フリーランスが報酬未払いに遭わないために行うべき対策方法

[取材/文責]矢萩あき

事業規模の小さいフリーランスにとって報酬をしっかりと回収することは非常に重要で、未払いは一件でも事業の継続を危ぶむ事態をまねきます。フリーランスが報酬未払いに遭わないためには、どうすべきでしょうか?フリーランスが報酬未払い回避のために行うべき対策方法をご説明します。

フリーランスの多くが報酬未払いで泣き寝入り

7割のフリーランスが報酬未払いを経験

政府は少子高齢化による労働人口の減少に備え、一億総活躍社会の実現を目指して働き方改革を推進しています。多様な働き方を認める社会の形成も働き方改革の一環として推し進められており、日本では諸外国に比べて起業する人が少ないことから、起業しやすい環境の整備も課題となっています。起業へとつながるフリーランスも、このような背景を基に増えつつある働き方の一つです。内閣府が2019年7月にまとめた「日本のフリーランスについて」においては、フリーランスとして働く人の数は306~341万人程度と推計されています。本業としている人数は158~228万人、副業としている人の数は106~163万人です。

 

フリーランスは労働者を雇用せずに事業者本人が行う仕事について報酬を得る働き方であることから、事業規模は小さいことが一般的です。立場も弱く、また一件一件の仕事も小口なものが大半であるため軽視されやすく、報酬未払いに遭遇することも少なくありません。厚生労働省はフリーランスをはじめとする不安定な働き方をしている人の問題を検討するため2018年10月から雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会を開催していますが、2020年2月に開催された第19回検討会資料では、フリーランスのプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が2019年に行った「未払い報酬に関するアンケート」から7割近いフリーランスが報酬未払いの経験があるとの回答があったというデータが示されています。

泣き寝入りを避けるためには自己防衛が肝心

「未払い報酬に関するアンケート調査」では、報酬未払いに遭遇したフリーランスの多くが泣き寝入りをしたという実態も明らかにされています。「これまで、報酬未払いが起きた際にどのようなアクションを起こしましたか?」との問いに対してもっとも多かった回答は「泣き寝入りをした」というものでした。泣き寝入りをした理由には「勝てる見込みがないと感じたから」や「どうすれば良いかわからなかったから」、「弁護士費用が負担に感じた」、「心証が悪くなりそうだから」、訴訟の拘束時間が受け入れられなかった」と回答しています。

 

泣き寝入りは、フリーランスの立場を弱め、報酬未払いを増やす危険があります。報酬未払いを減少に導くには、フリーランスだから、少額だからと諦めずに、仕事に対する報酬支払はしっかりと受けるという強い意志を持つ必要があります。また当事者間で解決できない場合は法的手段へ訴えて解決を図りますが、フリーランスにはトラブル回避のための努力も求められます。報酬未払いになりやすい仕事は引き受けずに断る、信頼関係を築く、書類交付を怠らないなど、必要な対策を講じて報酬未払いを事前に防ぎましょう。

報酬未払いになりやすい仕事と対策

契約内容があいまいな仕事

報酬未払いになりやすい仕事として、まず内容が不明確なまま受注に至った仕事が挙げられます。成果物と見なされるための条件、クオリティがはっきりと明示されていないと、受取拒否や何度にもわたる理不尽なやり直しが起こりやすくなります。業務発注の際にしっかりとした打ち合わせが行われていない仕事は、こういった報酬トラブルに発展する危険性が高くなります。

 

また連絡が不十分で、途中での確認が一切されていない仕事も要注意です。計画変更などの必要な連絡がされていなかったり、お互いの些細な勘違いや思い違いが修正されずに大きく異なってしまったりする場合があります。

SNSを使ってやり取りしている仕事

SNSで指示や報告といったやり取りを行っている仕事も、報酬未払いに発展しやすいです。さまざまな人とつながって情報を共有できるSNSは、仕事にも欠かせないツールになりつつあります。しかし対面する機会減少につながり、人間とのコミュニケーションだという意識が希薄になりがちだという欠点もあります。SNSだけでしか接点がない相手には、無理難題や傷つけるようなことを気軽に言ってしまう傾向が見られます。パワーハラスメントやモラルハラスメントが起こりやすく、報酬トラブルへと発展する危険があります。

 

またSNSには、削除や改ざんができるという欠点もあります。仕事に関しても条件や内容、指示も後から、都合の悪い点を削除したり勝手に変更したりすることが可能です。手が加えられたこともわかりにくく、報酬トラブルの温床となる危険があるので注意が必要です。

報酬未払い回避のためにフリーランスができること

着手前に契約書を交わす

フリーランスが報酬未払いに遭遇しないために、契約書は重要です。仕事に着手する前には、きちんと契約書を取り交わしましょう。仕事内容、納期、報酬のほかに、必要に応じて免責事項や契約破棄の場合の違約金についても、しっかりと明記されていると安心です。報酬未払いだけでなくその他のトラブル回避にもつながるので、事前の契約書交付は必ず行いましょう。

完了後は請求書を発行する

仕事完了の際には、請求書を発行しましょう。一件一件の仕事の重みは、事業規模によって大きく異なります。フリーランスにとっては規模の大きな仕事も、発注元にとっては小さなものであることが考えられます。細かい進捗状況の把握は行わず、完了して納品を受けたことに気づいていない、または失念しているケースも考えられます。請求書を発行することでフリーランスが仕事を完遂し、成果物納品を済ませたことの通知ができます。

支払われないときは法的手段に訴える

請求書に記載した期限を過ぎても報酬が支払われない場合は、相当の手段で対抗します。最初に行う対抗手段は内容証明の送付です。内容証明は送付する郵便物の内容について、郵便局の証明が受けられるサービスです。未払いになっている報酬について請求を行ったという事実証明のために送付し、訴訟になった場合の備えとすることができます。泣き寝入りをしないという態度を示す効果もあり、内容証明の送付だけで解決に至る可能性も期待できます。一般書留での送付になるので書留料金を含めた郵送代と、440円(2枚目以降は260円)の加算料金がかかります。書留料金郵便局窓口での手続きのほか、インターネットを使った電子証明サービス(e内容証明)で送付が可能です。

 

フリーランスが法定労働時間によって未払い報酬の支払を求める際は、少額訴訟での係争が適しています。少額訴訟は60万円までの金銭支払を訴え出る場合に起こすことができる、審理が1回に限られている点を特徴とする訴訟です。簡易裁判所への訴え出から完結まで、弁護士に依頼しなくてもフリーランス一人で行うことが可能です。かかる費用は未払い報酬の金額に応じた1,000~6,000円の印紙代、訴状送付に用いられる切手代程度と低く抑えられます。

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まとめ

フリーランスにとって報酬未払いは身近で、深刻な問題です。健全な事業活動のためには報酬未払いに遭わないよう、しっかりと自衛する必要があります。報酬未払いになりやすい仕事は避け、契約書締結や請求書発行などの手間は惜しまないようにしましょう。

複数の企業で給与計算などの業務を担当したことから社会保険や所得税などの仕組みに興味を持ち、結婚後に社会保険労務士資格とファイナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。現在はライターとして専門知識を活かした記事をはじめ、幅広い分野でさまざまな文章作成を行う。

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