相続にて事業を後継者に引き継ぐときに 注意したい3つのポイント
長い間自社の経営を続けてきて、相続を考えた際、何から手を付けてよいのか分からないといった声はよく聞かれます。相続を行うにあたり、事前の準備や知識が不足していると、税金面で不利になる、事業引継ぎがうまくいかないなど大きなリスクがあります。今回は、親族内後継者への相続の概要、実務上の注意点を解説していきます。
親族内承継とは
親族内承継とは、経営者の子供など自分の親族に事業を承継させることを言います。親族内承継を行うことのメリットは以下の通りです。
- 従業員や取引先から心理的な理解を得やすい
- 時間をかけて準備できる
- 第三者が事業を引き継ぐよりも、その後の事業が安定しやすい
一方、親族内承継には以下のようなデメリットもあります。
- 親族に経営者の素質が備わっているとは限らない
- 複数の後継者候補がいる場合には揉めてしまう場合がある
- 親子間の関係が悪化してしまう場合がある
後継者に事業承継する場合、経営者が所有している自社の株を後継者に引き継ぐ必要があります。なぜなら、後継者以外の親族に株を引き継いでしまうと、株を引き継いだ親族が経営に関して、関与してくる可能性があるためです。事業承継後、後継者が経営をスムーズに行うためにも、経営者が所有している自社の株は、後継者が引き継ぎます。
経営者が後継者に自社株を引き継ぐ時期は、経営者の生前に引き継ぐ場合と経営者の死後(経営者が株を後継者に移動せずに亡くなった場合)に引き継ぐ場合があります。
親族内承継の流れ
ここからは、親族内承継の流れについて見ていきましょう。
経営者が後継者に自社株を引き継ぐ時期は、経営者の生前に引き継ぐ場合と経営者の死後引き継ぐ場合があります。経営者の生前に自社株を引き継ぐ場合は、経営者から後継者への譲渡(売却)または贈与で引き継ぎます。経営者の死後(経営者が株を後継者に移動せずに亡くなった場合)に自社株を引き継ぐ場合は、経営者から後継者への相続によって引き継ぐことになります。
ここでは、経営者から後継者への相続によって自社株を引き継ぐ場合の流れについて見ていきましょう。
STEP,1 後継者候補の選定
一般的に事業承継では、まず後継者候補の選定から行います。親族内承継の場合、経営者の子供や親族から資質や本人の意思などを考慮し、後継者を選びます。
後継者が決まったら、後継者の教育もしていく必要があります。後継者の教育には、自社の内部でさまざまな部署を経験させる、社外の会社に勤務させる、社外の研修機関などで研修を行うなどの方法があります。
STEP,2 経営者の財産状況の把握
後継者の選定や育成とともに行わなければならないのが、経営者が所有している財産の把握です。経営者から後継者にどの資産を引き継ぐかを把握するために必要な作業です。
後継者に経営権を引き継ぐために必要な自社株はもちろんのこと、会社で使っている建物や土地なども、経営者の名義になっている可能性もあります。このような会社の経営で必要なものは、できるだけ後継者に引き継いだ方が事業承継後の経営がスムーズに進みます。
生前に後継者に財産を引き継ぐ場合には、後継者の財力により、譲渡(売却)や贈与などで財産を承継します。そうでない場合(いつ財産を引き継ぐかわからない場合など)は相続のことを考えて、事前に遺言書で後継者に引き継ぐ財産について記載しておくのも良いでしょう。
STEP,3 相続(株式の名義変更手続など)
経営者が亡くなると、相続の手続きが開始されます。相続の手続きでは、相続人の決定や財産内容の決定などが行われ、誰にどの相続財産を引き継がせるのか協議(遺産分割協議)を行います。遺言書がある場合は基本、遺言書の記載内容が優先されます。
株式を承継する相続人が決まった(ここでは後継者)後は、株式の名義変更手続を実施します。相続人は、引き継ぐ会社に対して、株式名義書換請求書を提出し、承認されることで名義書換が行われます。
株主名簿の名簿書換をもって、法的に先代経営者から後継者へ株式の引継ぎが正式に完了することになります。株主となった相続人は、株主総会を開催し、自らを取締役に選任し、その後の取締役会において代表取締役となることができます。
相続するときに注意したいポイント
①株式価値評価手法が決まっている
経営者が後継者に自社株を引き継ぐ時期は、経営者の生前に引き継ぐ場合と経営者の死後(経営者が株を後継者に移動せずに亡くなった場合)に引き継ぐ場合があります。経営者の生前に引き継ぐ場合、経営者から後継者にいくらで譲渡するのかは民法上、自由です(ただし、著しく低い価格で譲渡した場合は、贈与として贈与税の課税対象になる可能性があります)。
一方、相続の場合、いくらで相続するのかは自由ではなく、評価方法が決まっています。未上場株式の評価手法は以下の3つに法的に決まっています。
- 配当還元方式
- 純資産価額方式
- 類似業種比準価額方式
配当還元方式とは、2年間の配当金平均をもとに株価を計算する方法です。2年間の配当金が今後も永久に貰えると仮定して現在価値を計算して求められます。その際の割引率は10%と決まっています。例えば、2年間の配当金平均が100万円だった場合、配当還元方式による株価は以下のように決定されます。
純資産価額方式とは、資産・負債の相続税価値評価をもとにして株価を算定する方法です。資産に含み益があった場合には、税金分37%分を控除して計算する必要があります。
類似業種比準価額方式は、上場会社の評価倍率をもとにした計算方法です。M&Aの場合の事業や価値を算定する方法であるマルチプル法と考え方は同様ですが、評価指標は、配当金額、利益金額、純資産額の3要素を比較した計算式により算定します。
配当還元方式、純資産価額方式、類似業種批准価額方式のうち、どれを適用するかも相続税法上、明確に定められています。
②早期の準備が望ましい
親族の中で、後継者になれる親族が複数人いる場合、先代経営者が亡くなってしまった後に誰が後継者となるべきか揉めてしまう場合があります。相続税の申告期限は10か月と定められており、いつまでも揉めていて良いわけではありません。
誰が後継者なのか定まらない期間は、対象会社にとっても良い影響はなく、早めの決着が望ましいと言えます。そのためには、「先代経営者の中で誰を後継者にするのか」「複数の親族の中で誰が後継者となるべきか」などについて対象者で話し合い、事前にある程度決めておくことが大切です。
③後継者以外の親族、従業員への配慮
後継者となった親族は、後継者以外の親族、従業員に対して十分なコミュニケーションを実施することが重要です。親族内承継が行われた時期は、会社内の変化が大きく、コミュニケーション手法を間違えてしまうと、従業員の離職リスクが高まってしまいます。
事業承継後の経営方針について、先代経営者との違い・共通点を明示し、従業員などに対して、一人ひとり丁寧なコミュニケーションを心がけるようにしましょう。
相続にかかる税金について
自社株の引き継ぎにかかる税金は、大きく以下の4パターンに分かれます。
- 通常の相続の場合(経営者が株の移動をしないで亡くなった場合)の相続税
- 生前に譲渡した場合の所得税(ただし、適正価格でない場合は、差額が贈与)
- 生前に贈与した場合の贈与税
- 事業承継税制の特例措置を適用した場合(贈与税・相続税)
通常の相続の場合、相続する財産が相続税の基礎控除額よりも多い場合に相続税を納める必要が出てきます。相続税の基礎控除額は以下の計算式により求められます。
例えば、法定相続人が2人いる場合には、基礎控除額が4,200万円となるため、先代経営者の財産が4,200万円未満であれば相続税はかかりません。
相続税の税率については、累進課税制度となっており、10%~最大55%の税率がかかります。株式譲渡の税率は分離課税であり、税率は20.315%です。株式の評価が高ければ高いほど、相続でなく、株式を譲渡した方が税率上は大きく有利になることが分かります。
ただし、後継者が経営者から株を購入するためには、まとまった資金が必要です。また、株式の贈与を受けた場合も贈与税を納める必要があるため、資金が必要です。後継者に資金がないために事業承継が進まないといった状況にならないために、事業承継税制があります。
事業承継税制の特例措置とは、事業承継時の贈与・相続税を実質的に0円にできる制度です。適用するためには、以下の2条件をクリアしていることが必要です。
- 2023年3月31日までに、都道府県庁に「特例承継計画」を提出している
- 2027年12月31日までに、贈与・相続により自社の株式を取得している
特例措置は上記のとおり、時限立法であることから、適用の期限が切られていることに留意する必要があります。これから、事業承継税制の適用を考えている場合、期限に間に合うよう早めに準備しておく必要があります。
また、事業承継税制の特例措置適用にあたり、下記の通り、後継者側にも条件があります。
- 贈与直後に会社の代表権を有する
- 贈与直後に一族で50%の議決権を保有
- 贈与直後に筆頭株主である
- 20歳以上
- 引き継ぐ会社の役員就任後、3年が経過
特に最後の条件の「引き継ぐ会社の役員就任後、3年が経過」をどうクリアするかが実務上よく課題になります。解決策として、後継者となることが予定されている子供に形式的に監査役に就任してもらい、条件をクリアするといった手法が挙げられます。
まとめ
今回は親族内承継の流れから、相続における3つの注意点、相続にかかる税金の概要を確認してきました。相続や事業承継については、あらかじめ入念に準備しておかなければ、残された家族が揉めてしまう可能性が出てきます。
税制上も通常の相続でなく、事業承継税制の特例措置を適用したい場合には、2023年3月31日までに特例承継計画を都道府県庁に提出しなければなりません。
安全で効率的な事業承継実施のためには、専門家の助けが必要不可欠です。自分ひとりであれこれと悩まずに、税理士などの専門家を頼ることが、事業承継成功のための一番のポイントです。
▼参考URL
- https://www.sc.mufg.jp/service/jigyoshokei/stock_hyoka.html
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4638.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
- https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2019/190403shoukei_manual_1.pdf
- https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/chushou/shoko/keiei/jigyoshokeizeisei/
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