亡くなった親の会社に大きな負債があったら相続放棄するべき?判断基準を徹底解説

親が多額の負債を抱えた会社を残して亡くなったら、相続人が選択できる道には、どのようなものがあるのでしょうか? 仮に相続放棄した場合のメリット・デメリットは? 「負債のある会社の相続」について解説します。
そもそも会社の何を相続するのか
初めに「会社を相続する」とはどういうことなのか、整理しておきましょう。
会社の負債は相続人が引き継ぐ?
相続では、被相続人(亡くなった人)の現預金や不動産といった「プラスの財産」だけでなく、借金などの「マイナスの財産」もすべて引き継ぐ必要があります。では、被相続人が経営していた会社に負債があった場合、その扱いはどうなるのでしょうか?
被相続人が設立した会社(法人)は、当人とは別の法的な「人格」を持っています。事業で生じた負債は、あくまで法人の負債で、被相続人のものではありません。このため、相続財産にはならず、相続人が引き継ぐ必要はないのです。
相続の対象になるのは、会社の事業そのものではなく、株(経営権)です。事業の後継者になった場合には、株を相続して「負債を抱えた会社」を受け継ぐ、ということになります。負債をどうするのかは、あくまでもその会社の問題です。
会社の債務の連帯保証人になっていたら
ただし、被相続人が会社の借金の連帯保証人になっていた場合には、それは被相続人の個人の負債とみなされます。その分は相続財産にカウントされますから、注意が必要です。
また、被相続人の会社からの借り入れがあった場合にも、同様に相続時の「マイナスの財産」になります。
「負債を抱えた会社」は相続放棄できる
相続人の選択肢は
一般的に会社の経営者が突然亡くなった場合、相続人は、まずその事業を相続するのか・しないのかを決めなくてはなりません。
相続する(株を取得する)と、会社の経営権とともにすべての資産と債権、そして債務も引き継ぐことになります。もちろん、被相続人個人の財産も相続する権利を持ちます。
一方、会社(株)も他の財産と同様、相続放棄することができます。そうすれば、被相続人の個人保証も含めて引き継ぐ必要はなくなります。ただし、「会社だけもらわない」など特定の財産だけを相続しないということはできません。相続放棄すると、被相続人の相続財産すべてに対する相続の権利がなくなります。
相続放棄の判断基準
相続放棄は、一般的に被相続人のマイナスの財産がプラスの財産を上回るのが明らかなときに、取られる手段です。被相続人が会社を経営していた場合にも、相続放棄するか否かは、基本的にその点が判断基準になりますが、財産の評価などに当たっては、より幅広く、慎重な調査が必要になります。
①被相続人の個人資産
預貯金のほか、不動産を持っていた場合には、漏れなくリストアップしなくてはなりません。事業用不動産との区別、物件に抵当権が設定されていたりしないか、という点にも注意が必要です。
②会社の債権・債務
会社の取引銀行の借入残高、利息や遅延損害金の有無などを正確に調べなくてはなりません。また、事業の取引先との貸し借りについても把握する必要があります。
③会社の債務の個人保証
中小企業オーナーの場合、会社の借金の連帯保証人になっていることが少なくないでしょう。この債務は、すでに述べたように、①にカウントされることに注意しなくてはなりません。
相続放棄の判断については、こうした資産状況に加え、会社の経営状態や事業の将来性も1つのポイントです。多少の負債を抱えていても、今後の成長が見込める会社ならば、相続して事業の継続を検討することも選択肢になるでしょう。
この判断をした場合、いったん相続したうえで、有利な形で会社を清算することや、M&A(売却)を行うことも、状況によっては可能です。
ただ、上記の点を調査の結果、連帯保証も含めた被相続人の個人の財産が大きくマイナスになる、会社が長く債務超過に陥っており今後も改善が見通せない、といったケースでは、相続放棄という選択が現実味を帯びます。
負債を抱えた会社を相続するリスク
では、もし負債を抱えた会社を相続した場合には、どうなるのでしょうか? 新たに経営者になるわけですから、事業の運営と同時に、負債の返済を求められることになります。無理な場合には、会社の破産手続きなどが必要になるかもしれません。
繰り返しになりますが、会社の債務の連帯保証人になっていた場合には、それは個人の債務です。相続で連帯保証人の立場を引き継いでいたら、たとえ会社が倒産(破産)を認められても、代わってそれを弁済しなくてはなりません。難しければ、会社と同時に経営者個人も自己破産を検討することになるでしょう。
相続放棄のメリット
相続放棄を行った人は、「初めから相続人ではなかった」という扱いです。会社の負債への対応、肩代わりは、一切不要。個人のマイナスの財産も含めて、すべて引き継ぐ必要はなくなります。
相続放棄のデメリット、注意点
他方、相続放棄をするときには、次のようなことを認識しておく必要があります。
放棄する財産は選ぶことができない
相続放棄とは、「被相続人の一切の財産を引き継がない」ことを意味します。プラスの財産のみを相続するようなことはできません。
「相続開始から3カ月」という期限がある
相続放棄をする場合には、家庭裁判所にその申し立て(申述)を行い、認められる必要があります。原則として、この申述の手続きは、相続の開始を知ったときから3カ月以内に行わなくてはなりません。
債務の詳細などを把握するのに時間がかかる場合などには、申述期間の延長を申し立てることはできます。ただし、無制限で待ってくれるわけではありませんから、速やかな調査や手続きが求められます。
一度相続放棄が認められると、撤回できない
家庭裁判所に申述を行い、相続放棄が認められた場合、原則としてそれを取り消すことはできません。あとから多額の財産が見つかったりしても、相続できないことになります。
相続財産に手をつけるのはNG
被相続人の財産を売却したり、廃棄したりすると、普通に相続した(「単純承認」した)とみなされて、相続放棄ができなくなる点には、特に注意が必要です。被相続人の借金を返済してもいけません。相続放棄が選択肢にある場合には、「相続財産に手をつけない」というのが鉄則です。
裁判所に相続放棄の申述が受理されたあとでも、遺産を使ったりすれば、単純承認をしたとみなされ、相続放棄は無効になる点も頭に入れておきましょう。
M&Aという選択を検討する
相続放棄すれば、負債から逃れられますが、欲しい財産も相続できなくなります。相続人が全員相続放棄すると、事業は途絶えます。特に従業員や取引先にとって、大きな問題になるでしょう。
会社に親族などの後継者がいない場合には、M&A(売却)も選択肢になります。今回のようなケース(先代社長が亡くなった)では、相続人が会社を相続したうえで、買い手を探すわけです。
相続放棄を考えるような大きな負債を抱えていると、そのハードルが高くなるのは事実。しかし、事業に成長性があったり、例えば進出したいマーケットに地盤を築いているなど買い手企業の戦略にマッチしていたりする場合には、売却が可能になるかもしれません。
迷う場合には、相続放棄をする前に、M&A仲介会社などの専門家に、その可能性を相談してみるのがいいでしょう。
まとめ
負債を抱えた会社を残して親が亡くなったときには、相続放棄をすれば負担を引き継がなくて済みます。ただし、相続放棄するかどうかの判断には、会社や被相続人本人の財産、債務の状況を限られた時間で、正確に把握しなくてはなりません。このような状況に直面した場合は、速やかに相続、事業承継に詳しい税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
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