知らないと損をする?日銀の金融政策が与える生活への影響を徹底解説
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ニュースや新聞などで見かける「日銀の金融政策」は、人々の生活にあらゆる影響を与えています。現在、日本はコロナ時の景気低迷を回復させるべく、日銀が長期的な金融緩和政策の修正を模索しています。今回の金融政策が日常生活にどのような影響を与えるのか、徹底解説します。
日銀の金融政策とは?基本的な仕組みと目的
日銀の金融政策とは、日本銀行が「物価の安定」を図るために行う経済政策のことです。この経済政策は、日銀の最高意思決定機関である政策委員会が金融政策決定会合を開催し、金融経済情勢を踏まえて金融市場の調節方針を決定しています。
基本的な仕組みは次のとおりです。景気が悪いときは銀行から国債を買い、日銀が持つお金を普通銀行に出すことで銀行の資金量を増やし、企業や個人がお金を借りるときの金利を下げ、借りやすくします。一方で、景気が良いときは銀行に国債を売り、銀行の資金量を減らすことで、銀行は企業や個人にお金を貸すときの金利を上げ、借りにくくします。
このように日銀が、金利の上げ下げをコントロールすることで、物価の安定を含め、日本経済の安定を図っているのです。
金融緩和・引き締め政策の違い
日銀が行う金融政策には、主に公開市場操作(オペレーション)、公定歩合操作、預金準備率操作の3つの手段があります。公開市場操作は、金融市場における金利や金融機関の貸出金利に影響を与え、人々の生活にも大きな影響が出ます。
日銀が金融緩和政策をとるのは、景気が下がっているときです。景気が下がってくると消費者は購買行動を控えるためモノが売れなくなり、モノの値段が下がっていきます。モノの値段が下がったり、売れなくなったりすると企業の売上も減り、その影響は企業で働く労働者の給料にも及ぶ可能性があります。
金融緩和は、世の中の活気がなくなり、経済活動が停滞してきたとき、景気を回復させるために、政策金利を引き下げたり、資金の供給量を増やしたりする金融政策です。金融緩和を実施し金利が下がることで、企業や個人は銀行からお金を借りやすくなります。
お金が借りやすくなることで、企業は事業拡大のための投資がしやすくなります。経済活動に活気が戻ってくることで、消費者の購買行動も回復し、物価が下がりにくくなるでしょう。
反対に景気が良いときは、金融政策の引き締めが必要です。日銀は銀行へ国債を売ることで、銀行が持つお金を減らし、銀行は企業や個人へお金を貸すときの金利を上げるため、お金を借りにくくなります。企業は投資行動を控えたり、消費者も購買行動を控えたりすることで、物価の上昇を抑えます。
金利政策が経済全体に与える役割
金利政策による金融緩和や金融引き締めの役割は、日本経済の安定を図ることです。しかし、金利政策が与える影響は日本国内にとどまりません。その一つが「為替」です。
為替では、金利の高い通貨は利息による収入を期待できるため資金が集まりやすく、金融緩和により国内の金利が低下すると、「円」が売られてアメリカや欧州の「ドル」や「ユーロ」が買われやすくなります。金融緩和で国内の金利が下がることで一般的に円安につながる傾向にあります。
円安傾向になると、海外から輸入する企業にとっては輸入品の価格が上がり、商品仕入れ時の費用も増えるため、企業の利益が減る要因の一つです。
一方で、国内の観光産業には有利に働きます。円安になると海外からの観光客が増え、宿泊施設や観光施設の需要が高まり、宿泊費用や観光地での飲食費用が増加し、観光地の活性化が期待できるでしょう。
日銀が金融政策を変更する背景と理由
はじめに述べたとおり、日銀は国内の「物価」安定を図るために、金融政策を企画・実行しています。年に8回(毎回2日間)金融政策決定会合を開き、国内外の金融経済情勢を踏まえて、金融市場における調節方針を決定します。
景気が良いからといって、いつまでも右肩上がりとは限りません。行き過ぎた好景気は物価の上昇を招き、お金の価値を下げてしまうでしょう。急激な景気拡大の後には、その反動として不況が訪れることがあり、バブル崩壊のような経済的ダメージを引き起こすこともあります。
高度経済成長期にはより多くの雇用機会が生まれ、産業が活発化し人々の生活は豊かになりました。しかし、恩恵が大きい一方でさまざまな問題も発生しました。反動の発生を未然に防ぎ小さく抑えるために、金融政策決定会合で議論がされ、金融市場の調節方針を決定しています。
インフレ率の上昇と物価安定目標
インフレ率とは、物価が継続的に上昇する度合いを表します。インフレはさまざまな要因から発生し、主な要因は次の2つです。
- 景気の拡大によって人々の購買意欲が高まり、需要が増加することで物価が上昇する
- 企業など生産者のコスト(原材料価格や賃金など)が上昇することで物価が上昇する
前者のケースで起こるインフレは、国内の経済成長が期待される形です。一方で、後者のケースは、原油価格の高騰や少子高齢化による労働人口の減少による賃金の高騰など、企業や生産者側のコスト増加により、商品やサービスに価格転嫁されることで発生します。
いずれの形も同じ状態が続くと物価は上昇し続け、生活必需品にかかる費用の増加、投資におけるリスクの増大、お金の価値が下落するなどさまざまな懸念事項があります。懸念事項はあれど、経済成長は欠かせません。
そこでインフレ率を測るものが「物価安定目標」です。この目標について、日銀は2013年1月に消費者物価の前年比上昇率を「2%」と定めました。物価安定目標を設定する目的は、国内経済が健全に発展することです。物価が安定していれば、個人や企業が消費や投資などの意思決定をしやすくなるでしょう。
為替レートと輸出入バランスの変化
為替レートとは、「円」を他の国の通貨に交換するときの取引価格のことであり、為替レートは、国内の経済情勢の変化や個別のニュースなどに反応して常に変動しています。為替は「金利政策が経済全体に与える役割」の中で述べたとおり、国内で金融緩和が実施されると、金利の高い他国通貨へ資金が流出することで円安傾向に進みます。
輸入企業にとって円安傾向への進行は輸入コストなどが増加し、利益が減少する要因の一つです。一方で、自動車メーカーや電機メーカー、総合商社など輸出する企業にとっては、海外での販売で相対的に価格が安くなり、現地で買われやすくなるため利益の増加が見込めます。
世界的な金利上昇と日本経済の関係
コロナ禍が明け、経済活動が活発に戻ってくると企業は投資などによる事業拡大やそれに伴う雇用機会も多く生まれます。経済活動が活性化し、お金の需要が高まってくると金利も上がり、現在は、アメリカを中心に景気が上向きで、金利もあわせて上昇傾向にあります。
一方で、日本経済は景気回復を進める中、企業の賃上げが追いつかず、景気低迷を抜け出せない状況です。このような状況が続くと、お金は金利の高いほうへ流れます。これにより「円安ドル高」などの現象が起こります。
利上げ観測が市場・経済に与える影響
日銀の金融政策に対して、株式市場のマーケット参加者たちは動向を常にウォッチしています。さまざまな情報や国内外の金融経済情勢を踏まえて、利上げをするのかしないのかと予測を立てるのです。この予測をもとにマーケット参加者たちは先読みして株式を売買します。
株式市場・為替市場の反応
株式市場に参加する個人投資家や機関投資家などのマーケット参加者たちの間では、インフレの兆候が見られる場合に「利上げ観測」が広まりやすいといわれています。
金利が上がると銀行の貸出金利も上がり、企業が投資する際に銀行からお金を借りるときの負担コストが増加する要因となります。これは企業の利益減少要因になるため、新規での借り入れを控える動きにつながるでしょう。
企業の投資行動やそれに伴う事業拡大が鈍ると、企業の収益性や成長性の向上に期待しにくくなります。このような循環が起こると、投資家たちは保有する企業の株式を売る傾向が強くなり、株価の下落につながるでしょう。
一方で、好景気循環の中では金利が上がっても、企業では新規借入による投資で事業拡大を図ります。この場合は、利上げによる負担コスト以上に収益見込みがあると判断され、投資家たちの資金が流入することで株価上昇につながるでしょう。
住宅ローン・企業融資への影響
個人が住宅を購入する場合、住宅ローンを契約する人は多くいるでしょう。住宅ローンを契約する際、金利について「固定金利型」か「変動金利型」、または「固定金利期間選択型」を選択します。
住宅ローンの金利で選ばれやすいものは「変動金利型」です。変動金利型の住宅ローンは固定金利型に比べて低金利で設定される傾向にありますが、一方で政策金利の影響を受けやすい特徴があります。金利の見直しは融資元の銀行が定めた基準日に行われ、多くは半年ごとに適用金利が見直しされています。利上げの影響を受けて適用金利が上昇すると、毎月の返済額や返済総額が増加するため注意が必要です。
一方で、固定金利は長期プライムレートを基準に設定されるため、決まった期間の金利は固定され、毎月の返済額が安定します。また、政策金利が上昇しても契約期間の金利は固定されているため、返済額に影響が出ることもありません。金利が低いときに固定金利型を設定できた場合は、長期的に金利負担を減らせるといえます。
企業融資においては、短期プライムレートの変更が企業経営に影響を及ぼします。そもそも「短期プライムレート」とは、銀行が信用力の高い企業に1年未満の期間で貸し出す際の最優遇金利です。先にも述べているとおり、利上げは企業が銀行から借入する際の負担コストを増やすため、利益の減少につながります。
消費者行動や物価への波及効果
利上げが及ぼす影響の1つは、企業や個人の事業活動や消費行動の消極化です。これらの活動や行動が消極的になると使うお金が減り、お金の需要も減ります。
企業は作ったものを売らなければ売上も利益も出ません。そのような中、BtoC市場では、デフレセールが実施されることがあります。デフレセールとは物価が下落している状況で、企業が商品を値引きして販売するセールです。デフレセールの消費者メリットは物価が下がることで、同じ商品でもこれまでより安く購入できる点です。
利上げ局面での個人・企業の対策
ここまで、利上げがもたらす個人や企業への影響について説明してきました。ここでは、利上げの局面で個人や企業はどのような対策や対応をとることが適切なのかを説明します。
個人:住宅ローンや資産運用の見直し
今後利上げが想定される場合、住宅ローンは家計への負担増加のリスクがあります。固定金利型の場合は利上げにおいても影響はありませんが、現在約8割の人が選択している「変動金利型」の場合は、利上げにより毎月の返済額や返済総額の増加が懸念されるでしょう。
住宅ローンについて、多くの銀行は半年に1回ペースで金利の見直しを実施します。このタイミングに合わせて、先々を見据えた上で無理のない範囲で繰り上げ返済などの対応を検討することも必要です。
企業:資金調達コストの最適化とリスク管理
企業においては利上げによる銀行の貸出金利の上昇に備え、次の3つの対策をとることが資金調達コストの最適化とリスク管理につながります。
- 融資内容を見直す
- 固定金利への借り換え
- 財務状況の改善
融資内容で確認すべきは、金利設定条件や元金返済額、利息支払額などがあります。とくに「金利設定の条件」は先々のコストカットや借り換えを検討する上で重要な検討材料です。
金利設定が「変動金利」だった場合、融資金の繰り上げ返済と固定金利への借り換え検討は有効な手段の1つです。ただし、金利の上昇タイミングなどによって固定金利への借り換えがベストなわけではありません。利上げによる支払利息の増加を抑える対策の1つといえます。
財務状況を改善することは一朝一夕では不可能ですが、長期的な企業の成長を考えたときに財務状況の見直しは重要です。また、財務状況や体質を改善することで、融資を受ける際の銀行の審査でも有利に働き、条件の良い利率での融資を受けやすくなります。
投資家:金利上昇局面での投資戦略
投資家にとって金利の上げ下げは、運用する資金に大きな影響を及ぼします。金利の上昇局面での投資家の対応は次のようなものがあります。
- 債券の売却
- 銀行株への資金流入
- 高配当銘柄への資金流入
1つ目の対応は、債券を売却することです。金利と債券価格は反対の動きをします。例を挙げると、金利2%の債券があり、この債券を100円分買えば、1年間で2円を受け取れます。しかし、金利が3%に上がったとき、金利3%の債券を100円分購入すれば、1年間で受け取れる金額は3円です。
このように金利2%の債券よりも、金利3%の債券のほうが魅力的に見え、金利2%の債券は魅力が減って価格が下落します。そのため、金利上昇局面では、債券を適切なタイミングで売ることで収益を得られます。
2つ目の対応は、銀行株へ資金を入れることです。金利上昇局面において、利上げされると銀行の貸出金利も上がり、利ザヤを主な収入源とする銀行の経営は安定性が向上します。これにより銀行株の値上がりが期待できます。
3つ目の対応は、インカムゲインを狙った高配当銘柄への投資です。企業成長に必要な投資や事業拡大を積極的に行う成長株は株価成長率が高く、キャピタルゲインを狙うことも可能です。しかし、現在の利益に対して株価のPERが高い傾向にあり、割引率上昇の影響も受けやすいという点があります。
一方で、企業の急成長期を遂げ、安定した企業業績のバリュー株は割引率上昇の影響は小さく、金利上昇局面において投資対効果を上回る可能性があるのです。また、企業業績が安定している点から、株主への配当も安定している傾向にあります。
まとめ
日銀の金融政策は、企業だけではなく、回りまわって個人の生活にも大きな影響を及ぼします。個人においては、持っている資産や住宅を購入する際に契約することが多い住宅ローンの金利への影響が主です。
金利が上がることで生活のどこに影響が出てくるのか、知らずに過ごしてしまうと自分の資産が減ってしまったり、返済する住宅ローンが増えていたりするかもしれません。重要なことは、普段からニュースなどにアンテナを張り、最新の動向を把握することで、適切な見直しや判断ができるようになることです。
中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。
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