「不動産投資で減価償却を活用する」
という節税術

[取材/文責]マネーイズム編集部

不動産投資をする際、減価償却の仕組みを上手に活用すると節税につなげられます。まずは、減価償却とは何かについて解説します。

不動産投資における減価償却とは?

減価償却とは?

減価償却とは、建物や機械など、長期間にわたって使用する高価な資産の購入費用を、その資産が使用される期間(耐用年数)にわたって費用として少しずつ計上する方法です。例えば、耐用年数が22年の木造の建物であれば、購入費用を22年かけて少しずつ経費として計上していきます。

●不動産投資における減価償却

不動産投資では、建物が減価償却の対象になり、購入費用を分割して経費として計上することで、所得税や住民税を軽減できます。例えば、年間の不動産所得が300万円で、減価償却費が50万円の場合、所得は250万円となり、納める所得税が減るというわけです。ただし、減価償却は会計上の処理であり、現金が戻ってくるわけではありません。

減価償却が
節税につながる理由

減価償却が節税につながるのは、実際に現金の支出が伴わなくても帳簿に経費として計上できることによるものです。建物や機械設備などの固定資産は、時間の経過とともに価値が減衰していきます。この価値の減少分を、毎年一定額ずつ費用として計上する会計処理が減価償却です。減価償却は、実際に現金が支出されるわけではありませんが、経費として認められています。これは、固定資産の価値が減少し、その分費用が発生したとみなされるためです。経費が増えると所得から控除される金額が増えるため、課税所得が減少します。課税所得が減少すると、所得税や法人税などの税負担が軽減し、節税効果が得られます。

不動産投資で減価償却を活用する
節税メリット

不動産投資で減価償却を活用すると、以下のような節税メリットが得られます。

節税メリット1 所得税と住民税を節税できる

先述したように、不動産投資で減価償却を活用すると、所得税と住民税を節税できます。

●所得税の節税

不動産投資で得られた家賃収入から必要経費を差し引いた金額を不動産所得といい、不動産所得がプラスであれば、金額に応じて所得税が課されます。所得税は累進課税が採用されており、所得金額が増えるごとに税率が5%から45%の範囲で段階的に増加します。

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円 から
1,949,000円まで
5% 0円
1,950,000円 から
3,299,000円まで
10% 97,500円
3,300,000円 から
6,949,000円まで
20% 427,500円
6,950,000円 から
8,999,000円まで
23% 636,000円
9,000,000円 から
17,999,000円まで
33% 1,536,000円
18,000,000円 から
39,999,000円まで
40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円

減価償却費は必要経費として認められるため、費用計上すると不動産所得が圧縮され、節税につながるわけです。減価償却を活用することで所得税を節税できるという仕組みは、不動産投資のメリットのひとつとして広く利用されています。

●住民税の節税

不動産所得がプラスであれば、所得税だけでなく住民税も課されます。住民税は累進課税ではなく、税率は一律で10%(都道府県民税4%+市町村民税6%)です。減価償却費を費用計上することで不動産所得が圧縮され、住民税の節税につながります。

節税メリット2 長期間にわたって安定的に税負担を減らせる

減価償却を適切に利用することで、長期間にわたり安定的に税負担を軽減することが可能です。不動産投資における建物は法定耐用年数が比較的長いため、節税効果が長期的に継続します。例えば、木造の法定耐用年数は22年、軽量鉄骨造は27年、重量鉄骨造は34年、鉄筋コンクリート造は47年となっています。

このように長期的に続く減価償却の効果により、所得税や法人税の負担を安定的に減らし、キャッシュフローを改善させることが可能です。また、節税効果で手元資金を増やすことによって、次の投資資金を確保したり、長期的な資産形成を促進したりすることにもつながります。

節税メリット3 損益通算で節税できる

不動産投資で赤字になった場合、その損失を他の所得から差し引ける「損益通算」という制度を利用することで、節税効果が期待できます。これは、不動産所得が分離課税ではなく、総合課税の対象となっているためです。

●損益通算の仕組み

例えば、不動産投資で年間300万円の家賃収入があったとします。一方、減価償却費が250万円、その他の経費が100万円かかった場合、不動産所得は50万円の赤字となります。

300万円(家賃収入) – (250万円(減価償却費) + 100万円(その他の経費)) = -50万円

この50万円の赤字を、給与所得や事業所得などの他の所得から差し引くことで、課税所得を減らし、所得税と住民税の負担を軽減できます。

●損益通算のメリット

赤字を他の所得から相殺することで、所得税と住民税の負担を軽減でき、税金が減ることで手元に残るお金が増え、キャッシュフローが改善されます。

不動産投資で減価償却を活用する際の注意点

不動産投資で減価償却を活用する際は、以下の点に注意が必要です。

注意点1 土地には減価償却は適用されない

減価償却の対象になるのは建物だけで、土地には減価償却は適用されません。土地は時間の経過によって物理的に劣化しない非減価償却資産であり、建物のように物理的な劣化によって価値が下がることは通常ありません。

注意点2 デッドクロスが起こる可能性がある

不動産投資では、元金返済額と減価償却費が資金繰りに大きな影響を与えます。デッドクロスとは、ローンの元金返済額が減価償却費よりも大きくなることで節税効果が失われ、資金繰りに苦しむ可能性がある状況を指します。資金繰りが悪化する理由は、ローンの元金返済で、手元の現金が減少するためです。減価償却費は会計上の費用として計上されるため、税金が軽減されますが、その後、元金返済額(ローンの元金部分)が大きくなると、キャッシュフローが圧迫されます。減価償却を活用して節税効果を得るためにはデッドクロスが発生する可能性があるため、事前のシミュレーションが重要です。物件を購入後、どれくらいでデッドクロスが発生するかを予測して、「売却する」「ローンの繰り上げ返済をする」などの対処法を事前に決めておくとよいでしょう。

注意点3 建物の耐用年数に注意する

減価償却を活用して節税効果を得るには、建物の耐用年数に注意が必要です。耐用年数は、減価償却費の計算に直接関わるため、節税効果を最大限に引き出すためには、建物の耐用年数を正しく理解することが大切です。建物の法定耐用年数は以下のようになります。

建物の構造 法定耐用年数
木造または合成樹脂造 22年
木骨モルタル造 20年
鉄骨造 34年(4mmを超えるもの)
27年(3mmを超え4mm以下のもの)
19年(3mm以下のもの
組積造(れんが造または石造またはブロック造) 38年
鉄骨鉄筋コンクリート造または鉄筋コンクリート造 47年

●耐用年数が短いと節税効果が早く出る

減価償却は建物の購入費用を耐用年数にわたって毎年費用として計上することで、税金が軽減されます。耐用年数が短い場合、建物の減価償却費用が早い段階で多く計上され、節税効果が得られます。特に、短期間で多くの減価償却費を計上したい場合は、耐用年数が短い建物を購入すると有利です。

●耐用年数が長いと節税効果が長期間にわたる

建物の耐用年数が長い場合、減価償却費用は年々少なくなりますが、長期的に一定額の減価償却費が計上され続けます。これにより、長期間にわたり安定した節税効果が得られます。

注意点4 家賃収入の減少に注意

不動産投資では節税効果だけでなく家賃収入の減少に注意することが大切です。減価償却を活用して節税ができても、家賃収入が減少するとキャッシュフローが悪化し、資金繰りが困難になる可能性があります。

家賃収入の減少を防ぐためには、空室を出さないことが何よりも重要です。空室が発生したら速やかに不動産会社に依頼して、入居者を確保するために動きましょう。また、定期的に修繕やリノベーションを行うことで、物件の競争力を維持できます。

節税効果は重要ですが、家賃収入が安定していなければ、ローン返済や維持管理費用をカバーできず、最終的に赤字になる可能性があります。家賃収入の安定性と減価償却による節税効果の両方を考慮し、長期的な視点で投資計画を練ることが大切です。

この節税術に必要な心構えとは

減価償却を活用して節税をするには、収益性と節税効果のバランスを考慮することが大切です。減価償却費による節税効果が高い物件を選んでも、入居率が低く十分な家賃収入が得られないとキャッシュフローが悪化する可能性があります。不動産投資をする際は、節税効果だけでなく収益性も重視した物件の選定が重要です。立地条件がよい物件を選ぶと高い入居率が期待でき、安定した家賃収入が見込めます。減価償却による節税だけを目的にすると、収益性の低い物件を選んでしまうリスクがあるため注意が必要です。融資を受ける際も、物件の収益性は重要な判断材料になります。専門家に相談し、収益性と節税効果が期待できる物件を選ぶことが大切です。

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