相続の手続きには期限があります「期限切れ」のリスクを併せて解説

[取材/文責]マネーイズム編集部

相続が発生すると、相続人は、遺産分割をはじめその状況や希望に応じて、さまざまな手続きを進めることになります。多くの場合、それらには一定の期限が設けられており、それを過ぎると権利を失ったり、デメリットを被ったりします。相続に関する手続きと、その期限をまとめました。

期限の起点は「相続の開始があったことを知った日」

相続の手続き期限は、基本的に「相続の開始があったことを知った日」を起算点にカウントされます。通常は、被相続人が亡くなった日です。

ただし、例えば孤独死で発見が遅れた場合には、警察などから連絡を受けた日が、それに該当します。行方不明になると、7年間その生死が明らかでない場合、家庭裁判所に申し立てることにより死亡が認定されますから(普通失踪)、その日が起算点です。このように、「相続の開始があったことを知った日」が、必ずしも実際の死亡日とならないこともあります。

また、例えば被相続人に隠し子がいて、他の相続人がその存在を知らなかったために、当人への連絡が遅れた、といったケースもありえるでしょう。このような場合には、隠し子はその連絡を受けた日が「相続の開始があったことを知った日」になります。他の相続人の起算点は変わりません。

相続手続きの期限は

では、期限が設けられている重要な相続手続きについて、みていきます。

相続税の申告・納付:10ヵ月以内

税務署への相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内、と定められています。これを過ぎると、延滞税が課せられるなどのデメリットが発生します。相続税申告が遅れた場合のデメリットについては、後段で詳しく説明します。

相続税の申告・納付期限は、原則として延長は認められていません。ただし「災害その他やむを得ない理由」に該当する場合は、税務署に申請をすることで、最大2ヵ月の延長が認められることがあります。当然、「遺産分割協議がまとまらない」といった理由では、延長は不可です。

なお、相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除額が設けられていて、被相続人の遺産総額がこの金額以下ならば、課税はされません。原則として、申告も不要です。ただし、小規模宅地等の特例などの税の軽減措置を利用した結果、基礎控除額の範囲まで減額された場合には、申告の必要がありますから、注意してください。

相続税の還付請求:5年10ヵ月

相続税納付後に、計算ミスや不動産評価の誤りにより「納め過ぎ」が判明することがあります。そのような場合には、「更正の請求」という手続きによって、その分を返金(還付)してもらうことが可能です。

請求の期限は、相続税の申告期限から5年以内です。相続の開始があったことを知った日の翌日から、5年10ヵ月ということになります。

相続税の修正申告:5年10ヵ月

反対に、申告・納税額が不足していた場合には、税務署に対して「修正申告」を行い、その分を納める必要があります。期限は、更生の請求と同様、相続税の申告期限から5年以内(相続の開始があったことを知った日の翌日から、5年10ヵ月)です。

納税額が少なかった場合、延滞税とともに過少申告加算税というペナルティの対象になりますが、自主的に(税務署から税務調査を指摘される前に)申告したときには、加算税はかかりません。

また、申告期限から5年が経過すると、相続税は時効となり、たとえ納税額が不足していたとしても、追加で納める必要はなくなります。ただし、意図的に少なく申告した場合などには、悪質とみなされて時効が5年から7年に延長されることもあります。悪質な「税逃れ」が発覚すると、過少申告加算税よりも税率の高い重加算税が課せられることになります。

相続放棄:3ヵ月以内

相続財産には、現預金や不動産など「プラスの財産」のほか、借金などの「マイナスの財産」も含まれ、相続ではこれらすべてを引き継ぐことになります。後者の方が多い場合には、相続を放棄する(プラスの財産もマイナスの財産も相続しない)こともできます(相続放棄は、これ以外の理由でも可能)。

相続放棄を行うためには、相続の開始があったことを知った日の翌日から3ヵ月以内に、家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。相続税の申告とは違い、すべての手続きをそれまでに完了させなければならないというのではなく、家裁に申し立てを行う期限です。

また、この期限は、家裁への申し立てにより、延長することも可能です。

相続人が,自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に相続財産の状況を調査してもなお,相続を承認するか放棄するかを判断する資料が得られない場合には,相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てにより,家庭裁判所はその期間を伸ばすことができます。

参考:相続の放棄の申述 | 裁判所

限定承認:3ヵ月以内

被相続人のマイナスの財産がどのくらいあるかわからないような場合には、プラスの財産を限度にマイナス分を引き継ぐ、「限定承認」という方法も選択可能です。

この限定承認も、相続放棄と同様、相続開始があったことを知った日の翌日から3ヵ月以内に、家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。ただ、相続放棄が相続人1人で行えるのに対して、限定承認は相続人全員で手続きを進めなくてはなりません。

遺留分侵害額請求:1年以内

「遺留分」は、民法に定められた相続人の権利で、配偶者と子どもなどの直系卑属、親や祖父母などの直系尊属にあたる相続人が、最低限相続できる遺産の割合をいいます。被相続人が残した遺言書などで、この遺留分が侵害されていた場合には、遺留分を侵害している人(遺産を多くもらい過ぎている人)に対して遺留分侵害額請求を行い、不足分を取り戻すことができます。

遺留分侵害額請求の期限は、「相続の開始および遺留分を侵害する贈与又は遺贈(遺言書で財産を渡すこと)があったことを知ったときから1年以内」とされています。その期間内に、相手方に対して遺留分侵害額請求権を行使する通知を行わないと、請求権は時効で消滅してしまいます。また、遺留分を侵害されている事実を知らなかったとしても、相続開始から10年(排斥期間)を経過すると、遺留分侵害額の請求はできなくなります。

相続登記:3年以内

不動産を相続した場合には、名義変更(登記)が必要です。全国で所有者不明の土地が拡大していることを背景に、2024年4月1日から以下のように、この相続登記が義務化されました。

  • 相続(遺言も含む)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない

  • 遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければならない

相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の資料収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケースなど、正当な理由なくこの義務に違反した場合は、10万円以下の過料(行政上のペナルティ)の適用対象となります。

なお、24年4月1日より以前に相続が開始している場合も義務化の対象となります。

準確定申告:4ヵ月以内

被相続人が個人事業を営んでいたりして所得があった場合、相続人が代わって所得金額と税額を計算し、所得税の申告・納税を行います。これを「準確定申告」といいます。1月1日から死亡した日までの所得が申告の対象で、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内に行う必要があります。通常の確定申告の期限(翌年3月半ば)とは異なりますから、注意しましょう。

なお、被相続人が給与所得者で、勤務先が年末調整を行う場合や年金受給者で公的年金の受給額が400万円以下かつその他の収入が20万円以下の場合、また相続人が相続放棄した場合は、準確定申告は必要ありません。

相続手続き(申告・納税)が期限までに終わらないとどうなる

相続には遺産分割が絡むことから、手続きを期限内に終わらせられないこともあります。相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内とされている相続税の申告・納付ができなかった場合、次のようなデメリットが発生します。

相続税の特例措置などが使えない

下記のような税金の軽減制度などが利用できなくなります。

  • 小規模宅地等の特例

  • 配偶者の税額軽減(配偶者控除)

  • 農地等の納税猶予の特例

  • 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例(事業承継税制)

  • 相続税の物納

小規模宅地等の特例を使えば、親と同居していたなど一定の要件を満たす場合、相続した自宅の評価額を8割減額することが可能です。また、相続税の配偶者控除は、相続した遺産の1億6,000万円、ないし法定相続分まで非課税になる制度です。

申告期限までに遺産分割がまとまらない場合、これらを使うことはできず、法定相続分に従って納税しなくてはなりません。なお、期限後も協議を続け、遺産分割がまとまれば、あらためて特例を利用した申告・納税を行うことは可能です。

延滞税がかかる

相続税を期限までに納付しなかった場合、他の税金と同様、延滞税が発生します。期限の翌日から数えて納税が完了した日までの日数に応じて計算された税額が課されることになります。

相続人の状況が変わるリスクがある

例えば、相続手続きが長引いた結果、相続人が認知症になるかもしれません。その場合には、その人に代理人を立てる必要が出てきます。また、相続人が亡くなると、新たな相続が発生し、関係する人が増える可能性があります。相続手続きがより複雑になるのは、避けられないでしょう。

まとめ

相続手続きが期限内に終わらなかった場合のリスク、デメリットについて理解いただけたでしょうか。他の相続人と歩調を合わせて手続きを進めるのは、簡単なことではありません。特に財産が高額な場合や、評価の難しい不動産を多く含む場合などには、早めに準備を進めるとともに、必要に応じて相続に詳しい税理士などの専門家のサポートを受けることを考えましょう。

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