相続の盲点「デジタル遺産」のリスクと対策とは?“アクセス不能”でも相続税の課税対象に!?

[取材/文責]マネーイズム編集部

被相続人(亡くなった人)の財産を受け継ぐ相続では、しばしばその分け方をめぐって争いが起こります。ところが近年、まったく別の「トラブルの種」が広がっているのをご存知でしょうか?現金や土地のように目に見えない、例えば仮想通貨のような「デジタル遺産」の増加です。争う以前に、相続人がその存在に気づかないこともあり得る、相続にとっては「やっかいな財産」。今回はデデジタル遺産のリスクとその対策を解説します。

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デジタル遺産はなぜやっかいなのか?

デジタル遺産とは?マイレージは該当する/ポイントは該当しない

「デジタル遺産」を定義すれば、“被相続人の相続財産のうち、パソコンやスマートフォンなどにデジタルデータとして記録されたもの”ということになるでしょう。

具体的には、次のようなものを指します。

 

  • インターネット銀行の預金口座
  • 都市銀行などの「web通帳」口座
  • インターネット証券の株式や債券の口座
  • FX(外国為替保証金取引)口座
  • 電子マネー(例えば「Suica」「nanaco」など)
  • 仮想通貨
  • 航空会社のマイレージ


 

ちなみに「マイレージ」に近いものに、クレジットカードなどを利用した際にもらえる「ポイント」がありますが、大半の場合、利用規約に「ポイントの相続はできない」や「会員資格の喪失(死亡)と同時に失効する」という内容が定められています。つまり相続不可になるため、これは遺産にはなりません。

増加するデジタル財産

三菱UFJ銀行が、今年4月から紙の通帳を希望する新規顧客に対して、年550円の手数料を課すと発表しました。既にみずほ銀行や三井住友銀行のほか複数の地方銀行でも、同様の通帳のペーパーレス化=デジタル化の取り組みが始まっています。いずれも高齢者については従来通りの扱い(手数料は取らない)となっていますが、家計の中心にある銀行口座のデジタル化の流れは、さらに加速するものと思われます。

 

また、他の世代に比べ資金に余裕のあるシニア世代は、株をはじめとするさまざまな投資を行う機会も多くなっています。手軽なネット利用の金融取引は着実に増加しており、デジタル遺産を相続する機会が増えるのは間違いないでしょう。

念のために付け加えておけば、亡くなって相続が発生するのは、高齢者ばかりとは限りません。

デジタル遺産で起こる問題とは

そうした状況にもかかわらず、相続で発生するかもしれない問題についての一般の認識は十分とは言えないようです。実は、欧米などに比べてこの問題に対処する法整備も遅れているという現実もあります。では、どんな「困ったこと」が起こる可能性が考えられるのでしょうか?

◆遺産の把握が難しい

例えば紙の通帳であれば、引き出しを探せば、故人が黙っていた口座のものも発見できることがあります。しかし、パソコンやスマホにしまわれた電子データの場合はそうはいきません。たとえ取引の事実を知っていたとしても、相続人がIDやパスワードを知らなければ、そこにアクセスすることはできないのです。

 

厳密に言えば、パスワードなどの「壁」は、パソコンやスマホなどのデバイスを開く時と、該当するサービスに到達する時の最低2つあります。加えて本人確認の厳格化といった近年のセキュリティ強化の流れが、この場合にはマイナスに働くことになります。

◆パスワードがわからなくても相続財産になる

もしパスワードが不明なために換金できなかった財産があった場合、それも相続税の課税対象になるのでしょうか?これについては、2018年3月、参議院の財政金融委員会で、当時の国税庁次長が、仮想通貨について次のように述べています。

「相続人が被相続人の設定したパスワードを知らない場合でも、相続人は被相続人の保有していた仮想通貨を承継することになるので、その仮想通貨は相続税の課税対象となる」「パスワードの把握の有無は、当事者にしか分からず、当局がその真偽を判定することは困難。従って相続財産に該当しないと解することは、課税の公平の観点から問題がある」

つまり、パスワードが分からないデジタル遺産も相続財産に算入される、というのが国税庁の公式見解なのです。

デジタル遺産を把握できないと起こる不都合

財産を相続できない

被相続人がデジタル遺産を保有していることに気づかなかった場合、税金への対処といった課題の前に「そもそも貰うべき財産が貰えない」という問題が発生します。実際に世の中では、そういう形で眠ったままになっている預金口座や金融商品などのデジタル財産が増えているのです。

損害を被ることがある

遺産はプラスとなるものばかりではありません。特に注意すべきはFXで、小さな自己資金で大きな投資効果を狙うレバレッジ取引を行っていた場合、損失(追加証拠金)が100万円単位になることも珍しくはありません。また、ネットで契約していた借金なども、もちろん負債となります。

 

これらは把握できていれば、相続財産から控除して(差し引いて)、相続税を減額することができます。また、プラスの財産を上回る場合には、相続放棄して負債の相続を防ぐことも可能です。しかし、“デジタルであること”が災いして気づくことができなければ、そうした手続きに支障をきたすことになるでしょう。

相続のやり直しや、加算税などの発生も

遺産分割が終わり申告も済ませた後に、ネットバンクの口座や仮想通貨などの存在が明らかになったとなると大ごとです。場合によっては、遺産分割協議を1からやり直さなくてはなりません。

ここで新たに発覚した財産は申告から漏れているため、税務署への修正申告も必要になります。口座などへのアクセスに時間がかかり、申告期限(相続開始から10ヵ月)を過ぎると、延滞税や過少申告加算税などのペナルティの対象になってしまいます。

デジタル遺産のスムーズな相続のために

デジタル遺産の恐ろしさが理解いただけたでしょうか。ただし、財産をデジタル化すること自体には、数々のメリットがあります。相続対策に位置づけて適切な手を打っておけば、スムーズに引き継ぐことは十分可能なのです。譲る方・貰う方でそれぞれの対策をまとめました。

デジタル財産の持ち主がやるべきこと

デジタル財産を持っている人は、次に記載する内容を実施してみましょう。

●どんなデジタル財産を持っているのか、日頃から配偶者や子どもに話しておく。

●遺言書、エンディングノートなどに、デジタル遺産の「目録」を記載しておく。

●サービスごとにID、パスワードが分かるようにしておく。

●相続を意識するようになったら、ネット→実店舗への切り替えを検討する。

●利用頻度の低いサービス、相続に大きな影響を与えそうな金融取引などについては、「整理」も検討してみる。

相続人がやるべきこと

次に、相続人が事前にやっておくべきことを挙げてみます。

●説明したようなデジタル遺産の相続の問題点を持ち主に話し、どんな財産があるのかを教えてもらう。目録などの作成を依頼する。

●相続になったら、遅れてデジタル遺産が見つかる可能性を念頭に置く。例えば通帳記載の預金額が予想外に少ない場合、ネットバンク利用の可能性を疑って対応する。

まとめ

デジタル財産は、セキュリティが強化されている分、「遺産」になった際の相続人のアクセスもハードルが高くなっています。今回の記事を参考にして、万全の対策を講じるようにしてください。相続になってから「隠れたデジタル遺産」の存在が疑われるような場合には、相続に詳しい税理士などの専門家に相談しましょう。

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