廃業したら会社の「残余財産」はオーナーへ 受け取ったとき注意すべき税金とは

[取材/文責]マネーイズム編集部

後継者が見つからないなどの理由で廃業することになった場合、会社に財産が残っていれば、株主に分配されることになります。100%の株式を持っていた中小企業オーナーならば、すべての財産を受けることになりますが、その際の課税はどうなっているのでしょうか? 個人資産が増えることにより、注意すべきこととは? 「会社の清算とオーナーの税金」について解説します。

そもそも会社の「解散」「清算」とは

2024年の「休廃業」は過去最多に

東京商工リサーチの調査によると、2024年に休廃業・解散した東京都内の企業は、前年比30.8%増の1万5,472件でした。3年連続で増加し、過去最多だった20年の1万2,357件を上回りました。コロナ禍での中小企業向け支援策の終了や、後継者不在などが響いた、とされています。

ちなみに、債務の支払いが不能に陥る「倒産」に対し、「廃業」や「解散」は自主的に事業を閉じることを指します。後継者難などの構造的な問題は解決が難しく、今後もこうした自主廃業の増加が予想されています。

法律に従って会社を消滅させる

このように、なんらかの理由で会社の事業をやめるとき、必要になる手続きを「清算」といいます。会社(法人)は、法律に基づいて設立されます。自主的に畳む場合にも、解散の決定→清算の手続きが必要になるのです。

会社の解散は、通常、株主総会の「解散決議」によって行われます。これは「特別決議」に該当し、原則として議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の2/3以上の賛成を必要とします。このようにして解散が決まった後に清算手続きを進め、それがすべて終了した時点で法人が消滅することになります。

財産の処理が必要

会社の清算は、会社の財産をすべて洗い出し、それを債務に充当した後、残金(「残余財産」といいます)があれば株主に分配する手続き――と言い換えることもできるでしょう。

財産には、会社が保有する預貯金はもちろん、土地・建物などの不動産、有価証券、売掛金などの債権も含まれます。すべて現金化して清算するのが原則ですが、例えば不動産などを現物のまま分配することも認められています。この残余財産の分配が正しく行われるまで、会社を清算することはできません。

会社の清算手続きの流れ

清算の手続きは、概要次のように進みます。

株主総会での解散決議、清算人の選任

解散のための特別決議を行った株主総会で、同時に「清算人」の選任も行います。清算人は、以下のような清算手続きを中心になって行う人で、解散した会社の取締役がなることもできます。

会社解散の登記

解散が決まったら、決議から2週間以内に、法務局に会社の解散と清算人選任に関する登記を行います。

解散の届出

税務官庁(税務署、都道府県税事務所など)、労務官庁(ハローワーク、労働基準監督署など)に会社の解散・廃業の届出を提出します。

残余財産の株主への分配

解散時に存在した債権を回収し、債務を弁済して、会社の財産を整理します。そのうえで、残ったお金(残余財産)がある場合は、株主に分配しなければなりません。

清算結了の手続き

残余財産の分配が完了した後、清算人は決算報告書を作成し、株主総会で承認を受けます。この株主総会での承認により、清算手続きの終了(清算結了)となります。

清算結了の登記

清算結了の株主総会での承認後2週間以内に、法務局に清算結了の登記を行います。これにより、会社の登記簿は閉鎖されます。

清算結了の届出

清算結了の登記終了後、登記簿謄本を添付して、税務官庁(税務署、都道府県税事務所など)に異動届出書を提出します。

残余財産の分配方法は

清算でポイントになるのが、残余財産の確定とその分配です。少し詳しくみておきましょう。

持ち株比率に従って分配

残余財産は、原則として株主の持ち株数に応じて分けられます。中小企業オーナーの場合は、清算会社に残った財産の全額を受け取ることになります。

さきほど説明した清算手続きでは、清算人が選ばれた後、関係官庁への解散届の提出などと並行して、速やかにこの残余財産の分配に向けた作業に取り掛からなくてはなりません。

財産目録を作成する

清算人は、まず会社の解散時点の資産と負債を調査して、財産目録、それに基づく貸借対照表を作成します。それらは、株主総会で普通決議(1/2以上の議決権)による承認を受けます。

債権申し出の公告および催告を行い、債務を弁済する

次に解散した会社に債権を持つ人は申し出を行うよう、2ヵ月以上の期間を指定して官報に公告を掲載します。同時に、会社が把握している債権者に対しては、催告(通知)を行う必要があります。

公告期間が満了したら、債権者に対して債務を弁済します。

残余財産を分配し、総会で承認を得る

以上が終了した後に、株主に対する残余財産の分配を行い、総会でこの手続きにおける決算報告書(収入と支出、残余財産の金額や1株当たりの分配額などを記載)の承認を得て、清算結了となります。

残余財産を受け取ったときの税金は

では、このとき株主(オーナー)が解散した会社から受け取った残余財産は、課税対象になるのでしょうか?

出資金額を超えた分に課税される

会社が消滅すれば、資本金も必要なくなります。この資本金の出資分は、もともと株主が支払ったお金ですから、清算によって返してもらっても課税されることはありません。

一方、出資金額を超えて分配された財産があったときには、株主だったために会社から利益を得た=配当所得(※)を得たとみなされて、所得税の課税が発生します。残余財産が支払われる際には所得税の源泉徴収が行われ、その税額を差し引いた金額を受け取ることになります。

※配当所得 参照:【関連記事】:No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)|国税庁

「相続財産」の増加に注意

老後の生活などを考えれば、会社を清算してまとまった資金を受け取れるのは、歓迎すべきこと。ただ、もともとオーナーの個人資産が大きかった場合などには、残余財産の受け取りにより、それがさらに膨らむことになります。

そうなると、気になるのが相続税です。相続税は、遺産の額が多いほど高い税率を課せられる累進課税になっていますから、相続人の納税額が想定を超えて高額になる可能性が否定できないのです。

会社の清算を行う中小企業オーナーは、すでに高齢のケースも多いでしょう。そうなると、時間をかけた贈与などは難しく、可能な相続対策は限られることになるかもしれません。

資産が増加し、相続に不安を感じるような場合には、早めにその分野に詳しい税理士などの専門家に相談してみることをお勧めします。

M&Aという選択肢もある

廃業ではなく、M&Aという選択

廃業について述べてきましたが、その理由が「後継者がいないこと」である場合、M&A(会社の買収)の可能性を探ってみるのも1つの方法です。M&Aのハードルは、以前に比べて下がりました。残余財産が高額になるような会社であれば、好条件で買ってくれる相手が見つかるかもしれません。

M&Aは、基本的に仲介会社や専門家の力を借りて、買収の相手を探し、トップ同士の面談や、自社(譲渡側企業)の財務状況などの調査(デューデリジェンス)などを経て、最終契約を結ぶ――という流れで進みます。買収側にとっての企業価値が高ければ、高額で買ってもらえるでしょう。逆に事業の将来性が乏しかったり、会社が大きな債務を抱えていたりする場合には、M&Aは難しくなります。

M&Aのメリット・デメリット

M&Aがうまくいけば、廃業するのに比べ、次のようなメリットが期待できます。

  • 会社を存続させることができる
  • 従業員の雇用が守れる
  • 廃業(清算)するよりも、簡単な手続きで進められる可能性がある
  • オーナーは、廃業するよりもより多くの利益を得られる可能性がある
  • 売却益や買収企業の肩代わりにより、融資に対するオーナーの個人保証が解除される

一方、デメリットとしては、次のようなものがあります。

  • 買い手を探すのに、時間と労力がかかる
  • 仲介会社、専門家との契約は不可欠で、手数料が高額になる

廃業かM&Aかは、以上のようなことも念頭において、判断するようにしましょう。その際、やはり事業承継に詳しい専門家にアドバイスを受けることが大事です。

まとめ

廃業して会社の残余財産を受け取った場合、出資金額を超えた分には所得税が課税されます。個人資産の増加による相続への影響にも注意しましょう。

中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。

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