
【相続 前編】税金だけではない「相続対策」 今からできること、やるべきこととは
エイタックスグループ 代表 小山茂三氏「相続に不安を感じるものの、何をしたらいいのかわからない」という人は多いはずだ。今回は、相続に関する相談に年間200件近く対応しているエイタックスグループの小山茂三代表(税理士、行政書士)に、節税対策だけでなく相続手続なども含めて、見落とされがちなポイントを中心に解説してもらった。
記事では、「前編」で相続発生後も含めた相続税対策について、「後編」で理想的な生前の準備、相続手続も含めた注意点などをお話しいただいた。
まずは財産の把握から
――初めに貴社の概要をお聞かせください。
小山(敬称略) 名古屋市に本社を置き、愛知県武豊町、札幌市、金沢市の計4拠点で業務を行っています。事務所全体の業務のウエートとしては、法人、個人の事業系のお客さま向けが65%、残りの35%が相続を中心とする資産税関連となっています。
相続に関しては、専門のチームで対応します。グループに司法書士や行政書士の部隊もあるので、相続税の申告だけでなく、不動産の名義変更、遺言書の執行など全方位的な相続のお手伝いが可能なんですよ。そうした相続に関する相談を、年に200件ほど受けています。
――どんな相談が多いのですか?

小山 当社は葬儀社と連携して、相続発生直後のお客さまの相談にも乗っているのですが、そこで多いのは、やはり「相続税がいくらぐらいになるのか?」という質問ですね。この先どんな手続きが必要になるのかがわからず、不安を抱く方も大勢います。
ですから、まずは亡くなった方の財産を把握して、そもそも相続税が発生するのか、発生する場合にはいくらぐらいになるのかをお示しするところから、対策を始めます。大まかな金額がわかって、キャッシュで賄えるようであれば、そこで1つ安心していただけますから。
――相続税には基礎控除(※)があります。例えばそうした知識は、みなさんお持ちなのでしょうか?
※相続税の基礎控除 相続税は、被相続人(亡くなった人)の財産から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引いた金額に課税される。相続財産が基礎控除の範囲内であれば、課税されない。
小山 ご存知でない方も、けっこういらっしゃいます。相続財産が1,000万円くらいでも心配になって、「相続税はかかりませんよ」と説明すると、「よかった」とほっとされたりするようなケースも少なくありません。
相続発生後にはマイナスの財産を積み上げる
――財産が多い場合には、計画的な相続対策を行うのが理想ですが、実際にはこれといった手を打たずに相続を迎えてしまうようなことも多いと思います。そのような場合にも、節税のためにできることはあるのでしょうか?
小山 ご高齢になってからの対策としては、生命保険の活用が有効です。生命保険(死亡保険)には、「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。この非課税枠までの現金を保険料として支払い、相続人が死亡保険金として受け取った場合、その分には相続税が課税されません。
つまり、そのままなら相続税の課税対象になるキャッシュを、生命保険という資産に組み替えるわけですね。高齢になると、入れる保険を選ぶ必要はありますが、保険料の一括支払いなどですぐに対応が可能です。
――亡くなった後に有効な対策はありますか?
小山 相続発生後には、今お話ししたような資産の組み替えなどは、ほぼできなくなります。なので、まずは残された資産の中身を精査することが大事になるでしょう。
相続財産には、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産が含まれていることもあり、それらは財産の総額から差し引くことができるんですよ。それらを忘れずに積み上げていくことが重要です。
――借金以外に、マイナスの財産として出てきそうなものは?
小山 例えば、亡くなった後に支払いが発生するものです。水光熱費や電話代、固定資産税のような税金、保険料、さらに生前利用したクレジットカードの支払いなどですね。細かいものですが、足し算していけばそれなりの金額になるかもしれません。
「配偶者居住権」を使ったスキーム
――とはいえ、亡くなってからだと、やはりできることは限られてしまうようですね。
小山 ただし、それが一次相続、すなわち初めての親の相続の場合には、もう一方が亡くなる二次相続のことも考えつつ、有効な対策を取ることも可能です。
――子どもから見て、一次、二次相続トータルでの納税額をできるだけ少なくする。
小山 そうです。例えば、父が亡くなった一次相続で、母が、相続する財産の1億6,000万円か法定相続分まで非課税になる配偶者控除を目いっぱい使って相続すれば、相続財産の総額を大幅に減らし、節税することができます。しかし、二次相続では、そのとき母が受け継いだ多額の財産に相続税が課税されることになるので、一次相続である程度子どもに多くの財産を渡しておくほうが、有利なケースがあるわけです。

そうした観点から紹介したいのが、2020年に民法上の権利として新設された「配偶者居住権」を使った節税なんですよ。制度自体は、残された配偶者が引き続き自宅に住み続けられることを保障するのが目的で、自宅の不動産を所有権部分と利用権部分=配偶者居住権に分けたうえで、利用権のみを相続することが可能になりました。
――その制度を使うとなぜ節税になるのか、説明をお願いします。
小山 配偶者が自宅を丸ごと相続すれば、それは二次相続の際には、相続財産としてカウントされます。一方、一次相続で自宅の所有権を子どもが相続し、利用権を配偶者が相続する形にした場合、その相続では所有権と利用権について定められた評価が行われ、それぞれが課税対象になります(※)。
ただし、配偶者の利用権部分が差し引かれるぶん、子どもは本来の相続税評価額よりも金額がぐっと下がった状態で、自宅の所有権を相続することができます。配偶者の利用権部分の金額については、配偶者控除で十分吸収できるでしょう。
ポイントは、配偶者居住権という権利は、配偶者の死亡とともに消滅することです。権利に付随する財産的価値もなくなりますから、二次相続で子どもに相続税がかかることはありません。自宅という不動産を配偶者の所有を通さずに、節税しつつ子どもに渡すことができる、というわけです。
――なるほど。でも、ほとんどの人は配偶者居住権がそのように使えるのを知らないのではないでしょうか。
小山 そうですね。ただ、このスキームを使うのには、相続人の側に条件もあります。兄弟姉妹がいた場合、例えば兄がそうやって自宅をもらうことに、他の人が同意するのかどうか。ありがちなのは、「とりあえず今回は、自宅はお母さんに相続してもらえばいいじゃないか」というパターン。
確かに一度相続人の誰かが所有権を引き継げば、あとで引っくり返すのは困難です。そうしたことが争いの原因にもなりかねませんから、みなさんで納得して進めなくてはなりません。
一次相続では誰にキャッシュを渡すべきか
――そのほか一次相続の際に意識すべきことはありますか?
小山 相続財産に現金と不動産などの換金の難しいものがある場合には、キャッシュは残った配偶者ができるだけもらってほしい、とアドバイスします。理由は大きく2つあって、1つは単純に生活のために必要だから。
――そこから何年ご存命になるかわからないし。
小山 そうです。税金だけでなく、ひとりになった親の生活をどうするのか、という視点も必要になるのです。
もう1つの理由は、そのほうが、二次相続に向けた贈与などの節税対策がやりやすい、ということ。不動産などは、何かやろうと思っても動かしにくいですから。
―― 一次相続後の状況の変化などにも、対応しやすいわけですね。
「後編」では、相続手続の注意点や遺言書の重要性などについて、引き続き語っていただきます。
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