相続税の税務調査の実態とは?何を調査されるのか解説

[取材/文責]マネーイズム編集部

相続税の申告が完了し「これで大丈夫」と思いきや、忘れたころに税務署から連絡がくるかもしれません。税務調査はすべての申告者を対象にしているわけではなく、調査対象となりやすいのは申告内容に不備や漏れがある場合です。また、相続や税金のために対策しても、悪意があるとみなされれば重い税金を支払わなければなりません。

そこで、この記事では相続税の税務調査の流れや、調査の選定基準に加え、調査時によく聞かれる項目などを詳しく解説します。事前に準備しておくことで調査の対象となるリスクを減らせるだけでなく、調査が入った場合でも冷静に対応できるため、最後まで読んでみてください。

相続税の税務調査とは?調査の流れを解説

相続税の税務調査とは、相続人が提出した申告書に対して記入漏れやミスがないかを調査することです。税務署は相続人の財産状況や、被相続人の口座の履歴など様々なポイントから調査した中で、該当した場合に連絡を行います。

調査対象となった該当者は、申告期限から1~2年後に電話や書面で打診された後、被相続人が生前に住んでいた自宅などで調査が行われるのが一般的です。
 

税務調査が入るケースと調査対象の選定基準

税務調査は不特定に選定しているわけではなく「追加で徴収できる見込み」があるかがポイントです。被相続人の収入や資産の規模に対し、相続税の申告内容が少ないにもかかわらず、家族名義の預金や証券などが多い場合は調査されやすいでしょう。

他に気を付けておきたいのは以下の点です。

  • 高額な相続財産:財産が大きい場合

  • 名義預金の有無:相続人の口座に対し、被相続人の資産が移されている

  • 生前贈与の履歴:相続開始前の3年間は相続財産に加算される

  • 申告内容の不整合:保有している不動産の評価が、市場と乖離している

特に、相続財産が2億円を超えている海外口座がある場合も調査対象となりやすいため、注意しておきましょう。
 

税務調査の流れと実施までの期間

相続税の税務調査は、以下の流れで実施されます。

  1. 税務署からの連絡
    税務職員から、調査が実施される1週間〜10日前に連絡が入ります。
    場合によっては、相続人全員の立ち会いが必要です。

  2. 調査当日
    大抵の場合は、被相続人の自宅において、午前10時頃から丸1日かけて実施されます。

  3. 現物の確認
    申告された財産の整合性を見るため、通帳、金庫、保険証券、不動産の権利証などをカメラで撮影し、記録に問題がないかを確認します。

  4. 調査終了と指摘事項の説明
    調査が完了すると、申告内容の問題点を説明し、相続人もしくは顧問税理士と認識をすり合わせますが、内容によっては修正申告の手続きが必要です。

  5. 追徴課税・延滞税の計算
    調査の結果、申告漏れが判明すると追加納税額に加算税や延滞税が発生しますが、税理士と相談しながら進めることでスムーズに対応できるでしょう。

それぞれのポイントをしっかりと確認しておきましょう。

税務調査で重点的にチェックされるポイント

税務調査では、申告漏れやミス、財産評価の誤りなど、重点的にチェックされやすい項目があります。特に、預貯金の動きや名義預金の有無などは対象となるため、注意が必要です。

なお、被相続人だけでなく、相続人や家族名義の口座、過去の取引履歴も照合されます。他にも、生命保険や有価証券の扱いでは、契約内容や支払履歴などが対象となる場合もあるでしょう。そこで、税務調査でチェックされやすい主要項目を見ていきましょう。
 

現金・預貯金の動きと名義預金の有無

税務調査で最も重視する項目が「現金・預貯金」の動きです。被相続人の口座から、死亡するまでの間に多額の預金が引き出されている場合、その使途について確認されます。被相続人だけでなく、配偶者や子、孫も調査対象です。

また、被相続人名義の口座であっても、実は被相続人が口座を管理している「名義預金」と判定されるリスクが高まります。

名義預金と判断されるケースは以下の通りです。

  • 資金の出所が被相続人であること

  • 名義人(相続人)が預金の存在を知らない

  • 通帳や印鑑を被相続人が管理している

税務署は、銀行口座の取引履歴を調査することが認められているため、過去5〜10年程度はさかのぼって調査しています。
 

不動産評価の適正性と過少申告のリスク

相続財産の中でも、不動産の評価は金額が大きく、税務署のチェックが厳しくなります。不動産の評価が実勢価格(市場価格)と大きく異なっていないかなど、いくつか注意しておくべきポイントを確認しておきましょう。

  • 路線価と実勢価格の差
    地形や立地、開発状況などをチェック

  • 小規模宅地等の特例の適用要件
    相続人と同居していたかなどの確認

  • 不動産の減額評価の適正性
    墓地が近い、地盤が悪いなどで、評価を下げる場合の根拠

他にも、賃貸不動産の評価は空室率、駐車場の利用実態(自用としていないかどうか)など、細かな点も見られます。不動産は評価が難しいだけでなく、税務署との見解が分かれやすい項目であるため、少しでも不安がある方は、税理士や不動産鑑定士と事前に相談しておきましょう。
 

生命保険や有価証券の扱い

生命保険では、契約者と保険料負担者が異なる場合や、死亡保険金の非課税枠の適用などが確認されるポイントです。

例えば、生命保険の「契約者・保険料負担者・受取人の関係」は、実質的な負担者が誰であるかによって課税関係が変わるため、支払調書や契約異動に関する書類をもとに確認されます。また、保険金の非課税枠の適用「500万円×法定相続人の数」では、非課税枠を超える課税対象がないかも、調査の対象です。

有価証券では、相続時点の時価評価が正しくなされているかどうか、所有者の名義や売買履歴に不審な点がないかも見られています。特に、海外の口座で運用している株式や投資信託は、国外送金等調書や、外国の金融機関にある口座を利用した脱税や租税回避を防止するための制度「CRS」によって発覚するでしょう。
 

生前贈与の履歴と税務署の確認方法

生前贈与では、相続開始前3年以内の相続財産は、加算対象です。

例えば、毎年110万円以下の暦年贈与を繰り返している場合、贈与契約書の有無・使い道などが詳しく確認されます。また、相続時精算課税制度を利用している場合、一時的に非課税であったとしても、相続開始時に一括して相続財産に加算されるため、申告漏れがないかをチェックされるでしょう。

相続時精算課税制度とは、受贈者(子や孫)が2,500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けられるが、贈与者が亡くなった際に相続税額に含めて計算した上で、相続税として納税する制度です。

過去の資金移動は5〜10年さかのぼって調査される場合もあるため、贈与は契約書を作成し、必要に応じて贈与税を申告するなどしましょう。

税務調査で実際に聞かれる質問とは?

税務調査では、相続財産の申告漏れや不備がないかを確認するため、様々な質問をされます。

例えば「生前に現金を引き出していないか」「家族名義の口座に入金していないか」「相続財産を低く申告していないか」などです。一見、雑談のようなやり取りが続くこともありますが、実際には被相続人の実態を把握した質問が多く、少しでも整合性があるかどうかを確認されています。

また、思わぬところで被相続人の隠し財産がないかどうかもチェックしているため、あらかじめ相続人間で資金の流れを共有するなどしておきましょう。
 

「生前に現金を引き出していませんか?」

相続税の税務調査において、被相続人が亡くなる直前に多額の現金を引き出している場合は最もチェックされやすくなります。大口の出金があると「タンス預金を隠していないか」「他人名義の預金に移し替えたのではないか」という疑いが高まるからです。

治療費や介護費用に充てる場合、領収書がなければ説明が不十分とみなされやすく、申告漏れと判断されるリスクがあります。また、一括で多額な現金をおろしていても「家族へ贈与した」という根拠(契約書や贈与税の申告書類)がなければ、事実として認められないことも多いでしょう。

生前に現金を使う場合は、使途を明確にするとともに、メモや領収書などを残し、いつでも説明できるようにしておかなければなりません。
 

「家族名義の口座に入金されていませんか?」

被相続人の預金を、配偶者や子、孫など家族名義の口座に定期的に移動している場合、いわゆる「名義預金」とみなされる可能性があります。名義預金かどうかのポイントは、資金の出所と管理方法の実態です。

例えば、名義人である家族が通帳や印鑑の存在を知らなかったり、実際の入出金を被相続人本人が管理していたりすると、口座は形式上は家族名義でも、実質的には被相続人の財産とみなされる可能性があります。そのため、生前贈与として認められず、相続財産に含まれることになります。

また、贈与が正式に成立するには、贈与契約書を作成し、贈与税の申告を適切に行うことが重要です。これらがない場合、単に口座の名義を変更しただけと判断され、相続税の対象となる恐れがあります。

家族名義の口座がある場合、日ごろから管理状況を明確にするとともに、必要に応じて書面で贈与契約を締結することで、少しでも回避できるようにしておきましょう。
 

「相続財産を低く申告していませんか?」

税務署は、相続税の申告内容が被相続人の収入や資産状況に比べて妥当性があるかどうかを見ています。被相続人の収入が高かったにもかかわらず相続財産が異様に少ない、不動産の評価が市場価格と比べて低く設定されているなどです。

特に、不動産の場合は小規模宅地等の特例など、税制優遇措置が適用されていると、その適用条件を厳しくチェックされることもあります。同居の実態や、保有期間などの基準を確認されますが、万が一認められなければ評価を下げられなくなるため、追加徴収の対象となるでしょう。

相続税の税務調査に備えるための対策

相続税の税務調査を完全に回避することは難しいですが、正しく申告することで少しでも回避する可能性を高められます。相続財産の全容をしっかりと把握し、計算ミスや申告漏れがないように注意することで、税務調査の可能性を下げられるでしょう。

なお、税理士への依頼や、証拠書類の適切な保管など、具体的に対策しておくことで、調査に備えておくことが大切です。ここでは、税務調査に備えるための具体的な対策を解説します。
 

相続財産の記録を正しく管理する

被相続人の口座や現金の存在をすべて相続人が把握することが難しく、どうしても抜け落ちてしまうという場合に起こってしまうのが「申告漏れ」です。対策として、生前から財産の全体像を把握できるよう、エンディングノートなどに記録を残しておくことが望まれます。

具体的には以下の項目について「財産目録」を作成しておきましょう。

  • 預貯金:銀行名、口座番号、残高

  • 不動産:所在地、面積、評価額

  • 株式・投資信託:銘柄、評価額

  • 生命保険:契約内容、受取人

  • 借入金:負債の明細

  • その他の資産:車、美術品、骨董品など

また、預貯金の入出金履歴も重要であるため、亡くなる前の数年間の出金履歴や、生前贈与があった場合の贈与契約書、振込記録を残しておきましょう。
 

税理士に相談し、適切な申告を行う

相続税を申告する際、書類の多さや財産評価の難しさを考えると「専門家のサポート」を受けることをおすすめします。相続税に強い税理士へ依頼することで、不動産や保険金の評価、名義預金の判定、生前贈与の方法など、税務調査のリスクを下げるためのアドバイスを受けられるからです。

また、調査が実施された場合も、税理士が同席することで、調査官とのやり取りがスムーズになるだけでなく、追徴のリスクも最小限に抑えられます。税理士に依頼することで、正しく納税できるだけでなく、調査を受けにくい状態を作ることもできるため、知識や経験が豊富な税理士に依頼しましょう。
 

指摘されたら?その場合の対応と修正申告の流れ

万が一、税務調査で指摘された場合、相続人全員が納税の義務を負うことになります。そのため、指摘内容があった場合は、関係者全員の同意が必要です。なお、指摘された内容に合意した後は以下の手順をもとに修正申告をしましょう。

  1. 税務署からの指摘を確認
    どの項目が問題とされたかを明確にする

  2. 追加課税の内容を確認
    追徴課税額や加算税(過少申告加算税、無申告加算税、重加算税)の把握

  3. 修正申告書の作成
    修正が必要な箇所を修正し、申告する

  4. 納税手続きを実施
    追徴課税を期限内に納付し、延滞税がかからないようにする

仮に、税務署の指摘に納得ができない場合、税理士や弁護士など専門家のアドバイスを受けるとともに、異議申し立てや再調査請求を検討することも可能です。

相続税の税務調査で指摘されるとどうなる?

相続税の税務調査で申告内容に誤りがあると、かなりの確率で指摘を受けるとともに、追加の納税が求められます。また、申告漏れや財産の過少申告があると、追徴課税や延滞税の対象となるだけでなく、ペナルティが課せられる可能性もあるため注意が必要です。そこで、税務調査で指摘された場合のペナルティや対策について解説します。
 

追徴課税・延滞税の仕組み

税務調査で指摘を受けると、追徴課税や延滞税がかかります。詳細は次の通りです。

  • 無申告加算税
    期限内に申告しなかった場合、年15~30%の課税

  • 過少申告加算税
    税務調査で指摘される罰則として、年10~15%の課税

  • 重加算税
    隠ぺい等があった場合、年35~40%

  • 延滞税
    納期限の翌日から2ヶ月以内は原則年7.3%、2ヶ月を過ぎると原則年14.6%

税務署が事前通知する前に自ら修正申告すると、加算税率は下がりやすく、逆に調査で指摘されてから申告すると税率が上がるという仕組みです。なお、納付が遅れた期間に応じて延滞税がかかるため、早期に納税することで少しでも負担を軽減できるでしょう。

 

重加算税が課されるケースとは?

税務調査で財産の隠ぺいや、虚偽の申告をしていると判断された場合、通常の加算税よりも思い重加算税の支払が命じられます。重加算税は、脱税行為とみなされた場合に適用されるため、注意しておきましょう。

また、過去に同様の「無申告加算税」や「重加算税」を課された経験がある場合、さらに税率が上乗せされることもあります。加算税の他にかかる延滞税だけでなく、場合によっては刑事罰に発展するリスクもあるため、気を付けなければなりません。

相続税対策を行う場合、正しい知識がないとかえって多額の追徴金を支払う羽目になるほか、時間や信用を失うリスクも非常に大きいため、事前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

相続税の税務調査は、申告漏れや財産の過少申告をチェックしているだけではなく、意図的な財産の隠ぺいや、名義預金などを防ぐために行われます。万が一、調査で発覚した場合、追徴課税だけでなく、悪質なケースではペナルティが発生する可能性も十分にありえます。

このようなリスクを回避するためにも、相続財産を正しく把握することや、書類などの整備、生前贈与の適切な手続きが必要です。なお、申告に慣れていない場合は、相続税に精通した税理士に相談し、専門的なアドバイスを受けることで、リスクを軽減しましょう。

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