【税務調査 後編】“国税OB”が語る税務調査
「調査官はここを見る」「日頃から心得るべきこと」
税理士法人高津会計 代表社員 高津直人氏(右)、西日暮里支店 所長 枝崎恵治氏(左) 税務調査に入られやすいケースとは
――先生方から見て、税務調査に入られやすい会社というのは、ありますか?
高津 調査に入られやすいというか、例えば申告書を見たら、前期に比べて売上や利益が急に伸びているとか、逆に急減したとかいうときには、税務署に注目される可能性が高まります。
――どうして、数字が大きく動いているのだろう、と。
高津 そういうタイミングでは、間違いが起きたり、あえていえば「よこしまな心」も顔を出しやすくなったりしますから。
枝崎 そのように、普通は儲かっているところが調査の対象になるわけですが、赤字だからといってそこから外れるわけではないんですよ。例えば、利益がギリギリ赤字、というようなケースでは、税金が発生しないように、売上や経費などの操作をしていることがあります。ですから、「ちょっと調べてみようか」ということになりやすいですね。
――実際に調査に入った場合、どんなところを見られるのでしょうか?
高津 税務調査では、基本的にオーソドックスに、見るべきものをまんべんなく見ていきます。売上の計上時期はズレていないか、例えば当期に計上すべきものが次期に先送りされていないか、経費に私的な費用が紛れ込んでいないか、さらには架空の経費を付け込んではいないか、領収書や請求書の改ざんはないだろうか……。やり始めるときりがないのですが、当然「怪しい」と思われる会社ほど、詳細に調べていくことになります。
――やはり経費というのは、税務調査の大きなポイントになるわけですね。
高津 そうですね。私が調査をしていたときには、何回か領収書の改ざんに遭遇したことがあります。パラパラ見ていくと、変な違和感を覚えたんですよ。よく見ると、「1」が「4」や「7」に書き換えられていた(笑)。ボールペンの色味や筆跡が、微妙に違うので、「不正」は明らかでした。
やった本人は「これくらい」と思うのかもしれませんが、そういうのが見つかると、そこにある領収書が全部疑わしくなってしまいます。
――少しでも経費を水増しして税金を逃れようと考えるのでしょうが、結果的には大きな代償を払うことになるかもしれません。
高津 領収書の話のついでに申し上げておくと、なじみの飲食店で、白紙の領収書を何枚かくれることがあるかもしれません。相手はサービスのつもりなのでしょうけど、同じ店の高額の領収書が何枚もあったりすると、調査する方は、「おかしいな」という印象を抱きます。
このような場合、税務署は、必要があれば領収書の発行元である飲食店に「反面調査」に入ります。領収書に書かれた日付の日に、実際に本人が来たのか、誰と飲食したのか、といったことを、そこで調べるのです。
――「反面調査」は、取引先など、調査対象になった当人の関係先に対して行われるものですね。
高津 もちろん、調査する側が必要性を感じた場合に限られますが、税法に則った調査権の行使ですから、基本的に拒否することはできません。経営者ならば、そうしたこともちゃんと知っておく必要があるでしょう。
「非協力的」だと調査期間は延びる
――税務調査に入られた場合、期間はだいたいどのくらいになるのでしょう?
高津 会社の規模などにもよりますが、さきほどお話ししたように1日~2日の短日で終わる場合もあれば、1週間とか、国税局のマターになると、半年がかりというようなケースもあります。
――え、そんなに長く調べられることがあるのですか。
枝崎 通常の税務署の調査であれば、長くても1~2週間でしょう。当然、調査に入ってからいろいろ問題が見つかれば、期間はその分延びますが。
――なるべく短期間で終わらせる方策は、あるのですか?
高津 調査では、調査官のいいなりになる必要はありませんが、調査自体には協力するスタンスで臨むほうが、期間は短くて済みます。逆にいえば、非協力的な対応、例えば求められた資料を出し渋るとか、質問に正面から答えないとかの姿勢でいると、調査期間はどんどん延びていくことになるでしょう。
税務署が調査に入る場合には、原則として事前に顧問税理士に連絡があり、調査に同席することもできます。我々は、調査官の意向を汲み取った上で、適宜「求めるデータを提供する代わりに、調査日数を短くせよ」といった交渉を行うこともあるんですよ。
調査官がいきなり来たら
――今の「調査には協力的な姿勢で臨む」というのもそうですが、実際に税務調査になった場合には、どのようなことに気をつけるべきでしょう?
枝崎 多額の脱税が疑われるような事案では、国税局査察部、通称マルサの強制調査になることがあります。これは、裁判所の令状を基に行われるもので、事前の連絡などはありません。調査では、調査官の指示通りに対応する必要があります。
――よくテレビドラマなどで目にします。
枝崎 一方、中小企業や個人事業主が対象になるのは、多くの場合、税務署による任意調査です。これに関しては、さきほど高津先生から話があったように、通常は調査前に顧問税理士に連絡が入ります。ですから、税理士のアドバイスを参考に、対策を練るのがいいでしょう。
ただし、税務署の調査でも、調査官がいきなり来ることがあります。飲食店などの「現金商売」をしているところでは、売上金の一部を自分の財布に入れて「過少申告」していることが、たまにあります。事前連絡すると、その証拠を隠滅される可能性があるため、疑いのあるところには、直接調査に入るわけです。
――その場合でも、税理士の先生が来るまで、調査を待ってもらったりすることは、できるのですよね。
枝崎 はい。税理士の立場としては、そのように対処しますよ。
高津 お客さまには、「私が行くまで、調査官には何も触らせないでほしい」と(笑)。ですから、もし突然税務調査だといわれた場合には、まずは税理士に連絡するようにしてください。
余談ながら、時々東京に来て食事をすると、いまだに支払いは現金のみで、レシートすら出てこない店が多いのに驚くんですよ。そういうのを見ると、「この店は、大丈夫だろうか」と、ついかつての目線で見てしまう(笑)。
枝崎 恐らく管轄の税務署も、同じような感想を抱くでしょうね。もちろん、間違いなく申告していれば、何ら問題はないのですが。
帳簿以外のものを見ることもある
高津 実際に調査になった場合、当日に注意すべき点を、これもかつての経験を踏まえていうと、社長も従業員も机の引き出しの中は、きれいに片づけておくべきです。調査では、そういうところまで調べることがあるわけですが、意外に灯台下暗しというか、「余計なもの」が見つかったりするのです。
――例えばどんなものでしょう?
高津 さきほどいった白紙の領収書とか、書きかけの請求書とか。話を聞くと、「いや、捨てようと思っていて、つい」というわけですが、そういうのが1枚あると、やっぱり全体が怪しく思えてしまうんですね。日常的にいいかげんなことをやっているのではないか、と。
事務所に多額の現金を置いておくのも、簿外の取引があったのではないかとか、いろいろなことを連想させますから、やめたほうがいいですね。一度、社長の机の引き出しの裏に、ガムテープでお札の入った封筒が貼り付けられていたのを見つけたこともありました。こちらもびっくりしましたが、社長の真っ青になった顔が忘れられません。
――税務調査では、帳簿類だけでなく、いろんなものを調べられることがあるわけですね。
高津 もちろん状況によりますが、特に不正が疑われるケースでは、隅々まで目を凝らします。
税務調査を回避する方法はあるか
――当然のことながら、できることなら税務調査には来てほしくない、と誰もが思います。何か有効な手立ては、あるのでしょうか?
高津 一般論を申し上げれば、特別なノウハウみたいなものはなく、「毎年の申告を正しく、きちんとやる」ということに尽きます。その積み重ねですね。
適切な節税とともに、そうした問題のない申告のお手伝いをするのが、本来の税理士の務めです。税務署に、「あの先生の署名があるなら、間違いはないだろう」という印象を持ってもらえれば、お客さまを守ることにもなります。
枝崎 正直、税務署も所員の数は限られていますから、どこもかしこも調査に行けるわけではないのです。「この先生の申告は、いつも正確だ」ということになれば、自ずとそこに出向く回数は減りますよね。
高津 反対に、処理が粗くて誤りの多い先生だと、彼らも「仕事」になります。調査をやっていたときには、そういう先生の取り合いになったこともありました(笑)。
――納税者としては、そういう面で安心できるのかどうかというのが、税理士を選ぶ大きなポイントになりますね。
高津 申告の注意点として、あらかじめ税務署に伝えるべきことがあれば伝える、というのも大事です。例えば、事業に関連する建物を建てたとか、機械を買ったとかの高額の設備投資を行った結果、消費税が還付になることがあります。当社では、そうした場合には、その取引に関する請求書なり契約書なりの写しを添付して申告するようにします。
――消費税の還付というのは、ある意味特殊なケースで、時々高額の不正が摘発されたりもします。
高津 ですから、税務署は中身を正確に調べに来たくなるわけです。でも、実態のわかる資料が手元にあれば、確認作業は税務署内で終わるでしょう。そうしたことのために税務調査に入られて、煩わしい思いをするリスクを減らすことができます。
――申告には、税理士が申告書の内容に間違いのないことを証明する「書面添付」の制度があります。
高津 書面添付が、税務調査の抑止力になるのは、間違いないでしょう。
枝崎 書面添付があると、税務署が申告に不明な点などを見つけた場合、まず税理士に連絡が来て、「意見聴取」が行われます。その時点で問題が解消されれば、税務調査にはならないんですね。
その点でも納税者にとってメリットのある制度ですが、申告の時期になって「書面添付をお願いします」といわれても、それは無理です。税理士が申告書に“お墨付き”を与えるようなものですから、毎月きちんとお客さまのところにうかがって、決算の中身などを確認する、というのが条件になります。
高津 とはいえ、正しい申告をしていても、たとえ書面添付がされていても、税務調査が行われることはあります。繰り返しになりますが、最も大事なのは、調査に入られても困らない申告を心がけることなんですね。
――今回は、いろいろ貴重なお話をうかがうことができました。最後に、貴社の今後の展望をお聞かせください。
高津 引き続き、税理士の“国税OB”比率が高いという強みを生かして、地域のお客さまを全力でサポートしていきたいですね。そのためにも、もっと事務所の体制を安定させたい、という思いがあります。ゼロからつくった札幌支店は、10名体制を築きましたから、西日暮里支店も同じく2桁の人員を整えるのが、当面の目標です。
――ますますのご発展を期待しています。本日はありがとうございました。
注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。
札幌・道東エリア・東京エリアを中心に、中小企業の黒字化支援・財務経営力の強化支援に取り組む税理士事務所。国税局、税務署のOBが多数在籍し、税務・会計・決算だけではなく、税務調査の立会い、相続の事前対策、経営相談まで幅広く対応する。
URL:https://kotsukaikei.tkcnf.com/