法人で「がん保険」に入るメリットとは?がん保険の有効活用について解説

[取材/文責]奥谷佳子

生命保険の保障内容の一つに、がんに罹ったときに保険金の給付を受けられる「がん保険」があります。「がん保険」は個人はもちろんのこと、法人でも契約可能です。今回は、法人で「がん保険」に入ることのメリットやデメリット、がん保険の有効活用などについて解説していきます。

まずは知りたい「がん保険」とは何か?

「がん保険」の給付対象となる疾病とは?

三大疾病といえば「心疾患」「脳血管疾患」「がん(悪性新生物)」です。今回解説する「がん保険」は、このうち「がん(悪性新生物)」に罹ったケースのみを保障するための保険です。ひとことで「がん」といっても、長期間にわたる抗がん治療に対する保険料負担をするケースもありますし、入院生活が長引き収入がない状態で入院費用を負担しなければならないケースもあります。また、不幸にもお亡くなりになった場合には、残された家族の生活保障という問題も出てきます。

現在、がん保険は次の4つを原因として給付されるものが主流となっています。

・入院給付金
 …がんと診断され、治療のため入院する際に支払われる給付金

・手術給付金
 …がん治療のため手術を受ける際に支払われる給付金

・治療給付金
 …がん治療のため投薬や治療行為を受けた際に支払われる給付金

・がん診断給付金
 …がんと診断され支払われる給付金

 

保険商品ごとにカバーする範囲は異なりますが、がんが不治の病ではなくなった現在では手術や抗がん剤治療などで完治を目指すことが多くなりました。必然的に費用負担が増加しますので、複数の保険商品を組み合わせることで、がんに対してあらゆる事態を想定し、幅広くカバーできるように契約するのが一般的になりつつあります。

医療保険との組み合わせで疾病を幅広くカバー

例えば、がんに罹った際に手術や治療で長期間の入院を余儀なくされる場合があります。治療可能な病気になったとはいえ、がんで入院した場合の入院期間は長期間、場合によっては先が見えない、といったことも考えられます。結果として入院にかかる費用が高額になり、生計への負担が重くなると不安に感じる方もいるのではないでしょうか。

そのような場合にお勧めしたいのが「医療保険」との重複契約です。がん保険が、がんに罹患した場合のみ給付対象となるのに対し、医療保険はがんに限らずどのような疾病が原因であっても給付対象となる商品が多いのが特徴です。万が一入院した場合、がん保険と医療保険の給付金を重複して受け取ることができますし、がん以外の疾病に備えることもできます。保険が重複することで保険料負担が増加する、がん保険と異なり医療保険は給付対象の入院日数に上限があるといったデメリットはあります。しかし、複数の保険を組み合わせて幅広く備えることで、得られる安心感は大きくなります。

法人向け「がん保険」の活用

法人向けの「がん保険」とは何か?

生命保険契約といえば、個人で契約するものというイメージを持っている方もいると思いますが、がん保険は法人でも契約できるということをご存じでしょうか。法人はその名のとおり「法のもと人格(法人格)を付された組織」です。しかし、法人が生命保険契約を結んだとしても、法人自体が被保険者となることはできません。法人契約で被保険者となれるのは内部の役員や従業員です。なお、保険金の受取人になれるのは契約者である法人に限らず、被保険者である役員や従業員もなることができます。ただしこの場合、契約内容によっては保険料が被保険者に対する給与扱いとなり、源泉所得税の問題が発生しますので注意してください。

がん保険の掛金と法人の経理処理について

次に、法人が保険料を負担した場合の経理処理について解説します。保険料の経理処理については2019年の保険通達のルール改正によって、非常に複雑になっています。ここでは「定期保険」の経理処理を例にあげてみます。

最高解約返戻率 資産計上期間 資産計上額 資産取崩期間
85%超 A.Bいずれか長い期間

A.保険開始日から
 解約返戻率が
 最も高くなる
 期間終了の日

B.Aの期間経過後に(当年の解約返戻金 
 相当額-前年の
 解約返戻金
 相当額)÷年換算保険料相当額」が70%を超える期間

(資産計上期間が
 5年未満となる場合 
 には5年間)
(保険期間が10年
 未満の場合には
 保険期間の当初
 5割相当期間を
 経過する日まで)

1.保険期間の当初10年経過する日

 当期支払保険料
 ×最高解約返戻率
 の90%

2.保険期間の
 11年目以降
 当期支払保険料
 ×最高解約返戻率 の70%

解約返戻金が最も高くなる期間経過後から保険期間の終了の日まで
70%超85%以下 保険期間の4割相当経過まで 保険料の60% 保険期間の7.5割相当経過後
50%超70%以下 保険期間の4割相当経過まで 保険料の40% 保険期間の
7.5割相当経過後
50%以下 0(全額損金経理)

 

法人契約の生命保険契約といえば、かつては節税効果が期待できる保険商品が数多くありました。掛金の全額を保険料として全額損金経理することで、法人税等の節税効果を合わせた返戻率(実質返戻率)が掛金を大きく上回る商品もあり「保険契約=節税」というイメージがあったのは事実です。しかし、生命保険契約の本来の目的は将来起こり得るリスクを保障することであって、法人の課税回避行為のために存在するものではありません。2019年の保険通達の改正により税務当局がこのような目的を逸脱した生命保険契約を禁止したため、現在では返戻金が掛金を上回る生命保険契約はありません。つまり節税効果がある生命保険契約というのは存在せず、保険会社が節税という謳い文句で保険を募集することも禁止されています。

法人で「がん保険」に加入するメリット・デメリットについて解説

法人で加入するメリットとは?

では法人が「がん保険」を契約することのメリットをあげてみましょう。

1.従業員の福利厚生目的

従業員ががんに罹った場合、手術や治療などの負担が生計を圧迫することも充分考えられます。生計が成り立たなければ業務に専念することもままなりませんので、会社にとってもマイナスになります。法人契約のがん保険に加入していれば保険料は会社が負担してくれますし、万が一がんになった場合にも従業員は給付金を受け取れます。現在では、従業員に対する福利厚生目的でがん保険に加入する企業も増えています。

2.退職金の原資目的

がん保険のなかには、解約した際にお金が返戻されるものがあります。例えば積立型の終身がん保険は解約したときに返戻金が貰えるのです。この仕組みを利用して、早い段階でがん保険を契約し、退職に合わせて解約すれば、退職金の原資として使えるという仕組みです。がん保険の保障を受けつつ退職金の積立もできるというメリットがあります。

法人で加入するデメリットとは?

最後に、法人で「がん保険」に加入することのデメリットについて解説します。

1.節税効果は薄い

解約返戻率が50%以下の契約については保険料を全額損金にできますので、一定の節税効果はあります。しかし、前段でも述べましたが、現在ではかつてのような大幅な節税を目的とした生命保険契約はありません。掛金に対して返戻される金額の割合(単純返戻率)や節税効果を含めて返戻される金額の割合(実質返戻率)も掛金を上回ることはありません。

2.返戻金は払込保険料よりも少なくなる

保険本来の目的であるがんに対する保障を買うことはできるものの、返戻される金額は払い込んだ保険料より少なくなります。なかには返戻率が限りなく100%に近い保険商品もありますので、返戻率を重視される方はそちらを検討してみてはいかがでしょうか。

まとめ

がんは治療可能な病気になりました。しかし、治療できるとはいえ高額な医薬品や治療方法に頼らざるを得ない状況になることもまたリスクとして存在します。法人の将来を考えた、適切な保険商品を選択するようにしましょう。

Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。

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