【節税術 後編】中小企業にとって効果的な節税策とは 決算期間近でも、できることはある?
北千住税理士事務所 代表税理士 佐藤響氏「決算ギリギリ」の節税対策:決算賞与の支給
――前編で、「もし決算3ヵ月前ぐらいに、かなりの利益が出ることがわかったら、そこからできる節税対策があれば提案する」というお話がありました。どのような対策が考えられますか?
佐藤(敬称略) 1つは、決算賞与の支払いです。決算賞与とは、名前の通り決算に合わせて支給される「ボーナス」で、損金に算入することができます。事業年度終了の日の翌日から1ヵ月以内であれば、決算後の支払いもOKです。
――言葉を選ばずに言えば、利益が上がって税金を多く取られるくらいなら、従業員に還元しよう、と。
佐藤 そういう発想の方もいらっしゃると思います(笑)。決算賞与には、節税と同時に、働く人のモチベーションのアップにつながる、というメリットがあります。
ただし、節税額が給与支給額を上回ったりすることはありませんから、会社からすれば、やはりキャッシュアウトになるんですね。とりあえず手元に多くお金を残す必要があったら、普通に納税する道を選んだほうがいいと思います。
また、支給日が事業年度終了の日を過ぎる場合には、それ以前に従業員に対して支給額を通知しなくてはなりません。その期の決算で、支給額についての損金処理をしておくことも不可欠です。決算を終えてから、「利益が出過ぎたので、賞与を支給したいのですが」と相談を受けたことがありますが、「それは無理です」とお答えするしかありませんでした。
――メリット・デメリットを見極めたうえで、決算前に対策を講じる必要があるわけですね。
「決算ギリギリ」の節税対策:少額の資産の購入
――中小企業にとって有効な節税対策には、そもそもどういうものがありますか?
佐藤 決算間近の節税対策としては、事業に使う資産、例えば事務用品とかパソコンとか車とかを購入して、その期の利益をできるだけ圧縮する、という方法も考えられるでしょう。くどいようですが、だからといって必要性の低いものまで買って、無理くり節税するというのは、本末転倒です。
――あくまでも、今期中に購入しておくべき資産はないか、という観点で検討する。
佐藤 その際、30万円未満の資産かどうか、というのもポイントです。通常、10万円以上で購入した資産で、年々価値が減っていく性格のものは、減価償却といって、決められた耐用年数に従って、各年度で経費に計上していく決まりになっています。逆に言えば、そういう資産は、原則として購入した年に一括で損金算入することはできません。
――その期の利益を減らしたい場合には、効果が薄れてしまいます。
佐藤 ただし、青色申告をしている中小事業者には特例があって、30万円未満の資産であれば、その年に一気に経費として落とすことができるんですよ。総額300万円までという上限はありますが、この特例を使って、複数の資産を購入することも可能です。
「期限後申告」にも対応する理由
――実際、決算間際になってから、先生のところに駆け込んでくるようなケースもあるのですか?
佐藤 ええ、ありますよ。でも、残された時間が1,2ヵ月だと、節税という点でできることは限られます。そもそもそういう方は、節税が必要になるほどの利益は出ていないことのほうが多いのですが。
――とにかく決算と申告を頼みたい、ということですね。
佐藤 決算ギリギリどころか、申告期限が過ぎてから「お願いできませんか」と来る人もいます。たぶん他の事務所だと断られるようなケース(笑)。うちでは、可能な限り対応するようにしているんですよ。
長期間無申告の人は個人事業主に多いのですが、法人でも1,2年申告していない、という社長がけっこういます。まあ、資金繰りが苦しくて、納税資金や税理士報酬が工面できなかったとか、理由はさまざまですけれど。
――そういう場合は、どのように対処するのでしょう?
佐藤 とにかく、領収書をはじめとする資料を集められるだけ集めてもらって、早急に入力作業などを行い、概算の納税額を伝えて、支払いの準備をしていただきます。ただ、実際には一括納付が困難なこともあるんですね。そういう場合には、税務署に申請することで、分割払いなどが認められる可能性がありますから、そうしたことも検討することになります。
――あえてうかがうと、他の事務所では断られるような期限後申告に対応するのは、なぜですか?
佐藤 当事務所の場合も、ちゃんと資料を提示できるのか、確認事項に回答いただけるのか、といった前提条件はあります。それを踏まえたうえで言えば、そういう方は、税理士報酬を払い、納税を行う、という意志を持っているから、わざわざ来られるわけですよね。そうである以上、「期限後だから」と断るというのも、税理士としてどうかな、と。
みんなが断ってしまえば、その方は、ずっと納税できない状態が続くことになるでしょう。どこかで「負の連鎖」を断ち切って、ちゃんと税金を納め、不安を払拭して事業に専念してもらうというのも、我々の役目ではないかと思うのです。
個人と法人のバランスを考える
――とはいえ、適切な節税を行い、前向きな投資のための資金を確保していくためには、なるべく決算まで余裕を持って、対策を進めることが大事ですね。
佐藤 我々からすれば、年度の初月から関わらせていただくのが理想なのは、言うまでもありません。事業に即した提案の幅が広がるのはもちろん、重要なのは、経営者という個人と法人とのバランスを踏まえたアドバイスが可能になることです。
個人事業主と違い、事業を法人化すると、経営者はその法人から報酬を受け取る形になります。納める税金は、事業の利益に課税される法人税+報酬にかかる所得税になるわけです。
――報酬を多くし過ぎると、法人税は節税できても、所得税が嵩んで、トータルの納税額が膨らむかもしれません。
佐藤 そうなのです。でも、一方で経営者やその家族には、それぞれが大事にしたいライフスタイルや将来の目標がありますよね。例えば、子どもにこんな教育を受けさせたいとか、何年後に家を新築したいとか。そうした人生設計に即した収入をきちんと確保していくのが理想で、これも単純に税金の損得で割り切れる話ではありません。
期首からお任せいただければ、収益の予測、経営者のご希望などをうかがい、「役員報酬をこれくらいにすれば、トータルの税はこの程度」といったシミュレーションを基に、より有効な対策を講じていくことができます。
――期首から任せてほしい、というのには、何か理由があるのでしょうか?
佐藤 各年度の役員報酬の金額は、株主総会の決定事項で、社長が勝手に決めたり変更したりすることはできません。ただし、期首から3ヵ月以内であれば、総会の決定を経て、増額・減額することが認められているんですよ。正確に言えば、3ヵ月を過ぎても変更は可能なのですが、受け取った報酬の一部を損金に算入できなくなります。
つまり、事業年度の初めから我々がかかわれば、スタートから3ヵ月の状況を見つつ、より正確な収益予想などを基にした対策を提案することができるのです。仮に利益が大きく上振れしそうだったら、他の節税対策の実行とともに、役員報酬の引き上げを行う、という手も打てるわけですね。当然、その逆もあるでしょう。
――なるほど。「決算ギリギリ」とかでは、そこまで考えてもらうのは、とても無理なことがわかります。
税理士選びのポイントは「コミュニケーション」
――「経営者のライフスタイル」というお話がありましたが、それをある意味、明け透けに話してもらわないと、正確なアドバイスはできないでしょう。
佐藤 そこがとても大事なところで、この仕事は、お客さまとのコミュニケーションに尽きる、と私は思っているんですよ。新規に顧問契約したお客さまのところには、できるだけ足繁く通って人間関係をつくり、事業のことに加えてプライベートの部分をしっかり把握したうえで、いろんな提案に結びつけるように心掛けています。
――先生のところには、他の事務所から移ってくるお客さまもいますか?
佐藤 けっこういらっしゃいます。理由として多いのは、「アドバイスしてもらえない」「1年に1回しか来てくれない」。やはりコミュニケーションに問題のあるケースが多い、というのが実感です。
あえてつけ加えておけば、そういうお客さまにうかがうと、前の先生の報酬は、当事務所の2分の1、3分の1だった、ということが珍しくないんですね。その場合、1人の先生やスタッフがかなりの数のクライアントを抱えないとペイできませんから、お客さま個々に提供できるサービスは「薄く」なりがちでしょう。
――報酬だけで税理士を選ぶと、「こんなはずでは」ということになりかねません。
佐藤 お金という一番シビアなところを相談する相手なのですから、相性も大事です。契約に際しては、実際に何人かと会って、自分に合う先生を選ぶのがいいのではないでしょうか。
――本日は、中小企業経営に参考になるお話をありがとうございました。最後に、事務所の今後の展望をお聞かせください。
佐藤 現在、税理士は私1人、スタッフが5人という体制ですが、来年(2025年)末までには、10人超の組織にして、税理士も入れたいと考えています。仕事の中身としても、事業者の税務、財務支援に加えて、組織再編とかあるいは個人の相続などにも対応し、よりみなさまのお力になれる事務所にしていくのが目標です。
――今後の成長に期待しています。
足立区・葛飾区・荒川区を中心に、税務支援及び財務支援のサービスを提供している税理士事務所。資金繰り、補助金、他士業紹介など、税務以外にも事業に関する提案をしながら経営者を幅広くサポートする。顧客とのコミュニケーションを重要視しており、相談しやすい環境づくりが強み。
URL:https://www.kitasennjuzeirisi.com/