コロナ対策の次は、円安対策
使ってもらえる支援策は豊富
豊永厚志理事長
- 公開日:
- 2022/07/15
我が国の総合的な中小企業支援の政策実施機関である中小企業基盤整備機構。政府に代わって、コロナ対策、資源高や円安による仕入れ高対策、攻めのIT投資など中小企業、個人事業主の助っ人を務める。そのリーダー、豊永厚志理事長に「会いに行きました!」。「まだまだ使ってない方が多いが、役立つ支援サービスがたくさんあります。」と豊永理事長は語る。
八木美代子(以下、八木) 中小企業整備基盤機構(以下、中小機構)のパンフレットを拝見すると「中小企業のみなさまに、寄り添い続ける存在でありたい」というビジョンを掲げています。ビスカスも、創業から27年間、中小企業のお悩みを伺い、適切な税理士さんを紹介してきました。中小企業と寄り添うという同じ気持ちですので、そのトップである豊永理事長にお会いしに来ました。
豊永厚志(以下、豊永) それは光栄です。
八木 先に目について気になったことから伺います。「中小機構に聞こう」というプロジェクトのことです。豊臣秀吉や徳川家康などの戦国武将、西郷隆盛や坂本龍馬などの幕末のリーダーたちが登場して、彼らのリーダーシップに学ぼうというコンテンツが盛り込まれています。このプロジェクトの狙いは何ですか。
豊永 戦国武将編と幕末の志士編とがあります。経営者の皆さんがどんなタイプなのかがわかる「志士タイプ診断」をやっていただきたい。
私は「西郷隆盛タイプ」と診断されました。どんなタイプの人が多いか、中小機構の職員が診断した結果、一番多かったのは、板垣退助でした。自由民権運動の指導者ですよね。「共感力の高いヒーロー」タイプの経営者だそうです。岩倉具視、近藤勇、土方歳三と並びました。
一番の狙いはタイプ診断をしてもらうだけでなくて、中小機構のことを知ってもらって、活用するきっかけにしてほしいのです。
八木 本題に入りますが、中小機構がコロナ対策として最も力を入れてきたことは何ですか。
豊永 私は3年前に中小機構に着任して、それから1年も経たずにコロナ感染が広がり、私の仕事の7割はコロナ対策をしてきたわけです。
最初に各地の地域本部を含めて、経営相談事業から始めました。「中小企業の皆さん、何でも経営相談に来てください」「政府の中小企業向けコロナ対策をわかりやすく説明しますよ」とお伝えしました。
2つ目として、相談いただいた課題を解決するために、既存制度をコロナ対策として弾力的に運用して支援しました。例えば「小規模企業共済」を使って緊急貸付けをしました。
3つ目に政府が新しくコロナ対策として作った施策を中小機構が引き受けました。例えば、「新型コロナウイルス感染症特別貸付」や「危機対応融資」などへの利子補給がそうです。形式的には有利子で貸し付けていますが、利子相当額を一括で助成することにより実質的に無利子化にしているのです。この2年ぐらいに210万件の借り入れに対して助成金を出しています。
また、中小機構が運営している補助金をコロナ枠と言いますが、コロナ特別対応型にして、コロナ感染に苦しんでいる経営者、個人事業主などに優先的に配分してきました。
八木 コロナ感染が拡大する中でビスカスにも結構な数の相談が来ています。「今後の備えや節税したい」という相談があれば、中小機構の「小規模企業共済」と「中小企業倒産防止共済」(経営セーフティ共済)をセットでお伝えしています。いずれも税制上の優遇措置がありますよね。
豊永 加入数は小規模共済で159万、倒産防止共済で59万、合わせて218万者です。
八木 ビスカスは年間3万社ぐらいの中小企業のオーナー様からお問い合わせをいただくのですが、私たちの感覚では、4割ぐらいの中小企業、個人事業主の方々が影響受けています。資金繰りを心配されるオーナー様は多いです。そういうご相談を受けるときに、税理士さんのご紹介だけでなく、中小機構の話がよく出てきます。中小機構の場合、相談内容が変化してきていますか。
資金繰り、事業承継、事業再構築と関心が移り、今は仕入れ高問題
豊永 コロナ禍の中小企業の変化を4コマ漫画的に言えば、第一段階は何がなんでも資金繰りが大事だと。
これから先に何が起きるかわからないので、借りられる資金を借りて備えておこうとされましたね。無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」は、当初3年間は無利息ですから、まずは3年分の資金繰りに不安がないようにするために、お借りになった経営者が多かった。
2コマ目は、事業承継です。事業承継を前々から考えていた経営者は、早めに次の代、別の方に事業を継がせる動きに出ているのです。一方、後継者がばく然としていた方、後継者が決まっていない方は、事業承継を先送りする傾向がありました。
3コマ目は、事業再構築です。事業再構築補助金が生まれた背景にもなっているのですが、「このままでは、今の事業が立ちゆかない」「今の事業をやっているとまた同じようにやられてしまう」と将来をにらんだ動きをされる方が増えてきたのです。
4コマ目は、昨今の出来事で、円安による仕入れ高です。仕入れ高はコロナよりの大きな波かもしれない。かなりのマグニチュードです。
輸出企業や貿易外収支で見たら「良い円安」もあるかもしれませんが、中小機構が対象としている企業から見れば、「悪い円安」ですよ。中小機構は四半期に1回、「中小企業景況調査」を実施しています。1万9000社を対象とした大規模調査です。それが、2021年の11月に実施した調査あたりから、コロナよりも仕入れ高が大きな問題になってきています。
アフターコロナを見据えて、
同業者などと組む事業継続計画に力を入れる
八木 アフターコロナを見据えて事業再構築の動きがあるとのご指摘がありましたが、ほかにはどんな動きがありますか。
豊永 一番明白なのは、BCP(事業継続計画)を作りたいという企業が増えてきていることです。BCPって言うと将来に備えた保険みたいに聞こえるかもしれませんが、現世利益がある。2017年の九州北部豪雨など災害が頻発していますね。またコロナでサプライチェーンが途切れて物資が届かなくなったこともあった。それらを目の当たりにして、BCPはムダな投資ではなくて、明日来るかもしれない災害や危機への備えだと考えるようになった。
そして、新しいBCPの動きとしては、連携型BCPが、急速に増えましたね。他社と組んでBCPを行うやり方です。仲間内の同業者と組んだり、同じサプライチェーンの中にある遠隔地の納入業者と組むとかです。
例えば、東海地域にある会社が被災して防災用のテントシートを供給できなくなった場合に北陸地域の同業者が供給する。長野県の精密機械の工場と山形県や千葉県の同業種の工場がバックアップ体制で協力関係を結ぶとかです。今では600件ほどの連携型を支援しています。
逡巡する経営者にデジタル化を促すためにプッシュ型で説得する
八木 別のテーマなのですが、中小企業のIT(情報技術)化といいますか、DX(デジタル・トランスフォーメーション)への取り組みがとても大事です。ビスカス自体が、第二の創業として取り組んでいるのが、デジタルによるナレッジシェア(知の共有)です。
私たちはデジタルプラットフォームを作っています。これからは、そのプラットフォームの上で、税理士の先生、専門家、経営者が結びつき、知の共有をはかれるようにしたいと思っています。経営者の方の悩みは、経営ノウハウだけはありません。投資もあれば、税金のこともあるし、お子さんやお孫さんの進学のこともある。多岐に渡るわけです。そういったお悩みは、ビスカスのプラットフォームに来ていただくと、全て解決しますよと、そういったプラットフォームを目指しています。
豊永 中小機構が取り組んでいるデジタル化で言えば、まだITを導入していない中小企業向けにITに関する診断をしましょうという支援策が代表的な例です。「IT経営簡易診断」というもので、無料で診断します。1回目は「売上を上げたい」といった個別の企業の希望をヒアリング。2回目には専門家との間でディスカッションをし、3回目に専門家のほうからIT活用について提案をします。
ただ、IT導入には、大きな壁があると思っています。経営者に「ITやDX導入の大きな障害は何ですか」と尋ねると、「うちの会社にはIT人材がいない」という答えが返ってくることが多い。「ITに投資した分が回収できるかわからない」という返答もある。経営者ご自身がITが苦手だと、「IT人材がいない」というのが言い訳になっていないか心配です。
なので、プッシュ型といいますか、まずはIT診断を受けて、IT導入が必要かどうかを外部の専門家に判断してもらっては如何ですか、と問いかけているわけです。診断したら、社長さんが「うちにも導入できるITがありそうだ」と関心を示してくれたら、「社長さん、もう一歩先に踏み出しましょうよ」と背中を押すのが大事だと思います。