
「倒産防止共済」という節税術
個人事業であっても、法人であっても、万が一の時に備えて、共済などの保険に加入しておくことは重要です。中でも、倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、事業者にとってメリットが大きく、おすすめの共済です。
本記事では、倒産防止共済の仕組み、節税効果、活用時の注意点をわかりやすく解説します。
倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは
はじめに、倒産防止共済(正式名称:経営セーフティ共済)とはどのようなものか詳しく見ていきましょう。
倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは、その名前のとおり、得意先などが倒産して売掛金が回収できない場合、すぐに資金を借り入れることで倒産の連鎖や経営難を防ぐ制度です。
無担保・無保証人で、掛金の10倍(最大8,000万円)まで、すぐに借り入れができる(回収困難となった売掛金額または掛金の10倍のいずれか少ない方が上限)ため、万が一の時に安心です。
借入金の返済期間は、借入金額に応じて5~7年となっています。加入要件や掛金は、以下のとおりです。
加入要件
倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、取引先の倒産による連鎖倒産を防ぐための共済制度であるため、中小企業や個人事業主が対象です。1年以上継続して事業を営んでいることが条件となります。
また、業種ごとに「資本金または従業員数」の基準が定められており、どちらか一方を満たせば加入可能です。例えば、製造業の場合、資本金3億円以下または従業員300人以下であれば加入できます。基本的に、中小企業や個人事業主であれば、条件を満たしやすい制度となっています。
掛金
倒産防止共済(経営セーフティ共済)の掛金は、月額5,000円から20万円までの範囲で、5,000円単位で自由に設定できます。なお、積立限度額は800万円となっています。
加入手続きは、中小企業基盤整備機構(中小機構)の委託を受けた団体や金融機関の窓口またはオンライン申請で行います。
手続きには、法人なら商業登記簿謄本または登記事項証明書、個人事業主なら確定申告書のほか、納税証明書などが必要です。業種や事業の状況などで他の書類が必要なこともあるため、詳細は金融機関の窓口などにお問い合わせください。
倒産防止共済の節税メリット
倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、取引先が倒産した場合にすぐに借り入れができ、経営の安定化を支える有効なリスクヘッジ手段となります。それだけではなく、倒産防止共済(経営セーフティ共済)には以下のような節税メリットもあります。
節税メリット1 法人・個人とも掛金全額を経費にできる
倒産防止共済(経営セーフティ共済)の大きな節税メリットは、掛金全額を経費として損金算入できることです。倒産防止共済(経営セーフティ共済)の掛金は、法人・個人事業主を問わず、支払年度にその全額を経費にできます。
倒産防止共済(経営セーフティ共済)の掛金を支払った場合の仕訳例は、以下のとおりです。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
保険料 | 10,000円 | 普通預金 | 10,000円 | 経営セーフティ共済 |
倒産防止共済(経営セーフティ共済)の掛金を支払った場合の勘定科目は、「保険料」や「保険積立金」、「セーフティ共済掛金」を使うのが一般的です。倒産防止共済(経営セーフティ共済)の掛金を経費にできるため、納税額を圧縮できます。
また、翌年分を前納でき、前納分も当年度の経費に計上可能です。前納減額金も発生するため、さらにお得になります。
節税メリット2 課税の繰り延べができる
倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、掛け捨てではなく解約手当金が受け取れ、40ヵ月以上積み立てると掛金の100%が返戻されます。これにより、実質的に「課税の繰り延べ(=利益の繰り延べ)」が可能となります。
現在の税金を圧縮しつつ、将来的には返戻金として資金を活用できるため、経営資金の調整にも役立つことはメリットのひとつといえるでしょう。
倒産防止共済(経営セーフティ共済)の注意点
倒産防止共済(経営セーフティ共済)は取引先の倒産に備えられ、節税効果や課税の繰り延べが可能となりますが、以下の点に注意が必要です。
注意点1 解約手当金が益金(所得)になる
解約手当金を受け取れることは、倒産防止共済(経営セーフティ共済)のメリットです。しかし、解約手当金を受け取ると、会社の利益として計上しなければなりません。掛金を支払う時には経費になるため、反対に受け取る時には、利益にする必要があります。
倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約手当金を受け取った場合の仕訳は、以下のようになります。
例)経営セーフティ共済を解約し、100万円の解約手当金を普通預金で受け取った。
倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約手当金を受け取った場合の勘定科目は、雑収入などの収益科目を使います。ただし、法人が解約手当金を受け取る時は、役員の退職金などを支払う場合も多いです。この場合、退職金は経費になるため、解約手当金の利益と退職金の経費が相殺され、納税に影響はありません。
注意点2 設立・開業1年目の場合は加入できない
倒産防止共済(経営セーフティ共済)に加入するためには、継続して1年以上事業を行っている必要があります。会社の設立や個人事業の開業1年目では加入できないため注意しましょう。
注意点3 解約手当金が受け取れないことや元本割れの場合がある
解約手当金を受け取るためには、掛金を12ヵ月以上納めておく必要があります。12ヵ月未満の場合は掛け捨てになるため注意しましょう。
また、掛金を40ヵ月以上納めていれば、納めた全額が解約手当金として戻ってきますが、40ヵ月未満の場合は、掛金総額の8割以上の解約手当金となり、100%は戻りません。解約手当金を申し込む場合には、掛金を何ヵ月納めたのかを必ず確認するようにしましょう。
注意点4 掛金の支払いが過剰になると資金繰りに影響が出る場合がある
掛金の支払いが過剰になると、他の事業運営に必要な資金が不足してしまう可能性があります。倒産防止共済(経営セーフティ共済)の掛金の上限は月額20万円ですが、事業規模によっては毎月の支払いが厳しくなることもあるでしょう。短期的な節税だけでなく、長期的な事業の資金繰りや経営計画を見据えた運用が必要です。
この節税術に必要な心構えとは
倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、節税と資金繰りリスク対策の両方にメリットがある制度です。しかし、適切な活用をしなければ、思ったような効果が得られないこともあります。
例えば、倒産防止共済(経営セーフティ共済)の掛金が経費として認められるからといって、無理をして多額の掛金を支払うことは逆効果となる場合があります。掛金の支払いが多すぎると、他の事業運営に必要な資金が不足してしまう可能性があるため、計画的な利用が大切です。
また、倒産防止共済(経営セーフティ共済)を活用する際には、短期的な節税だけでなく、長期的な事業の資金繰りや経営計画を見据えた運用が求められます。将来の経営にどのように活用するかを考えながら、無理のない範囲で積み立てることが理想となるでしょう。税理士や専門家と相談しながら、自社の状況に合わせた適切な運用が重要です。