相続の“落とし穴”デジタル資産 そのリスクと継承方法、生前の対策を解説

[取材/文責]マネーイズム編集部

近年、電子マネーや暗号資産などのいわゆるデジタル資産が多様化し、実際に持つ人も増えています。便利で、中には高い投資効果が期待されるものもありますが、それらも持ち主が亡くなれば、相続財産です。デジタル資産には、生前のセキュリティ対策が裏目に出て、相続人が把握しにくい、といった問題もあります。資産の引き継ぎ方、生前にしておくべき対策について解説します。

相続で問題になりやすいデジタル資産

デジタル資産は、その名の通り「デジタル形式で保管されている資産」のことで、具体的には以下のようなものがあります。

電子マネー

急速に進んだキャッシュレス化の結果、広く普及した電子マネーは、デジタル資産の代表格といえます。この電子マネーには、次のような種類があります。

QRコード決済 PayPay、d払い など
交通系 Suica、PASMO など
流通系 WAON、nanaco など
クレジットカード系 iD、QUICPay など

暗号資産(仮想通貨)

暗号資産(仮想通貨)は、ネット上にある端末同士を直接接続するブロックチェーン技術(※)を用いて保管・取引されるデジタル資産です。資金決済に関する法律(「資金決済法」)では、次の性質を持つものと定義されています。

  1. 不特定の者に対して、代金の支払いなどに使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドルなど)と相互に交換できる
  2. 電子的に記録され、移転できる
  3. 法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカードなど)ではない

代表的な暗号資産には、ビットコインやイーサ(イーサリアム)などがあり、銀行などの第三者を介することなく、価値をやり取りすることが可能な仕組みとして、利用が広がりました。暗号資産交換業者(ビットフライヤー、コインチェックなど)を通じて取引され、価値が大きく変動する性質を持つのも特徴です。

国税庁は、暗号資産の相続について、次のように述べています。

暗号資産については、決済法上、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値」と規定されていることから、被相続人等から暗号資産を相続若しくは遺贈又は贈与により取得した場合には、相続税又は贈与税が課税されることになります。

※ブロックチェーン ブロックと呼ばれる単位でデータを管理し、鎖(チェーン)のように連結して保管する技術。管理されるデータの改ざんが難しいため、金融取引履歴などに用いられている。

NFT

デジタル形式で制作されたアート作品などには、NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)という技術を用いた鑑定書や所有証明書が付されることがあります。これもブロックチェーン技術を活用して、アートや画像・動画といったデジタル情報など、そのままではコピーされてしまうようなコンテンツに、「唯一無二である証明」を与えることを可能にしました。

ただし、NFTは、まだ歴史が浅く、その普及に従って、法的枠組みなどに関する論点整理が行われているステージにあります。

とはいえ、国税庁は、NFTが課税対象となりうる財産と捉えており、次のように述べています。

個人から経済的価値のあるNFTを贈与又は相続若しくは遺贈により取得した場合には、その内容や性質、取引実態等を勘案し、その価額を個別に評価した上で、贈与税又は相続税が課されます。

ネット銀行やネット証券、FX(外国為替保証金取引)口座の口座残高

オンライン上で管理が行われるネット銀行やネット証券などの口座残高も、デジタル資産です。相続の際、残された通帳以外にも預金がある可能性に注意を払う必要があります。

デジタル資産を含む相続の進め方

資産を把握する

デジタル資産も他の資産と扱いは同じで、被相続人(亡くなった人)の遺言書がない場合には、相続財産に加えたうえで、相続人が協議して分け方を決めます。相続税が発生する場合(※)には、納税して、相続は終わります。

※相続税には、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除額があり、遺産総額がこれ以下ならば、課税されない。

しかし、デジタル資産の相続には、他の財産にはない「難しさ」があります。第1に、その存在を把握しづらい点です。被相続人から何も聞かされていなければ、そもそもそうした資産を持っていたのか、残高がどれほどあるのかはわかりません。パソコンやスマホ、さらには該当するサービスに設定されているIPアドレス、パスワードなどが不明では、それを調べることもできないのです。

資産にアクセスできなければ、本来相続できる資産をもらうことができません。より問題なのは相続税が発生する場合で、申告後にデジタル資産の存在が明らかになった場合には、遺産分割協議のやり直しが必要になる可能性があります。結果的に「申告漏れ」を指摘され、追加の税金に加えて過少申告加算税などのペナルティの対象になってしまいます。

そのような事態を避けるためには、後で述べるような生前対策が欠かせません。

特に注意したいデジタル資産⇒暗号資産

デジタル資産でも、電子マネーやネットバンクの残高などは、「在りか」さえわかれば、その金額を遺産に加えて分割協議を進めることができるでしょう。ただ、評価額などに注意すべきものもあります。

暗号資産の相続には、次のような手続きが要ります。

(1)取引所に所有者が亡くなったことを連絡する

その際、相続開始日の残高証明書の送付を依頼すると、後の手続きがスムーズになります。

(2)被相続人の口座が凍結される

相続人の本人確認が済んだ段階で、被相続人の口座が凍結されます。

(3)遺産分割協議を行う

遺産分割協議を行い、他の遺産とともに仮想通貨の遺産分割を決定します。分割の仕方が決まったら、取引所に解約のための申請手続きを行います。その際、相続届や相続人全員の印鑑証明と戸籍謄本などの書類を提出する必要があります。

(4)暗号資産の払戻しが行われる

書類に不備がなければ、取引所の口座は解約され、被相続人が所持していた暗号資産の価値相当の金額が代表相続人の銀行口座に振り込まれます。

流れはこうなのですが、問題はさきほど触れたように、暗号資産が価値の変動が大きな「新しい通貨」だということです。その評価の仕方で、遺産分割協議が揉める可能性が否定できません。

国税庁は、その評価方法について、次のようなルールを示しています。

①相続開始日の残高証明書の金額を相続税評価額とする

取引所に発行してもらった相続開始日の残高証明書に記載された相続開始日の残高と、当日の日本円への換算レートをそのまま相続税評価額とする方法です。

②相続開始日の売却価格を相続税評価額とする

取引所が売却価格を公表している場合には、その価格をそのまま相続税評価額とすることもできます。同じ暗号資産でも、取引所によって取引価格は異なります。複数の取引所に同じ暗号資産を持っている場合には、取引価格が低い方を相続税評価額とすることが可能です。

上記の①、②は、その暗号資産について「活発な市場が存在する」(暗号資産の取引所や販売所で十分な数量と取引がされており、継続的に価格情報が提供されている)ケースです。

そうでない場合には、その暗号資産の内容や性質、取引実態を考慮し個別に評価が行われます。例えば、売買実例価額(類似する売買の実例に基づいた価額)や、精通者意見価格(専門家による鑑定価格)を用いて評価されることになります。

特に注意したいデジタル資産⇒NFT

NFTは、仮想通貨以上に評価が難しい資産といえるでしょう。国税庁の「評価通達」には、NFTに対する定めはありません(この点は、暗号資産も同様です)。そこで、例えば、書画骨とう品の評価に関する評価通達に準じて、その内容や性質、取引実態などを勘案し、上記の売買実例価額、精通者意見価格などを参考にして評価します。

なお、課税時期における市場取引価格が存在するNFTについては、その価格により評価して差し支えない、とされています。

デジタル資産に詳しい専門家に相談する

相続税が発生する場合、その申告期限は、相続の発生から10ヵ月となっています。時間がないうえに、申告にミスがあれば、ペナルティの対象になってしまうかもしれません。

特に資産の評価額の計算は、一般の方にはハードルが高いと思われます。資産の内容などに応じて、この分野に詳しい税理士などの専門家の力を借りることも考えましょう。

デジタル資産の生前対策

説明したように、デジタル資産の相続には想定外のリスクも伴います。しかも、相続になってから相続人が対応するのには困難な面もあり、それが原因で争いを招かないとも限りません。デジタル資産の持ち主が、生前にきちんと対策を立てておくようにしましょう。

資産の内容、アクセス方法をわかるようにしておく

相続になったときに備えて、財産の一覧を作成しておくことが推奨されますが、家族の気づきにくいデジタル資産はなおさらです。資産の種類、内容とともに、デバイス(パソコン、スマホ)を起動し、該当するサービスにアクセスできる情報をエンディングノートなどに記載しておくようにしましょう。

仮想、デジタルの「現金化」を考える

特に暗号資産やNFTなどは、相続手続に時間やエネルギーが必要になります。相続を意識するようになったら、折をみて解約、現金化を検討するのも1つの選択肢になるでしょう。

まとめ

利用の広がるデジタル資産ですが、相続の際には大きなネックになる可能性もあります。相続人が困らないよう、生前の対策を忘れずに。必要に応じて、専門家にサポートを依頼することも検討しましょう。

中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。

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