“やりやすい”が“見つかりやすい”「持続化給付金」の不正受給その重いペナルティとは?
新型コロウイルス感染症により業績の悪化した個人事業主や中小企業に対して、「持続化給付金」の支給が行われています。想定外の売上減少に見舞われた事業者にとってはありがたい給付金ですが、一方で本来受給資格のない人たちなどによる不正受給が多発し、問題になっています。不正にはどんな手口があるのか、発覚したらどうなるのかを解説します。
まずは「持続化給付金」の仕組みから
いつの世でも、国などの補助金や給付金をめぐる不正受給は問題になります。今回の新型コロナに関連した給付金などでも、ご多分に漏れずニュースになっていますが、中でも目立つのが、「持続化給付金詐欺」です。それはなぜなのか、まずはこの給付金がどういう制度なのか、おさらいしておきましょう。
支給対象者
次のすべてに当てはまる事業者
- ①新型コロナウイルス感染症の影響により、ひと月の売上が前年同月比で50パーセント以上減少していること
- ②2019年以前から事業による事業収入(売上)を得ており、今後も事業を継続する意思があること
- ③法人の場合は、次のいずれかに当てはまる人
- 資本金の額または出資の総額が10億円未満である
- 上記の定めがない場合、常時使用する従業員の数が2,000人以下である
給付内容
<中小法人等>
- 計算方法:対象月の属する事業年度の直前の事業年度の年間事業収入から、対象月の月間事業収入を12倍した金額を差し引いた額
- 給付上限額:200万円
<個人事業者等>
- 計算方法:2019年の年間事業収入から、対象月の月間事業収入を12倍した金額を差し引いた額
- 給付上限額:100万円
利用・申請方法
オンライン申請
受付期間
2020年5月1日~21年1月15日
ごくかいつまんで言えば、
- 今年1月~12月の中に、売上が前事業年度(個人事業主の場合は前年)の同じ月の50%以下の月(対象月)があれば支給対象になる
- 対象月の売上を12倍して、前年度の総売上から差し引いた額が支給される
- ただし、法人は200万円、個人事業主は100万円を上限とする
という仕組みになっているのです。
不正に走りやすい理由
この持続化給付金に不正受給が起こりやすい理由の1つは、「売上の数字が操作しやすい」ところにあると言えるでしょう。今説明したように、受給資格があるか、いくら受け取れるかのポイントになるのは、「対象月」の売上です。例えば、対象月の売上の計上を先送りするなどして縮小させれば、受給に有利になります。逆に、確定申告で昨年の売上を膨らませる、あるいはゼロだったのに売上を立てるというのも有効。両者の“合わせ技”で「満額」を受給する例も少なくないようです。
第2の理由は、「申請のやりやすさ」です。例えば、「雇用調整助成金」(厚生労働省)の申請には、最低9種類の書類(一部は添付文書が必要)の提出を求められ、社会保険労務士(社労士)などのサポートなしには困難です。しかし、持続化給付金は、確定申告書類(個人事業主)、事業概況説明書(法人)、売上の減少を証明する売上台帳、本人確認書類などを用意すれば、パソコン、スマホから簡単に申請することができるのです。「困っている人に、できるだけ速く」という考えから実行された申請の簡素化ですが、不正受給者にとっては、そこが“狙い目”になりました。
どんな手口が?
では、具体的にどんな不正が横行しているのでしょうか? 特にメディアをにぎわせているのは、学生やサラリーマンなど、受給資格のない人たちの悪事です。
7月には、卸売り事業を営み、昨年およそ120万円の収入があったという嘘の確定申告(虚偽の経費を計上し、所得税はゼロ)を行ったうえで、スマホを使って給付金を申請、6月に上限の100万円を振り込ませたとして、埼玉県の大学生が逮捕されました。多いのはこのパターンで、やはりコロナの影響で本来3月16日までだった確定申告の申告期限が延長されたことも“追い風”となりました。ちなみに、申請の「アドバイス」などを行って成功報酬を受け取る「指南役」の誘いに乗ったケースも多く、そのバックには“オレオレ詐欺”グループがいる、という指摘もあります。
また、この持続化給付金は、1回しか受給できません。にもかかわらず、法人の経営者が給付金を受け取った後に、フリーランスとして「二重申請」するようなケースがけっこうあるようです。
そもそもこの制度は「新型コロナで影響を受けた事業者を救済する」ために設けられたものですから、他の原因による減収を理由に申請するのは、NGです。例えば、今年6月、日本郵政グループの保険の営業社員などの不正受給が表面化しました。彼らは、保険の件数に応じて支給される営業手当を個人事業主として確定申告しているため、手続き上は、給付金の申請が可能でした。しかし、今年に入っての減収は、コロナの影響ではなく、保険商品などの不適切販売による営業自粛が主たる原因だったのです。
「窃盗」より重い「詐欺」の罪
こうした不正の増加を重くみた経産省は、6月下旬から中小企業庁内に複数の専従者を配置し、弁護士などの助言を受けながら不正受給の本格的な調査に乗り出している、と報じられました。8月3日付『産経新聞』によれば、「持続化給付金の受付期間は来年1月15日までで、中小企業庁は審査を強化するとともに、給付金を支給済みの申請についても不正がないか洗い出しを始めた。特に、今年初めて確定申告したとする申請を重点的に調べるとみられる。」とのこと。怪しい確定申告などは、片端からチェックされているはず。現に逮捕者も続出していますから、それ以外も含めると、すでにかなりの不正が「摘発」されているものとみられます。持続化給付金の不正は、「やりやすい」けれど「見つかりやすい」と考えるべきでしょう。
こうした不正が発覚すると、「もらったお金を返還する」だけではすまなくなります。
まず、不正受給したお金は、受給の翌日から起算して年3%の金利が課されたうえに、その合計額の20%増しの金額が請求されることになります。仮に100万円を不正受給して、1年後に返還したら、
という計算になります。
加えて、経産省は、悪質な場合には氏名、社名などを公表する、としています。さらにその先に待つのが、刑事告訴です。「騙して金を受け取った」のですから、罪状は詐欺罪。この刑には、窃盗罪のような罰金刑の規定はなく、有罪=懲役刑ということになります。
不正が明らかになった場合、社会的信用の失墜も避けられません。コロナ禍にみんなが耐えているさ中、公のお金をせしめたとなれば、「火事場泥棒」のそしりを免れないでしょう。その後の事業や人生に、大きな影を落とすことになるかもしれないのです。
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まとめ
申請が易しい持続化給付金は、不正受給のハードルも低いという現実があります。しかし、国もその問題を把握しており、申請や受給後の調査は厳格です。騙す意図がなかったとしても、結果的に「不正」になれば、ペナルティを課せられる可能性があります。「ダメ元で申請してみよう」というような、安易な姿勢は危険。不正に手を出すことなく、困ったことがあれば税理士、社労士などの専門家に相談しましょう。
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