令和4年度における連結納税制度の廃止とグループ通算制度への移行
グループ企業では、関係する企業を連結して業績を計算し、税金を納付しています。これを連結納税制度といます。しかし、2022(令和4)年度から連結納税制度を廃止し、グループ通算制度へ移行します。
そこで、ここではグループ通算制度について解説します。
連結納税制度とグループ通算制度
連結納税制度とは、親会社と子会社、孫会社など100%の株式を親会社などが所有している会社の所得を一定の調整後に連結し、連結決算と連結納税を親会社が行う制度です。
子会社や孫会社は連帯納付責任を負い、個別の会社の状況を記載した書類を税務署に提出します。海外では、長い歴史がある連結納税制度ですが、日本では、平成14年から導入されました。
そもそも連結納税制度の導入は、当時、子会社を使った粉飾決算が多発し、問題になっていたという背景があります。子会社を使った粉飾決算ができないように、会社の監査充実を目的としています。
連結納税制度では、グループ全体の利益が見えやすいというメリットはありますが、事務負担が大きい、グループ経営の多様化に対応しきれないとの問題も出てきました。そこで、連結納税・連結申告をやめて、単体申告にする見直しが行われます。それが「グループ通算制度」です。
グループ通算制度では、各法人が個別に法人税額の計算や申告を行い、その中で損益通算等の調整を行います。各法人が個別に法人税額の計算や申告を行うため、修正申告などがあっても原則、他のグループ会社に影響を与えません。
グループ通算制度は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。今後、制度の改正などが行われる可能性もありますが、現時点で分かっている連結納税制度とグループ通算制度の主な違いは、次のようになります。
連結納税制度とグループ通算制度の主な違い
連結納税制度 | グループ通算制度 | |
---|---|---|
納税単位 | 連結納税を行うグループ 親会社が連結申告・連結納税 |
各法人 個別で申告・納税 |
適用方法 | 申請による選択制 | 申請による選択制 |
事業年度 | 親法人の事業年度に統一 | 親法人の事業年度に統一 |
損益通算 | 行う | 行う |
修正・更正 | グループ全体 | 原則、個別 |
青色申告 | 別の制度あり | 青色申告 |
グループ通算制度の適用を受けるためには
グループ通算制度の採用は、自グループが採用したいと思って、すぐにできるものではありません。グループ通算制度の適用を受けるための要件を満たすなど、さまざまなことを行う必要があります。
ここでは、グループ通算制度の適用を受けるためにはどうしたら良いかを見ていきましょう。
グループ通算制度の適用法人
グループ通算制度の適用を受けられる法人は、原則、親法人と完全支配関係のある子法人です。ただし、次の法人は、グループ通算制度の適用を受けられないので、注意が必要です。
①親法人としてグループ通算制度の適用ができない法人
- 清算中の法人
- 他の法人等(外国法人を除く)による完全支配関係がある法人
- 通算承認の取りやめの承認を受けた法人でその承認日の属する事業年度終了後、5事業年度終了の日(1事業年度=1年の場合)を経過していない法人
- 青色申告の承認の取消通知を受けた法人でその通知後、5事業年度終了の日(1事業年度=1年の場合)を経過していない法人
- 青色申告の取りやめの届出書を提出した法人で、その提出後1事業年度終了の日(1事業年度=1年の場合)を経過していない法人
- 投資法人、特定目的会社
- その他一定の法人(普通法人以外の法人、破産手続開始の決定を受けた法人など)
②子法人としてグループ通算制度の適用ができない法人
- 通算承認の取りやめの承認を受けた法人でその承認日の属する事業年度終了後、5事業年度終了の日(1事業年度=1年の場合)を経過していない法人
- 青色申告の承認の取消通知を受けた法人でその通知後、5事業年度終了の日(1事業年度=1年の場合)を経過していない法人
- 青色申告の取りやめの届出書を提出した法人で、その提出後1事業年度終了の日(1事業年度=1年の場合)を経過していない法人
- 投資法人、特定目的会社
- その他一定の法人(普通法人以外の法人、破産手続開始の決定を受けた法人など)
グループ通算制度の適用方法
グループ通算制度の適用は、次の手順で行います。
①税務署への申請
自社、または自グループがグループ通算制度の適用が受けられる場合は、税務署に適用したい旨の申請を行う必要があります。
具体的には、グループ通算制度の適用を受けようとする親法人の最初の事業年度開始の日の3か月前の日までに、親法人の納税地の所轄税務署に承認申請書を提出します。承認申請書は、親法人、子法人の全ての連名が必要です。
②国税庁長官の承認
グループ通算制度の適用は、国税庁長官の承認を受ける必要があります。グループ通算制度の適用を受けようとする最初の事業年度開始の日の前日までに、その申請についての通算承認又は却下の処分がなかったとき、つまり何の連絡もなかったときは、承認がされたとみなされるので、いよいよグループ通算制度での申告となります。
グループ通算制度の申告と税金
グループ通算制度の適用が承認されたら、次は法人税の申告や納付となります。ここでは、グループ通算制度の申告と税金について見ていきます。
グループ通算制度の申告・納付方法
連結納税制度では、親法人が連結申告と連結納税をおこないます。一方、グループ通算制度では、各法人を納税単位として、それぞれの法人が、個別に法人税額の計算及び申告を行います(個別申告方式)。
通常の単独法人の申告・納税とグループ通算制度の違いは、連帯納付の責任があるかどうかです。通常の単独法人の申告・納税では、他の法人に連帯納付の責任はありません。
一方、グループ通算制度の場合は、他の法人に連帯納付の責任があります。もし、グループのひとつの法人が税金の納付ができない場合は、グループの他の法人がその分の税金の納付をする必要があります。
グループ通算制度は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されますが、連結確定申告書の提出期限の延長特例及び延長期間の指定の規定の適用を受けている場合には、その期間、連結納税制度が適用できる経過措置もあります。
所得金額及び法人税額の計算の概要
グループ通算制度では、各法人が個別に法人税額の計算や申告を行い、その中で損益通算等の調整を行います。
例えば、グループ内の一つの法人に欠損金(または繰越欠損金)があった場合、その欠損金は、グループ内の他の法人に分配して損金に計上することができます。欠損金の配分は、各法人の所得金額に応じて配分します。
このように、グループ内で一定の調整を行いながら、各法人の課税所得や納税額を計算していきます。
また、グループ内の法人の税率は、親法人ではなく、各法人の区分により決まります。例えば、各法人が普通法人なら普通法人の税率を、協同組合等なら協同組合等の税率を使用します。また、普通法人の場合は中小法人、大法人などの区分を行い、それぞれの税率によって、税額を計算します。
まとめ
グループ通算制度は、各法人が個別に法人税額の計算や申告を行い、その中で損益通算等の調整を行うことで、事務負担の軽減やグループ経営の多様化に対応しやすくしようとする制度です。法人の個別の経営成績が分かりやすくなるので、グループ内の法人だけでなく、利害関係者にも配慮された制度となっています。
今回は、グループ通算制度の概要部分を確認しましたが、詳細な部分については、複雑になっているところもあります。また、この制度は令和4年4月1日以後に開始する事業年度からの適用であるため、今後、制度の修正などがある可能性も否定できません。
グループ通算制度の導入は、大きな改正です。今後、法改正があった場合などは、注視していく必要があるでしょう。
▼参照サイト
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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