これからの相続には配偶者居住権が重要!配偶者居住権と税金の関係を解説
2018(平成30)年、民法で大きな改正が約40年ぶりに行われました。いくつかある改正事項のうち1つが「配偶者居住権」です。配偶者居住権は、相続時に配偶者を優遇する制度ですが、実は相続税や所得税などの税金に大きな影響を与えます。
そこで、この記事では配偶者居住権とは何か、また配偶者居住権と税金にどのような関係があるのか詳しく解説します。
新しく創設された配偶者居住権とはどんなもの?
配偶者居住権と税金の関係を見ていく前に、まずは、新しく創設された配偶者居住権がどのようなものか見ていきましょう。
配偶者居住権とは、簡単にいうと、相続後にも配偶者が自宅に住むことができる権利です。
財産を所有している人が死亡すると、配偶者や子どもなどで、その財産を分割して引き継ぎます。例えば、財産を引き継ぐ相続人が配偶者である妻と長男の2人だった場合、原則1/2ずつ遺産を引き継ぎます。財産が現金3,000万円なら、2人がそれぞれ1,500万円ずつの現金を相続します。
それでは、仮に財産が自宅のみ3,000万円だった場合はどうなるのでしょうか。この場合は、自宅を半分にわけることができません。半分にわけるためには、自宅を売却し、現金にしてからわける必要があります。
これまでは、妻が自宅に住み続けたい場合、3,000万円の自宅を相続し、自宅の価格3,000万円の1/2である1,500万円を長男に支払う必要がありました。しかし、実際にそれだけの金額を用意できる配偶者は少なく、相続後に自宅に住むことができない配偶者も多くいました。
そこで登場したのが「配偶者居住権」です。これにより、自宅の所有権と居住権をわけることができます。上記の例では、妻が1,500万円の配偶者居住権、長男が1,500万円の所有権を相続することにより、相続後も妻が自宅に住み続けやすくなりました。
配偶者が亡くなった場合の配偶者居住権の取り扱い
配偶者居住権の創設により、相続後も配偶者が自宅に住み続けやすくなりました。
それでは、配偶者居住権を得た配偶者が亡くなった場合、配偶者居住権はどうなるのでしょうか。ここでは、配偶者が亡くなった場合の配偶者居住権の取り扱いについて見ていきましょう。
配偶者居住権の消滅事由とは
結論からいうと、配偶者が亡くなった場合、配偶者居住権は消滅します。実は、配偶者居住権は永遠ではありません。配偶者居住権の消滅事由があった場合には、配偶者居住権は消滅します。配偶者居住権の消滅事由には、次のものがあります。
① 配偶者の死亡
配偶者居住権を得た配偶者が死亡した場合は、配偶者居住権は消滅します。
② 存続期間の満了
相続時には、建物の老朽化などを見越して、配偶者居住権の存続期間を設けることができます。設定した配偶者居住権の存続期間が満了した場合は、配偶者居住権は消滅します。
③ 居住建物の所有者による消滅請求
配偶者が建物を乱雑に扱ったり、無断で第三者に賃貸したりした場合など、特別な事情がある場合は、所有者は配偶者に配偶者居住権の消滅請求をすることができます。消滅請求が認められると、配偶者居住権は消滅します。
④ 居住建物の滅失
災害や老朽化などで、居住建物が滅失した場合は、配偶者居住権は消滅します。
⑤ 配偶者による配偶者居住権の放棄
配偶者が自ら配偶者居住権を放棄した場合(介護施設で居住する場合など)、配偶者居住権は消滅します。
⑥ 合意解除
建物の所有者と配偶者が合意すれば、配偶者居住権を消滅させることができます。
配偶者が亡くなった場合は課税されない
配偶者が亡くなった場合は、配偶者居住権は消滅します。ここで問題となるのが、税金のことです。
配偶者居住権には価値があり、相続の際には、配偶者居住権の価値を考慮して遺産を分割しています。それでは、配偶者居住権が消滅すると、何か税金に影響するのでしょうか。
配偶者所有権は、その消滅事由によって課税関係が変わってきます。配偶者の死亡により、配偶者居住権が消滅した場合は、税金は課されません。配偶者が死亡した場合に関係する税金は、相続税です。配偶者の死亡で配偶者居住権が消滅する場合、配偶者居住権には価値がなくなります。建物の所有者(子どもなど)は引き継ぐ財産がないことから、相続税が課税されません。
それ以外の消滅事由に関する課税関係は、次のとおりです。
・存続期間の満了、居住建物の滅失
存続期間の満了により、配偶者居住権が消滅した場合も税金は課されません。存続期間の満了の場合、配偶者はまだ生存しているため、関係する税金は贈与税です。
存続期間の満了により、配偶者居住権が消滅した場合は、建物の所有者が引き継ぐ価値がないことから、税金は課されません。
居住建物の滅失は、建物自体が消滅し、建物の所有者が引き継ぐ価値がないことから、税金は課されません。
・居住建物の所有者による消滅請求、配偶者による配偶者居住権の放棄、合意解除
存続期間の満了前に配偶者居住権が消滅した場合で、対価の支払いがなかった場合は、原則、贈与税が課税されます。
例えば、無断で第三者に賃貸したことになどよる配偶者居住権の消滅請求や、配偶者による配偶者居住権の放棄、無償での合意解除が該当します。
存続期間の満了前では、まだ建物を使用・収益をすることができます。その使用・収益をする権利が、配偶者から建物の所有者に無償で引き継がれた、つまり贈与されたと考えられることから贈与税の対象となります。
配偶者居住権のある自宅の売却にも税金がかかる
ここまでは、配偶者居住権の課税関係について見てきました。ここでは、配偶者居住権のある自宅を売却した場合の税金について見ていきましょう。
配偶者居住権のある自宅にも譲渡所得税がかかる
不動産を売却した場合には、譲渡所得税が課されます。譲渡所得税とは、不動産を売却して利益が出た場合に課される税金のことです。納める譲渡所得税がある場合は、確定申告を行い、税金を支払います。
それでは、配偶者居住権のある自宅を売却した場合はどうなるのでしょうか。たとえ、配偶者居住権があったとしても、不動産の売却であることには間違いありません。そのため、配偶者居住権のある自宅を売却し、利益が出た場合についても譲渡所得税が課されます。そのため、通常の不動産の売却と同じように、確定申告を行い税金を支払う必要があります。
配偶者居住権にかかる税金の計算方法
通常の不動産の売却では、売却金額から取得費や譲渡費用を差し引いて計算した譲渡所得に税金が課されます。
取得費は、不動産の購入代金や購入手数料など、購入時にかかった費用のことです。譲渡費用とは、仲介手数料など不動産の売却時にかかった費用のことです。計算式は、次のとおりです。
それでは、配偶者居住権のある自宅を売却した場合はどうなるのでしょうか。この場合も、売却金額から取得費などを差し引いて計算した譲渡所得に税金が課されます。ただし、通常の不動産の売却と異なるのは、取得費から配偶者居住権の取得費を差し引く必要があることです。
配偶者居住権の取得費とは、売却時点における配偶者居住権の価値のことです。「配偶者居住権等割合」等を用いて算出しますが、複雑な計算が必要となります。
配偶者居住権のある自宅を売却した場合の譲渡所得の計算式は次のとおりです。
配偶者居住権のほかに、配偶者敷地利用権がかかわってくる場合もあります。
具体的な計算方法などで不明な点がある場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。
まとめ
配偶者居住権の創設により、相続時の配偶者の権利が守られやすくなりました。しかし、配偶者居住権に関する税金についても、考慮する必要が出てきました。
配偶者居住権の課税については、現在のところは整理が行われている段階のため、今後新しく法律などが制定・改正などがされる可能性もあります。今後も、税制改正などを注視しておく必要があるでしょう。
▼参考URL
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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