【節税術 前編】中小企業にとって効果的な節税策とは 決算期間近でも、できることはある?

北千住税理士事務所 代表税理士 佐藤響氏
[取材/文責]マネーイズム編集部 [撮影]世良武史

法人設立から間もない頃は、経営者は顧客を獲得するのに必死。一方で、急に利益が増えて、予想外に税金の支払いが膨んでしまった、というのもあり得る話だ。そんな場合も含め、中小企業ができる節税策には、どんなものがあるのか? 決算間際になっても、対策は可能なのだろうか? 今回は、「若い会社」を顧客に多く持つ北千住税理士事務所の佐藤響代表税理士に、「中小企業と税金」について話をうかがった。
記事では、「前編」で中小企業ができる節税対策や、その注意点などについて、「後編」で決算期間近や期限後にできること、税理士選びの考え方などを中心にまとめた。

法人の決算の流れをおさらい

――先生の事務所は、2023年6月の開業ですね。

佐藤(敬称略) はい。いくつかの事務所経験を経て、東京・北千住で独立・開業しました。顧問契約しているお客さまは70軒ほどで、半数以上が法人です。お客さまにも、法人になって1,2年という方が多くいらっしゃいます。

――どのような業種のお客さまが多いのでしょう?

佐藤 特にこの業種をターゲットにしている、といったことはないのですが、最近は訪問介護、訪問看護のクライアントが増えているんですよ。なので、ホームページは、いろいろな業種に対応したものとは別に、そういう医療系のお客さま向けのものも作っています。

――わかりました。本日は、そんな先生に中小企業ができる節税とその注意点などについて、うかがっていこうと思います。まず、あらためてですが、法人の決算の流れについて、簡単に説明していただけますか。

佐藤 必ず暦年(1月~12月)で決算を行うことになっている個人事業と違い、法人は決算期を任意で決めることができます。例えば、決算期を3月にしたら、前年4月1日から3月31日までの1年間の売上や利益、法人税額などを計算し、併せて申告・納税を行うことになります。

法人税の申告には、日々の取引内容の帳簿付け=記帳が欠かせません。それと領収書、請求書といった資料などを基に、申告書を作成します。こうした時々の作業に税理士がどれだけ、どういう形で関与するのかというのは、契約の中身や先生の方針などで違ってきます。

――記帳を含めてすべてを“丸投げ”で依頼されるようなケースもあれば、申告書の作成や納税だけの場合もありますね。

佐藤 ちなみに、当事務所の場合は、基本的に3ヵ月に1回、顧問先と打ち合わせの場を設けて、その時点での法人税の概算などについてお伝えするようにしています。場合によっては、決算前の3ヵ月くらいで、予想以上の最終利益が見込まれるようなこともありますから、そういうときには、そこから可能な節税対策があれば、提案したりもします。

中小企業ができる節税対策とは

――中小企業にとって有効な節税対策には、そもそもどういうものがありますか?

佐藤 法人税は、「益金」(収益)から経費などの「損金」を差し引いた「課税所得」に、税率を掛けて算出されます。ですから、損金が多いほど課税所得は減り、納める税金は少なくなります。ひとことで言えば、法人の節税策のポイントは、どれだけ損金を多く算入できるか、ということになるわけです。

――そこは個人事業と同じで、経費などは、漏らさず計上する必要がある。

佐藤 そうです。そのうえで、けっこう利益が出そうなお客さまにお勧めするのは、中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)への加入です。これは、万が一取引先の事業者が倒産した場合に、自社が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐために設けられた制度です。売掛金の回収が困難になったりしたときには、無担保・無保証人で、掛金の最高10倍、上限8,000万円まで借入れすることができるんですね。

これがなぜ節税になるかというと、月額最高20万円の掛金の全額を損金に算入できるからです。納税額を節約しながら、リスク対策にもなりますから、一石二鳥と言えるでしょう。なお、解約した場合には、掛金を12ヵ月以上納めていれば掛金総額の8割以上が、40ヵ月以上ならば全額が解約手当金として受け取れます。

――節税対策として、生命保険が有効だ、という話も聞きます。

佐藤 法人が社長や従業員の死亡時に備えて保険料を支払う生命保険ですね。正直なところ、私はあまり積極的にはお勧めしていないんですよ。こうした法人保険は、かつては法人税節税の大きな武器ともいわれました。解約時の返戻率が高く、同時に保険料を全額、損金算入できるような商品があったからです。しかし、「行き過ぎ」に規制がかかり、今はそういう意味で魅力的な保険はなくなっています。

それでも、保険料の一定割合を損金算入できますから、目先の節税効果は、確かにあるでしょう。ただし、保険金や解約返戻金を受け取った際には、そこに法人税が課税されることには、注意が必要です。

――節税分と相殺に近いことになるわけですね。

佐藤 ですから、もともと、そんなに大きな節税メリットが期待できるスキームではないのです。解約の時期などによっては、損になる可能性も否定できません。

最初に「前向きな投資」を考える

佐藤 「節税策として、倒産防止共済をお勧めする」と言いましたが、実はその前に検討してほしいことがあります。

――それは何ですか?

佐藤 会社の成長につながるような前向きな投資案件はないのか、ということです。資金計画が立つ範囲でそういうものがあるのだったら、お金の使い道としては、そちらを優先させるべきでしょう。

――「前向きな投資」とは、どんなことでしょう?

佐藤 例えば、ホームページからの集客が見込める業種であれば、それをリニューアルし、SEO、MEO対策にコストをかける。そうすれば、かけたコストは、将来何倍もの売上になって返ってくる可能性があります。

これだけの人手不足ですから、人材系のところに積極的にキャッシュを使うということも考えるべきだと思います。売上に対して人が足りなくなってきたとか、店舗を拡大したいけれど、なかなか人が集まらない、とかの現実的な問題に直面していればなおさらです。

もちろん、業種や会社の置かれた状況などにもよりますが、自分のお客さまには、最初にそういった投資の必要性や可能性を検討し、具体策を提案して、考えていただくようにしています。

――経営者にとって、とても重要な視点だと感じます。

節税の目的を見失わない

――少し話は戻りますが、節税のためには経費をきちんと計上するのが大事だ、という話がありました。ただ、「何をどこまで経費にできるのか」ということが、常に問題になります。

佐藤 結局のところ、「業務に関係あるものか」「プライベートではない出費なのか」という「線引き」になるのですが、実際にはそこが“グレー”だったり、処理に迷ったり、ということが起こるわけですね。

医療系のお客さまが多いという話をしましたけど、例えば、取引先であるお医者さんへ日々の取引の感謝として、数十万円くらいのブランド品を贈ることも珍しくありません。

――それは経費になるのですか?

佐藤 基本的にはOKです。取引の実態があり、プライベートではなく贈り物として支出された、という証拠があれば。

あと、お客さまからよく聞かれるのが、従業員に支給するユニフォーム、作業着の代金ですね。これは、何かマークを付けるだとかして、私用で使いにくくすれば(笑)、税務署にNOと言われるリスクは減るはずです。

「そのユニフォームを洗う洗濯機は?」という問い合わせを受けたこともあります。これも、事務所に設置するなど、事業専用だということが立証できれば、何ら問題はありません。

ただ、この経費についても、考えていただきたいことがあって、「合法」だからといって、不要不急の経費を積み上げて節税に走ったりするのは、やめるべきです。

――これもお話があったように、損金を増やすほど、節税にはなるのですが。

佐藤 節税は、キャッシュアウトを伴うことが多いのです。そこに気をつけないと、税金は減らせたけれども、結局手元にお金が残らなかった、というナンセンスなことになりかねません。

必要な節税を行うのは、会社の維持、発展のための資金をできるだけ手元に残すため。そのことを忘れないようにしましょう。

「後編」では、決算間近で可能な対策、税理士の選び方などについて、さらにお話をうかがっていきます。

足立区・葛飾区・荒川区を中心に、税務支援及び財務支援のサービスを提供している税理士事務所。資金繰り、補助金、他士業紹介など、税務以外にも事業に関する提案をしながら経営者を幅広くサポートする。顧客とのコミュニケーションを重要視しており、相談しやすい環境づくりが強み。

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