【相続税対策 前編】「広い土地」の相続で揉めないために 納税額の試算が相続税対策に繋がる

塚本会計事務所 代表 塚本俊氏
[取材/文責]マネーイズム編集部 [撮影]世良武史

先祖代々の広い土地などが財産に含まれていると、相続はより複雑になりがちだ。もちろん節税には知恵を絞る必要があるものの、それだけに目を奪われていると、思わぬ失敗を招くこともある。今回は、東京・町田市を基盤に、土地を含む相続に実績を持つ塚本会計事務所の塚本俊代表(税理士)に、スムーズな遺産分割のポイントなどをうかがった。
インタビューでは、「前編」で2018年以降改められた相続時の「広い土地」の評価をはじめとする節税策などについて、「後編」で土地を含む相続に関するアドバイスを中心に、話を聞いた。

「土地はあるが現金は少ない」という相続

――初めに事務所の概要をお聞かせください。

塚本(敬称略) 先代の時代を合わせると半世紀を超える歴史がある事務所で、メンバーは現在20名弱です。一般の法人や個人事業のほか、介護、福祉、保育施設など社会福祉法人会計、学校法人会計のお客さまの多いのが、1つの特徴です。

相続に関しては、相続税の申告が年間25件ほど。相続税の試算を行うレベルのお話だと、その倍くらいの件数になるでしょうか。それ以前の「ちょっとお話をうかがいたいのですが……」というようなご相談の電話は、ほとんど毎日かかってくる感じです。

――その中から、特に「広い土地」を含む相続を中心に、お話をうかがっていきたいと思います。

塚本 わかりました。東京の近くにお住まいの方ならおわかりだと思いますが、ここ町田市というのは神奈川県に面した地域で、市街地を外れると田園地帯が広がり、小高い山もあるようなロケーションです。ですから、そういう先祖代々の土地を持っている地主さんなどが、たくさんいらっしゃいます。

そういう方々がお持ちの土地の状況をよりリアルに説明すると、一見、畑とか山にしか見えないけれど、しっかり路線価が振られている。すなわち宅地とみなされている。そういうケースが、町田では多くみられます。しかも面積が広い。そして、現金の蓄えがあるのかといえば、「心許ない」という方が少なくありません。

――そうなると、相続の際に持っている土地がどの程度の評価をされるのか、非常に気になりますよね。

塚本 その通りで、実際、相続税の納税に不安を覚える方の割合は、他の地域に比べても多いのではないかと感じています。納税資金がショートすれば、最悪先祖代々の土地を切り売りするようなことも考えなくてはならなくなります。

「地積規模の大きな宅地の評価」とは

――そうした広い土地の相続が不利になり過ぎないように、「地積規模の大きな宅地の評価」という制度があります。これを使う相続は、けっこうあるのでしょうか?

塚本 そうですね、申告する相続の3件に1件、年間7、8件は「適用可能」な土地が含まれています。それらのすべてで、この制度を使うわけではありませんが。

――かなり多い印象です。

塚本 適用されるのは、三大都市圏(首都圏、近畿圏、中京圏)で500㎡以上、それ以外の地域では1,000㎡以上の広さがあって、普通住宅地区、普通商業・併用住宅地区に区分される土地です。

これらを満たしていても、「市街化調整区域」「工業専用地域」「容積率が400%、東京23区に関しては300%以上の地域」には適用できません。この要件に当てはまる土地は、決して少なくないということです。

――評価額は、どのように計算されるのでしょうか?

塚本 計算式は以下のようになっています。

路線価×奥行価格補正率×不整形地補正率などの各種画地補正率×規模格差補正率×土地面積(㎡)

「補正率」がいろいろ出てきますが、要するに土地のいびつさとか、広さなどによる調整を行うことで、普通に「路線価×土地面積」で計算するよりも大幅に評価額が減額される、というように理解してください。

実は、相続時のこうした土地の評価については、2017年まで「広大地」という制度が適用されていました。2018年から現在の「地積規模の大きな宅地の評価」に改められたのです。

――改正の理由は何だったのでしょう?

塚本 以前の広大地は、適用の要件が曖昧で、はたしてこの評価方法が使えるのかどうかの判断が難しい、という問題がありました。わかりやすくいうと、この領域にスキルと経験を持つ税理士に頼めば、土地の評価額の大幅な減額が可能になるけれど、そうでないと適用が受けられなかったり、あるいは誤って申告して多額の追徴課税(※)になったりすることもありえる。そんな状況だったわけですね。

そこで、お話ししたように要件を明確にすることで、納税者にも適用ができるかできないかが、ある程度判断ができる形に改正されました。

※追徴課税 申告漏れなどで、本来支払うべき税金よりも納税した金額が少なかった場合に、追加で税金を支払うこと。

あえて制度を使わないこともある

――ただ、新たな評価法では、かつての広大地に比べて減額の幅が小さくなったと聞きます。

塚本 広大地では、土地の形状などは考慮されず、土地面積に面積区分ごとに決まっている「広大地補正率」という数値を掛けて、評価額を計算していました。ざっくりいうと、新制度では、土地の評価の仕方がより厳格になったわけです。

当事務所では、以前の広大地評価による申告も多く扱ってきましたが、感覚的には、広大地では6割の評価減だったのが、今は4割減程度になるケースが多いですね。中には2割減額くらいにとどまる案件もあります。とはいえ、広い土地の話ですから、たとえ2割の評価減でも大きな意味があります。

一方、ご相談を受けた案件の中には、適用要件を満たしていても、あえてこの制度を使わないで申告することもけっこうあるんですよ。

――さきほどもおっしゃっていましたが、それはなぜですか?

塚本 評価額の減額が以前に比べ小さくなったこともあって、むしろ不動産鑑定士に鑑定してもらったほうが、価格を低く抑えられる案件が少なくないのです。

地積規模の大きな宅地の評価というのは、あくまでも路線価をベースに計算します。しかし、これもすでに述べたように、町田には路線価は付いていても、例えば山道を登ったところに畑が広がっていて、「こんなところにアパートを建てて、誰が住むのだ」といった土地が多いんですね。だったら、実際に売りに出した場合の価格をプロに弾いてもらったほうが、よほど評価を下げられる。

――なるほど。コストはかかっても、不動産鑑定士に頼んだほうが有利になる、というわけですね。そういう土地というのは、見ればわかるのでしょうか?

塚本 はい。ですから、我々は必ず現地を見に行きます。周囲の状況だけでなく、人の行き来なども調べるんですよ。1時間いても、目の前の道を誰一人通らない、とか(笑)。

新たな評価制度が適用可能な相続が年に7、8件といいましたけど、今はその半数程度がこうした不動産鑑定による評価になっています。

――広い土地の相続は、その道の専門家に相談すべきだというのが、よくわかるお話です。

相続税の節税対策で考えるべきこと

――「地積規模の大きな宅地の評価」以外の節税策についても、うかがっておきたいと思います。

塚本 節税効果が大きいのが、親と同居しているなどの要件を満たせば、自宅の宅地の評価額を80%減額できる「小規模宅地等の特例」です。この特例に関しては、相談に来られる方のほとんどすべてがご存知だといっても過言ではないほど、ポピュラーなものになりました。

ちなみに、「地積規模の大きな宅地の評価」については、最初からご存知なのは3人に1人くらいです。

小規模宅地等の特例は、被相続人(亡くなった人)が家を出て施設に入っているようなケースでも認められるなど、要件が緩和されています。相続人が実家を受け継ぐ場合には、「使うのが当然」の制度といえるでしょう。

また、アパートや貸家などに使用されている土地は、「貸家建付地」といって、相続の際にやはり評価額を減額することができます。詳しい計算式は省きますが、この特例を使うことで、通常20%程度、土地の評価額を減額することが可能なんですよ。

――これらも、適用できる場合には、確実に恩恵を受けられるようにすることが大事ですね。

塚本 そうなのですが、私が1つ強調しておきたいのは、そうした特例を使うかどうかについて、親の生前に子どもも含めて方針を決め、それをみんなで共有しておいてほしい、ということなんですよ。間違っても、相続になってから、例えば長男だけが小規模宅地等の特例を利用することで親と合意していた、というような状況は避けるべきです。長男は実家に住み続けることが当然だと思っていても、弟の認識は違っているかもしれません。

――相続では、遺産の分け方もさることながら、そういうちょっとした気持ちのズレが争いに発展してしまうことが、少なくありません。

塚本 そういうことになってしまうと、節税どころではなくなります。相続人の間で不信感が生まれるようなことがないよう、注意が必要なのです。

――相続税の節税策として、土地の生前贈与を考える方も多いと思います。

塚本 相続争いを防ぐ意味合いも込めて、生前の親の土地を子どもに贈与し、その上に子どもが家を建てる、といったケースもありますね。一般論でいえば、現在の相続財産の総額をベースに、贈与税率、相続税率を比較して、より節税効果の高い贈与を行っていくことは可能です。

でも、親がいつまで生きるのか、正確に測ることはできませんよね。生前贈与をし過ぎた結果、親の生活のほうがままならなくなってしまうような、笑えない状況も実際にありえるのです。土地を含む相続財産が高額だからといって、節税ありきで行動するのは、お勧めできません。

後編では、土地の相続で重要になるポイントを中心に、さらに語っていただきます。

注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。

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