
【相続 後編】税金だけではない「相続対策」 今からできること、やるべきこととは
エイタックスグループ 代表 小山茂三氏節税は相続対策の1つ
――相続では、相続人同士の争いが起こることも少なくありません。
小山 大体のケースでは、細かなやり取りはあってもある程度妥協しあって、合意形成ができるのですが、中にはこじれるものもあります。けっこうあるのが、遺産分割がまとまりかかったのに、その話を自分の家に帰って奥さんや旦那さんに話したら、「どうしてうちはそれしかもらえないのか」と言われて、態度が変わってしまうパターン。
――相続人ではない関係者が遺産分割に絡んでくると、話がややこしくなりますね。
小山 そういうときにつくづく思うのが、やはり被相続人が遺言書を書いておくなど、生前の準備をしておいてくれたらよかったのにな、ということなんですよ。
節税は大事ですが、あくまでも相続対策の1つ。それ以外の部分についてしっかり対策を講じることが、円満な相続の鍵になります。ここは、相続税が発生しないケースに共通する、という意味でもとても重要です。
――相続財産の少ない方がかえって争いになりやすい、というデータもあります。
小山 実際には、「うちにはそんなに資産がないから、相続対策は必要ない」という認識をお持ちの方も多いんですね。そういう場合には、「相続は誰にも起こる」「対策を怠ると相続人が苦労します」という話をするのです。
メリットの多い「自筆証書遺言書保管制度」

――遺言書の話が出ましたが、やはり書いておく意味は大きいのでしょうか?
小山 相続争いを防ぐのに有効なのは、間違いないと思います。ただ、難しいのは、子どもの側からそういう話をすると、「何だ、お前たち。財産目当てなのか」となりやすいこと。これも私たちのような人間から、「争いごとにならないように、遺言書を残しましょう」と説明することで、「そうだね」と納得していただけることがよくあります。
――有効な遺言書には、自分で書く「自筆証書遺言書」や公証人に書いてもらう「公正証書遺言書」などがあります。このうち「自筆」について、法務局で保管してもらえる「自筆証書遺言書保管制度」が設けられています。この制度については、どう思われますか?
小山 結論から言えば、非常にいい制度ではないでしょうか。公正証書遺言書は安全・確実ですが、作成のために公証役場に出かけなければならず、2名以上の証人が必要、財産額に応じた手数料がかかる、といったデメリットがあります。
一方、手書きの遺言書は、思い立ったときに簡単に作ることができて、費用もかかりません。ただし、必要事項などの要件を満たしていないために無効になってしまう、改ざんや紛失の可能性がある、といったリスクがあります。相続人が遺言書の存在に気付かないこともあるわけです。
「保管制度」では、要件などの確認を行ったうえで法務局に預かってもらえますから、こうしたリスクはなくなりました。今までは、確実に遺志を実行してもらうためには、公正証書遺言書の作成がスタンダードだったのですが、この制度を使うことで、「自筆」でもそれに匹敵する信頼性が保証されるようになった、と言えると思います。
遺言書は早めに作って定期的に見直すのが理想
――そうした相続の準備は、いつごろから始める必要があるとお考えですか?
小山 お持ちの財産や家族関係などにもよると思いますが、早いに越したことはありません。必要だと思ったときには、すぐに始めるべきでしょう。
顧問になっている経営者の方で、50歳前ですでに遺言書を作成されている方がいます。最初に書かれたのが30代の後半で、3年ぐらいごとに見直しもしているんですよ。遺言書はいつでも書き換えることができ、日付の新しいものが有効になります。
――それは、かなりしっかりした方ですね。
小山 以前、親族で相続争いを経験されたこともあって、とにかく自分が亡くなった後に家族を不安にさせたくない、という思いが強いのです。遺言書を定期的に見直すのは、会社を複数経営していて、3年経つと財産の状況がけっこう変わっているためです。
ちなみに、この方も以前は公正証書遺言書を作成し、書き換えを行っていたんですね。その都度コストもかかっていたわけですが、法務局の保管制度ができてからは、自筆に切り換え、スムーズに見直せるようになりました。
――そこまでやれば、たくさんの種類の財産を持っているような場合にも安心できるでしょう。
小山 そもそも家族は、父親がどんな財産を持っているのか、知っているようで知らないケースが多いのです。笑い話のような事例があるのですが、相続税の申告後に税務調査になって、「ここに3,000万円の有価証券の口座があるのを知っていましたか?」「いえ、知りませんでした」と。この場合、追徴課税になるのは大変ですが、相続人はそんな遺産があることに気付かなかったわけですから、「税務調査になってよかった」と税務署に感謝していました。
――プロが見つけてくれなければそのままだった、と。
小山 極端な話、そんなことも起こるわけです。財産の中身をきちんと整理して、残された家族がわかるようにしておくという点でも、遺言書の作成には大きな意味があります。
不動産の相続登記が義務に
――相続財産の中でも、不動産はもともと高額なうえに、評価の仕方によって価格が変動することなどから、特に注意が必要だといわれます。
小山 不動産の価値という点では、固定資産税を支払うときの明細を見て、「これが今の値段なんだ」という認識を持っている人が多いと思います。でも、相続の際の評価額は、それではなくて、路線価という指標を使って計算されることになります。なんとなく基礎控除の範囲に収まるだろうと考えていたら、実際には相続税が発生した、ということもありえますから、注意してください。
また、特に気をつけたいのが、相続した不動産の名義変更です。全国で所有者不明の土地が拡大していることを背景に、2024年4月から相続登記の申請が義務化されました。これ以前に発生した相続についても適用され、怠ると10万円以下の過料の対象になります。
この措置についても、まだ知らない方が多く、大昔に亡くなったお爺さんの名義のままにしているような例が、けっこうあるんですよ。固定資産税の通知書には名義人の記載がありますから、まずはそこをチェックして、問題がある場合には早めに対処するのがいいでしょう。
税務調査で問題になるのは
――さきほど税務調査の話もありましたが、問題になるケースには、どんなものが多いのですか?
小山 申告から相続財産が漏れていた。あとは、贈与しているつもりが「名義預金」と判断された。この2つが代表的なものでしょう。
名義預金というのは、例えば親が子どもや孫名義の口座を作って、お金を積み立てているような場合が該当します。贈与は渡す側ともらう側の同意があって成立する契約なので、もらう方が知らなかったら、ただの預金と同じ。贈与は認められず、被相続人の相続財産に戻さなくてはなりません。専業主婦の方が旦那さんの給料から貯めていたへそくりも、名義預金になります。
現在は勝手に口座を開くのは困難ですが、高齢者世代の場合にはOKだったため、今の相続にはこの名義預金がとても多いのです。
――こつこつ贈与するのであれば、名義預金と判断されないように気を付けたいですね。
小山 ちょっと宣伝のようになりますが、当社では相続税の申告書に100%書面添付(※)していることもあって、お客さまが税務調査になることは少ないんですよ。
※書面添付制度 申告を担当した税理士が、どのようにしてそれを作成したのかについての情報を記載した書面を申告書とともに提出する制度(税理士法第33条)。申告書の信頼性を高める目的がある。

――すべての申告書に書面添付を行っているというのは、すごいですね。
小山 書面添付をしていると、税務調査の前に税理士に見解を求める意見聴取の機会が与えられます。そこで税務署の疑問が解消されれば、税務調査にはならないんですね。納税者の負担を減らせる可能性がある制度ですから、我々は積極的に活用しています。
安心するには、まず専門家に相談を
――そこまでやってもらえれば安心です。お話をうかがってきて、やはり相続で不安を感じたら、一度専門家に相談してみるべきだと感じます。
小山 ネット上にもいろいろな情報が出ているのですが、間違っていることもあります。当社もそうですが、相続に関する無料相談を受け付けている事務所もありますから、利用してみたらいかがでしょうか。相続税の概算や、必要な相続手続の全体像が把握できたら、ずいぶん気を楽にできると思いますよ。
――わかりました。最後に貴社の今後の目標、展望をお聞かせください。
小山 最初にも申し上げた通り、当社は司法書士や行政書士といった専門家を内製化しており、資産税のプロの国税OBもいます。この強みを発揮できるのが相続で、よりお客さまに喜んでいただけるサービスを提供できる、という自負もあります。事業全体を成長させながら、将来的には相続関係の比率を現在の35%から50%くらいに高めていくことを目標にしています。
――いっそうのご活躍を期待しています。本日はありがとうございました。
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