
「福利厚生の活用」
という節税術
資金繰りに余裕が出てきた会社にぜひ見直していただきたいのが福利厚生費の取り扱いです。福利厚生費を効果的に活用することで、節税効果を得られるだけでなく、社員のモチベーション向上にもつながります。今回は、福利厚生費を活用する節税の具体的な方法や節税メリット、注意点を詳しく解説します。
そもそも福利厚生費とは
福利厚生費とは、給与や交際費以外の給付で、従業員の生活向上や労働意欲の向上を目的として会社が支給する費用を指します。福利厚生費は法律で義務付けられているか否かによって、法定福利厚生と法定外福利厚生の2つに分類されます。
●法定福利厚生とは
法定福利厚生とは、法律で企業が従業員に対して提供することが義務付けられている福利厚生制度のことです。具体的には、健康保険や厚生年金などの社会保険料、労働基準法で定められた休業補償などが法定福利厚生に該当します。
●法定外福利厚生とは
法定外福利厚生は法律で定められていない福利厚生を指し、企業が任意で従業員に提供するものです。社員旅行や社員保養施設、食事補助などが法定外福利厚生に該当します。これらの提供は法律上の義務ではないため、法定外福利厚生を一切提供しなくても問題ありません。しかし、多くの企業は法定外福利厚生を積極的に導入しています。それは、社員の満足度を高めるだけでなく、会社にも大きなメリットがあるからです。
福利厚生費が
節税につながる理由
福利厚生費は経費として計上できることが節税につながる理由です。法人税は収入から経費を差し引いた利益に対して課税されるため、福利厚生費を経費計上することで課税所得を減らし、結果として法人税を節税できます。また、従業員も福利厚生を目的として支給されたものは一定の条件を満たせば給与に該当せず、所得税はかかりません。このように福利厚生費を効果的に活用することで、企業と従業員の双方に節税メリットをもたらします。
福利厚生費として
認められる要件とは?
社員の福利厚生のための費用として認められたものは経費として扱え、節税につながることは分かりました。では実際に、福利厚生費として認められるには、どのような要件が必要なのでしょうか。社員に支給したものを福利厚生費として認定してもらうために必要な要件は、
- 社内規定を整備しておくこと
- 社員全員を対象としていること
- 社会通念上で適当と思われる金額であること
の3つです。
社内規定を整備する際は、福利厚生費の項目ごとにしっかりと金額を明示するようにしましょう。また、一部の社員のみを対象としている場合、該当する社員への給与と判断されてしまい、源泉所得税の対象となってしまう場合があることにも注意が必要です。①②については比較的明確に定められた要件ですが、3つ目の社会通念上適当と思われる金額である、という要件は非常に曖昧で定性的になっています。「社会通念上で適当と思われる金額」については客観的な基準があるわけではありませんが、常識の範囲内であり、税務調査時に説明できるかどうかが基準となります。
福利厚生の節税メリット
福利厚生を活用することで、企業は法人税の節税、従業員は所得税の負担軽減といったメリットを享受できます。
節税メリット1 損金算入で法人税を節税
福利厚生費は、「役員・従業員の福利厚生を目的として、給与・交際費以外の間接的な給付を行うための費用科目」と定義されています。企業が従業員に支給した手当のうち、税務上の諸基準を満たし、福利厚生費として認められたものは経費として算入することが可能です。法人税の計算は、企業の収入から経費を差し引いた利益に対して行われます。したがって、福利厚生費を経費として計上することで、本来支払うべき税金を軽減できるのです。
節税メリット2 従業員は所得税を節税できる
企業が従業員に提供する福利厚生は、従業員にとってさまざまなメリットをもたらします。その一つが、所得税の軽減です。一般的に、企業が従業員に対して健康診断の費用や社員食堂での食事代を負担した場合、これらの費用は福利厚生費として扱われ、従業員の所得には含まれません。つまり、これらの費用は所得税の計算において課税対象外となり、結果的に従業員が支払う所得税額が軽減されます。これは、福利厚生が従業員の生活の質を向上させるのに貢献するだけでなく、経済的な負担を軽減する効果もあることを意味します。ただし、すべての福利厚生が非課税となるわけではありません。福利厚生費の取り扱いには税法上の細かい規定があり、ケースによって異なるため、正しく理解して活用することが求められます。具体的な注意点については、次章で詳しく解説します。
「福利厚生の活用」の注意点
福利厚生を活用する際は、次のような注意点もあります。事前に理解したうえで、活用を検討するようにしてください。
注意点1 福利厚生費として認められないケース
●従業員への社宅や寮の貸与
従業員に社宅や寮を貸し出す場合、従業員が支払う家賃が国税庁が定める「賃貸料相当額」以上であれば、給与として課税はされません。ただし、従業員が支払う家賃が賃貸料相当額の50%以下であった場合は、差額分が給与として課税されるため、注意が必要です。なお、社宅や寮の貸与ではなく住宅手当を支給する場合、住宅手当は福利厚生費と認められず、課税対象になります。
●従業員のレクリエーション旅行や研修旅行
従業員が参加するレクリエーション旅行は、旅行の日程が4泊5日以内で、職場全体の50%以上が参加していることが条件となります。この条件を満たす場合、旅行費用は給与として扱われません。しかし、旅行に参加しなかった従業員に金銭を支給した場合、その金額は課税対象となります。また、役員だけが参加した取引先との接待旅行は、福利厚生費として認められず、交際費として扱われます。会社の業務の一環として行われる研修旅行については給与として扱われません。会社の業務に関連しない主に観光を目的とした団体旅行や、観光渡航の許可を受けて行う海外での研修旅行については研修旅行として認められません。
●電車・バス通勤者への通勤手当
通勤手当は、最も経済的かつ合理的な通勤方法に基づき、通勤定期券代と同額までが非課税となります。電車・バス通勤者の場合、15万円が限度額になり、15万円を超える部分は給与として扱われ、課税対象になります。マイカー通勤の場合は、片道通勤距離によって1ヶ月あたりの上限額が決まり、片道55km以上、31,600円が非課税限度額です。
●慶弔見舞金
従業員や役員への慶弔見舞金(結婚祝いや香典など)は福利厚生費として認められます。ただし、金額は社会通念に照らして適切な額に抑える必要があります。
●健康診断費
従業員の健康診断費用は福利厚生費として取り扱われますが、全社員を対象とし、内容や費用が常識的であることが条件です。会社が社員に支払うのではなく、診療機関に直接支払う形で行う必要があります。会社が診療機関に直接支払わなければいけないことに留意しておきましょう。
注意点2 固定費としての特性を理解する
福利厚生費は企業が提供する継続的な支出であり、固定費としての性格が強いといえます。そのため、業績が悪化した場合でも支払いを続ける必要があり、企業の財政状況に合わせて福利厚生を設計しなければなりません。特に、スタートアップ企業や零細企業など、資金繰りが厳しくなる可能性が高い企業にとっては、福利厚生の導入規模や内容を慎重に検討する必要があります。例えば、社員食堂の設置や社宅の確保といった支出規模が大きい施策については、慎重に検討することが求められます。福利厚生を導入する際には、自社の財務状況を正確に把握し、長期的な視点で費用対効果を分析することが重要です。同時に、従業員満足度を維持しながら運用できる仕組みを整えることで、福利厚生が企業の発展を支える力となるでしょう。
注意点3 従業員に周知する
福利厚生制度を導入する際は、すべての従業員に制度の内容や利用方法を周知することが必要です。従業員が制度の存在や利用方法を知らないと、せっかく用意した福利厚生が活用されず、期待していた効果が得られない場合があります。社内メールやイントラネット、説明会の開催などを通じて情報を共有し、各部署の管理職の協力を仰ぎながら、全社的に周知徹底を図りましょう。
注意点4 定期的に見直す
福利厚生制度は、一度導入すれば終わりではなく、定期的に制度内容の見直しが必要です。福利厚生制度が「適切に利用されているか」「効果を発揮しているか」などを定期的に確認し、利用率が低い場合は内容を再検討する必要があります。PDCAサイクルを回しながら、ブラッシュアップを図ることが重要です。PDCAサイクルを回す際には、従業員の声を反映させるためのアンケートやヒアリングを実施し、現場のニーズに応じた制度改善を行いましょう。
この節税術に
必要な心構えとは
福利厚生を充実させることで、従業員のモチベーションの向上を図り、結果として生産性の向上や離職率の低下につながる好循環を生み出すことが期待できます。また、法人税の節税効果も得られるため、企業にとって経済的なメリットも大きいといえます。ただし、導入にあたっては自社の財政状況や従業員のニーズを十分に考慮し、最適な制度設計を行わなければなりません。具体的にどのような福利厚生を導入すべきかについては、税理士や社労士などの専門家と相談し、自社の状況に合ったプランを立てるとよいでしょう。また、福利厚生費の非課税範囲や適用条件については税制改正の影響を受ける場合があるため、常に最新情報を確認しながら、定期的に制度を見直すことも大切です。
福利厚生を充実化させることによって、従業員のモチベーション向上と節税効果の二つの側面からの効果が期待できます。自社の資金繰り状況を考慮し、具体的にどのような福利厚生を導入するべきかについては、資金繰りのプロである税理士と相談することをおすすめします。