事業するなら個人、法人どちらが有利?税金をシミュレーションしてみよう
開業を考えたとき、最初に「事業をするなら、個人と法人どちらにした方がよいか?」気になる人も多いでしょう。事業するなら個人か法人かを決めるうえで決め手となるのが、それぞれで開業した場合のメリットやデメリット、税金です。ここでは、個人で事業する場合と法人で事業する場合を徹底比較します。
個人事業主と法人のメリット・デメリット
個人事業主のメリット・デメリット
事業を個人事業主、法人どちらで行うかを考えるときには、それぞれの特徴を把握する必要があります。ここでは、個人事業主のメリット・デメリットを見ていきましょう。
(1)メリット
・開業にかかるコストが少ない
個人事業主は、自分が開業しようと思ったら開業です。資本金を用意したり、法務局で登記したりする必要がありません。一方、法人では設立登記の費用だけで20万円~30万円程度かかります。個人事業主はそのコストが不要なため、比較的安く開業することができます。
・事務負担が少ない
取引先に対する、請求書発行や入出金の確認などの営業に関する事務負担は、個人事業主も法人も変わりません。ただし、税務申告の負担や役員変更(法人のみ必要)の負担など、経理面でも個人事業主の方がかなり負担が少なくなります。
・社会保険への加入が不要
個人事業主の場合は常時働く従業員が5人以上でないと社会保険に加入する必要はありませんが、法人は社長1人でも強制的に加入する必要があります。
(2)デメリット
・利益(所得)が大きくなると、税金がかなり高くなる
個人は、利益(所得)が大きくなればなるほど税率が高くなる累進課税制度です。一方、法人は、税率がある程度一定のため、利益(所得)が大きくなると個人事業主の方が税金が高くなる場合があります。
・自分や家族への給料を経費にできない
個人事業主の場合、届け出をだして認められた青色専従者以外の家族への給料は、経費として認められません。
法人のメリット・デメリット
では、法人のメリット・デメリットを見ていきましょう。
(1)メリット
・対外的な信頼がある
法人と個人事業主でどちらが対外的な信頼があるかといえば、法人です。それは、会社の設立に資本金を用意するだけの資金力があるとみなされるからです。そのため、金融機関の融資も、法人のほうが受けられやすい傾向にあります。
・節税ができる
法人は、税率がおおよそ30%程度なのに対し、個人事業主は最高45%の税率です。そのため、法人の方が節税になる場合があります。
・自分や家族への給料が経費になる
法人の場合は、個人事業主のような制限はなく、会社の仕事をしていれば普通に給料が経費になります。
・欠損金の繰越期間が長い
赤字がでれば翌年に繰り越せるのは個人事業主(青色申告者)、法人ともに同じですが、個人事業主が繰越期間3年なのに対し、法人は9年(平成30年4月1日以後に開始する事業年度においては10年)繰り越すことができます。
(2)デメリット
・開業のコストがかかる
法人は定款の作成や法務局への設立登記、資本金の用意など多くの開業コストがかかります。
・事務負担が多い
法人の場合は税務申告や役員変更などの事務負担が多くかかります。
・社会保険の加入が必要
法人は社長1人でも強制的に社会保険に加入する必要があるため、その分コストが多くかかります。
税金シミュレーションの前に家族への給料を決めよう
法人では自分や家族の給料は経費になる
法人と個人事業主では税率が異なります。一般的に利益が大きいのであれば法人にした方が良いといいますが、どれぐらいの利益なら法人、または個人事業主がよいかはシミュレーションをする必要があります。ここで大事になるのが、自分や家族への給料です。法人の場合は、自分や家族の給料は経費にできますが、その給料には当然、所得税や社会保険料がかかります。そのため、法人と個人事業主の税金シミュレーションをする前に、自分や家族の給料をいくらにするかを決める必要があります。
自分や家族の給料は経費になるが、社会保険や税金がかかる
法人の場合、自分や家族の給料は経費にできますが、その給料には当然、所得税や住民税、社会保険料がかかります。では、どれだけの税金や社会保険料がかかるのかを確認しましょう。所得税や住民税の税率や社会保険料の料率は以下のとおりです。
<自分や家族(役員)の給料の税金や社会保険>(2017年11月現在)
種別 | 税(料)率 |
---|---|
所得税 | 所得に応じ5~45% |
住民税 | 10%+均等割5,000円 |
健康保険料 | 協会けんぽの場合(東京都) 39歳まで9.91% 40~64歳まで11.56% |
厚生年金保険料 | 18.3% |
※所得税の税率の詳細は、以下の国税庁のHPをご参照ください。
●所得税の速算表
http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
※健康保険や厚生年金は、その会社によって保険料率が異なりますが、一般的に会社を設立した場合には全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入します。協会けんぽでは都道府県ごとで社会保険の金額が異なります。都道府県ごとの保険料額表は、下記HPからご参照ください。
●平成29年度保険料額表
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat330/sb3150/h29/h29ryougakuhyou9gatukara
では、400万円を自分(社長)の給料にした場合はどうなるでしょうか。
実は給与には給与所得控除があり、その控除額を引いたものが給与所得になります。
<給与所得控除額(平成29年分)>
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) |
給与所得控除額 | |
---|---|---|
1,800,000円以下 | 収入金額×40% 650,000円に満たない場合には650,000円 |
|
1,800,000円超 | 3,600,000円以下 | 収入金額×30%+180,000円 |
3,600,000円超 | 6,600,000円以下 | 収入金額×20%+540,000円 |
6,600,000円超 | 10,000,000円以下 | 収入金額×10%+1,200,000円 |
10,000,000円超 | 2,200,000円(上限) |
社長の給料400万円の場合の給与所得控除額は、400万円×20%+540,000=1,340,000円、給与所得は400万円-1,340,000円=2,660,000円です。
ここに所得税や住民税がかかります。社会保険料は収入の400万円にかかります。
・所得税 2,660,000円×10%-97,500円=168,500円
・住民税 2,660,000円×10%+5,000円=271,000円
・健康保険料 400万円×9.91%=396,400円
・厚生年金保険料 400万円×18.3%=732,000円
合計 1,567,900円
※あくまで目安です。社会保険料は給料の月額や賞与の金額などによって負担額が異なります。
個人事業主と法人 税金シミュレーション
個人事業主の税金シミュレーション
ここからは、個人事業主と法人との税金シミュレーションを見ていきます。
まずは個人事業主の場合です。利益が500万円の場合、税金等はどうなるでしょうか。
わかりやすいように、所得控除は0円、40歳未満、独身とします。
・所得税 500万円×20%-427,500円=572,500円
・住民税 500万円×10%+5,000円=505,000円
・国民健康保険料 約60万円程度 (自治体によって異なる)
・国民年金 16,490円×12か月=197,880円
合計 1,875,380円
法人の税金シミュレーション
次に法人です。500万円の利益のうち、400万円を社長の給料に、残り100万円を法人の所得としたと仮定します。
税率は、開始事業年度や、資本金、各自治体によって異なります。
たとえば、
・開始事業年度 平成28年4月1日~平成30年3月31日
・資本金1億円超
・東京都
の場合の税率は以下のようになります。
法人税 | 23.4% | ||
---|---|---|---|
地方法人税 | 1.0296% | ||
法人事業税 | 付加価値割 | 1.2% | |
資本割 | 0.5% | ||
所得割 | 年400万円以下 | 0.3% | |
年400万円超 800万円以下 |
0.5% | ||
年800万円超 | 0.7% | ||
地方法人特別税 | 2.89940% | ||
法人住民税 | 3.0186% | ||
実効税率 | 29.97% |
※超過税率を除く
税金の目安を計算する場合は、実効税率を使って計算するのが一般的です。
法人税、法人地方税等 100万円×29.97%=299,700円
社長の給料400万円の場合の税金等は上述した通り、合計1,567,900円。法人の税金、社長の税金等を合わせた負担額は299,700円+1,567,900円=1,867,600円です。
まとめ
今回は個人事業主と法人のメリット・デメリットや、税金シミュレーションについて解説しました。税金のシミュレーションをする場合は、税金のことだけでなく、社長の給料や社会保険料のことまで考えて行う必要があり、自分で行うのは難しいでしょう。個人事業主と法人どちらで開業するか迷う場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。
参考文献・URL
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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