い合わせ先も当社にしているんですよ。請求書に関しては、営業マンはノータッチ。自らの業務には直接関係ない請求書に関する問い合わせ電話がかかってくる、という状況からも解放されることになります。
――月末に請求書の発行に追われて仕事にならない、というようなこともありますから、それは助かりますね。
女屋 「期日までに処理しなければ」「間違えたらいけない」という精神的なプレッシャーが他の業務に影響するようなことも、ないとはいえないでしょう。現場の負担が過大な場合には、すっぱりアウトソーシングするというのもいいと思います。
経理代行サービスの効果を高めるポイント
――反対に経理を外注するデメリットは?
女屋 一般的には、自社内に経理のわかる人間が育たない、という点が指摘されます。さきほどもいったように、IPOを志向するようなケースでは、早い時期から自社できちんとした体制を整える必要があるでしょう。
我々の代行サービスでは、社内の清算などに関して、月末などの「月1回」を基本にしています。つまり、日々清算をしたり、急に発生した支払いなどにすぐに対応したり、というのは難しいんですね。例えば、仕事で使うパソコンに不具合が生じた場合、修理や買い替えの費用は、とりあえず立替金でまかなってください、という対応になります。
――社内に経理担当者がいるような迅速な経費処理はできない、ということですね。
女屋 そうです。経費が自腹にならないように、月1の清算を忘れないようにしないといけない、という不便さはあるかもしれません。毎月、立て替えの厳しい金額が必要になるような場合には、先にお金を渡して清算するといった対応も可能ですが。
――そうしたメリット・デメリットも踏まえて、経理代行サービスのより有効な活用法を挙げるとすれば。
女屋 経理に限らないと思いますが、業務をアウトソーシングする場合には、まず自分の会社がどこで困っているのかを明確にすることが大事です。
弱点がはっきりすれば、その部分のサポートを受けることで、効率的な業務改善が図れるし、コストダウンも実現できるはずです。
当然、我々もヒアリングを通じて、そこを汲み取るように努めます。たいてい、やっていくうちに「ここもフォローしてほしい」「この業務は自社で処理が可能」ということになるので、柔軟に提供するサービスの内容を見直していくんですよ。
――さきほど請求書の問い合わせ先の話もありましたが、どこに経理代行を依頼するのか検討する際には、自社のニーズに対応してもらえるのかをしっかり確認することも重要だと感じます。最後に、貴社の今後の目標、将来像をお聞かせください。
女屋 税理士事務所といっても、申告や税務相談がメインの時代ではなくなってきています。今回お話しした経理代行サービスもそうですが、ますます従来の本業とは違うところに業務の重心を移していく必要があるだろうと思っています。結局、世の中の人が何を求めているのかが大事で、柔軟な発想で税理士事務所の概念を変えていけたらいいですね。
――貴社のさらなるご発展を期待しています。本日はありがとうございました。
「喜びを共にし、豊かな未来を」を経営理念に掲げ、お客様一人ひとりの状況に応じたサービスを提供する専門家集団。税務・会計だけではなく、経理のアウトソーシング、事業承継・相続対策、開業・創業支援など、幅広いニーズに対応。
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