「預金」と「貯金」その違いをご存知ですか?

[取材/文責]マネーイズム編集部

金融機関に口座を開いてお金を預けるのは、「預金」か「貯金」か? 普段あまり意識することはないと思いますが、厳密には使い分けられています。もし、お金を預けていた金融機関が経営破綻した場合に、預金(貯金)を保護する仕組みにも、ちょっとした違いがあるのです。言葉の成り立ちも含めて、解説します。

JAバンクに預けたお金は「預金」、それとも「貯金」?

「預金」が金融機関にお金を預けることを意味するのは、誰でも知っています。一方で、世の中には「貯金通帳」が存在します。いったい、どういうことなのでしょう?

 

実は「預金」と「貯金」は、次のように、預ける金融機関によって使い分けられているのです。

 

  • 預金=銀行(ネットバンクを含む)、信用金庫、信用組合、労働金庫、信託銀行、信金中央金庫、全国信用協同組合連合会、商工組合中央金庫など
  • 貯金=ゆうちょ銀行(郵便局)、JAバンク(農業協同組合)、JFマリンバンク(漁業協同組合)、水産加工業協同組合など
  •  

    同じ「銀行」でも、メガバンクや地方銀行に預けたら「預金」、国の「郵便貯金」がルーツのゆうちょ銀行ならば「貯金」。両方に口座を持っていたら「預貯金」ということになります。

     

    余談ながら、「貯金箱」というものがあるように、金融機関に預けずに自分の手元でお金を貯めるのは、「貯金」。しかし、同じように手元に置くのに、「タンス預金」という場合もあります。これは、「税務署などの他者に資産を捕捉されるのを避けるため、あえて現金で置いておく」というニュアンス。やはり金融機関を意識しているために、そんな表現になっているわけです。

     

    また、「貯金」と似た言葉に「貯蓄」があります。よく統計で「世帯の平均貯蓄額は?」などと言うときの「貯蓄」は、さきほどの「預貯金」に、株式や投資信託、債券などの有価証券、保険の積立といった金融商品を含めたもので、「金融資産」とも言います。

    では、違いはどこから?

    このように「預金」と「貯金」が使い分けられているのは、なぜなのでしょう? それは、それぞれの出自に違いがあるからでした。

     

    「貯金」のほうから説明しましょう。さきほども触れたように、ゆうちょ銀行の前身は郵便貯金で、始まったのは1875年(明治8年)のことです。今からは考えにくいのですが、当時の日本には、「お金を貯めておく」という思想自体がほとんどなく、当初は思うようにお金が集まらず、運用先も決まらず、苦労したようです。その後、教育の成果などもあって、徐々に国民の貯蓄率が高まり、大蔵省(現財務省)が本格的な資金運用を開始して、成長を遂げていきます。集められた資金は、国債や政策実行の原資として運用されました。

     

    積極的なサービス拡充や、バックに政府がいるという安心感から、国民はこぞって「郵便局」にお金を預けるようになり、戦後には世界最大の預金残高を誇る金融機関となりました。このように、「貯金」は、もともと「個人が貯めたお金を預ける」という性格が強いものだったわけです。

     

    一方、日本で最初の銀行は、1873年(明治6年)に実業家・渋沢栄一によって設立された第一国立銀行(現みずほ銀行)でした。「国立」というのは「国の法に基づく」という意味で、設立母体は民間なのですが、瞬く間に150を超える国立銀行が誕生します。1882年(明治15年)には、中央銀行である日本銀行が設立され、日本の金融システムが整備・確立されていきました。

     

    当時、主に銀行にお金を預けたのは、都市部の商人など事業に関わる人たちでした。そうしたお金が企業に融資というかたちで供給され、成長する企業が銀行にお金を預け入れる、という循環が起こり、日本の資本主義の礎が築かれていきました。

     

    このように、初めの頃、両者には「誰から集金したか」「どのように使われたのか」に大きな違いがあり、それが「預金」、「貯金」という呼び名の違いに反映したのです。特に郵便貯金の民営化以降、その差は小さなものになりましたが、伝統的な呼称が今も使われているというわけです。

    「ペイオフ」の仕組み

    ところで、みなさんは、「ペイオフ」という言葉を聞いたことがおありでしょうか? 正式には、「預金保険制度」と言い、万が一、銀行などが破綻して預かっていたお金の払い出しが困難になった場合でも、預金者を保護する制度があるのです。保護されるのは、利息の付かない当座預金などの決済性預金は全額、普通預金や定期預金などについては、1000万円までとその利息、となっています。

     

    ペイオフは、いざというときには、金融機関が保険料を支払う預金保険機構がこれらの支払いを肩代わりする、という仕組みになっています。預金保険機構には、冒頭で説明した「預金」に該当する金融機関が、すべて加入しています。

     

    かつての「郵便貯金」は、政府が保護していました。では、民営化後のゆうちょ銀行はというと、やはりこの預金保険機構に加入しているのです。ゆうちょ銀行の「貯金」は、預金保険制度によって守られている、ということになります。

     

    ならば、「貯金保険制度」はないのかというと、実はあるのです。預けたお金を「貯金」と呼ぶ金融機関のうち、ゆうちょ銀行を除くJAバンクなどは、農水産業協同組合貯金保険機構に加入していて、やはり破綻した場合には、そこが支払いを行います。保護される中身は、預金保険制度と変わりません。

    まとめ

    銀行などは「預金」、ゆうちょ銀行などは「貯金」という言葉の使い分けには、それぞれが歩んできた歴史が反映されていました。母体の機能にそれほどの差がみられなくなった今、その違いに神経質になる必要もなくなりましたが、1つの教養として覚えておいて損はないでしょう。

    中小企業オーナー、個人事業主、フリーランス向けのお金に関する情報を発信しています。

    新着記事

    人気記事ランキング

    • banner
    • banner