固定資産計上から廃棄まで-減価償却以外の仕訳のまとめ-
固定資産管理のサイトにおいて、メインとなるのは減価償却についての解説です。
もちろん減価償却の考え方は経理担当としておさえておくべきですが、それ以外にも固定資産を取得した場合にはその廃棄までには判断を求められるときは各所にあります。
ここでは減価償却以外の固定資産に関する仕訳を一気に紹介します。
固定資産を取得してから廃棄するまでに起こること
会社の固定資産に係る仕訳とは?
取得した固定資産に起こるイベントについて、次のようにまとめました。
イベント | 内容 | 備考 | |
---|---|---|---|
1 | 取 得 | 固定資産を取得した場合 | 費用か資産か、新品か中古か |
購入か自家建設か | |||
資産除去債務はあるか | |||
固定資産税を支払って取得したとき | |||
2 | 償 却 | 償却方法を変更など | 変更することができる場合とは |
3 | 修 繕 | メンテナンスをする場合 | 修繕費となるか、新規資産となるか |
修繕引当金がある場合 | 修繕引当金の考え方とは | ||
4 | 廃 棄 | 除却したのち破棄する場合 | 有姿除却とは |
売却する場合 | 売却のときの仕訳 |
まず前提条件として、ある資産を取得し、それが費用となるのか固定資産となるのか、耐用年数は何年かなどという情報が確定しているとします。すなわち、管理する固定資産として次のような管理項目が決まっているとします。
- 管理番号:企業内でその固定資産を管理するための番号
- 資産名:その資産の名称(他の資産と区別でき、ある程度詳しいほうがよい)
- 資産区分:資産種類、細目等いろいろな資産の分類方法があります
- 勘定科目:貸借対照表に表示される勘定科目
- 取得年月日:その資産を事業の用に供した(使い始めた)日と区別することが多いです
- 取得価額:その資産の取得に要した原価で、購入価格等に付随費用を加えた合計金額
- 個数:資産は原則1つずつ登録し、1台、1機等単位を付すことがあります
- 設置場所:償却資産税(地方税)はその資産の設置場所の市区町村で課税されます
- 償却方法:法定償却方法のほか、届出書や申請書により他の償却方法を選択できます
- 償却率:償却方法と耐用年数により決定されます
- 耐用年数:その資産の使用可能期間のことで、法定耐用年数とは財務省が定めた資産ごとの耐用年数です
なお、当記事の仕訳においては煩雑になるのを避けるため消費税は考慮していません。
固定資産の取得から廃棄までの仕訳解説
固定資産を取得した場合の仕訳
では、固定資産の取得における仕訳から見ていきましょう。
付随費用のある場合(固定資産税支払って取得)
固定資産は、原則、その資産の購入代価とその資産を事業の用に供するために直接要した費用が含まれます。しかし、節税の観点からは取得価額に含めなくてよい費用については取得時の費用とします。
また、中古の建物などで売り手側に支払った固定資産税相当額(月割り額)などは、納税ではないため付随費用となります。
仕訳例①)建物取得時
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
建 物 | 905万円 | 未払金 | 935万円 | 売り手への固定資産税相当額含む |
支払手数料 | 30万円 | 調査費、設計費等 |
自家建設の場合
固定資産を自家建設した場合には、原価計算に基づいてその資産の製造原価を計算した上、取得原価を計上します。その資産の完成までに要した材料費・労務費・経費を求め取得原価とします。建設の途中で決算になった場合には、「建設仮勘定」などで処理します。
自家建設の場合は、先に、発生した時点でそれぞれ材料仕入、労務費、経費などの起票をしておきます。
仕訳例②)建物完成時における振替
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
建 物 |
905万円 |
材料仕入 | 200万円 | 仕入れた材料のうち、自家建設のための消費分 |
労務費 | 600万円 | かかった労務費のうち、自家建設のための消費分 | ||
経費 | 105万円 | かかった経費のうち、自家建設のための消費分 |
資産除去債務のある場合
資産除去債務とは「取得した固定資産の廃棄や原状回復をするときに経費が必要になることが予め分かるときは、その資産を購入した時点などに将来の費用として計上」するものです。土地を改良したり建物を解体したりする際に、法令上の義務が生じたり契約上の決まりがあったりするときは負債として計上します。なお資産除去債務は見積りができない場合には計上できません。
仕訳例③)取得した建物について、購入時点での撤去費用が100万円と見積もられた場合
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
建 物 | 905万円 | 未払金 | 805万円 | 資産除去債務以外の取得原価 |
資産除去債務 | 100万円 | 購入時点での撤去費用見積り額 |
固定資産を償却する場合の仕訳
固定資産の償却方法の変更については次のとおりです。
償却方法を変更した場合
償却方法の変更は会計方針の変更になります。したがって、固定資産の減価償却方法の変更にあたっては、会計方針の変更として正当な理由があるかどうかを判断する必要があります。
正当な理由とは、経営環境の変化に対応するためや変更による償却によったほうがより期間損益計算を適正にできる場合などです。
また償却方法の変更については、税務署に「減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」を提出なければなりません。変更しようとする償却の方法によっては承認されないこともあります。
当期から償却方法が変わった場合でも、減価償却額に変化がありますが、仕訳そのものは通常どおりです。
固定資産を修繕した場合の仕訳
固定資産の修繕については、まずその修繕が既存資産の修繕であるのか、新たな資産の取得であるのかを見分けなければなりません。修繕費にすると節税に結びつきますが、まず「資産のメンテナンス費用や復旧費用なのか」または「資産の価値を高めたり、耐用年数を延長したりするものなのか」という点から考えます。前者であれば修繕費とできますが、後者のように資産的価値が高まる場合には新資産の取得となります。
メンテナンスによって資産価値があがった部分がある場合
仕訳例④)メンテナンスした建物についての仕訳
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
建 物 | 25万円 | 未払金 | 30万円 |
入口ドアを自動ドアにした費用 |
修繕費 | 5万円 | 割れた窓ガラスを入れ替えした費用 |
修繕引当金がある場合
仕訳例⑤)メンテナンスした建物について修繕引当金が15万円あった場合の仕訳
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
建 物 | 25万円 | 未払金 | 30万円 | 資産価値が上がり、新資産とする部分には引当金を使用しない |
修繕引当金 | 5万円 | 修繕部分は引当金を取り崩す |
固定資産を廃棄した場合の仕訳
固定資産については廃棄にあたって、引取費用や廃棄費用がかかる場合があります。
このとき費用面で問題のある場合には、有姿除却(ゆうしじょきゃく)といって、資産の姿はあるけれども除却損を計上できるという方法があります。有姿除却ができるのは、将来的にもう使わず廃棄処分する場合のみであり、再度使う可能性があるものの有姿除却はできません。
有姿除却した場合
仕訳例⑥)建物の有姿除却をした場合の仕訳(除却時の建物の残存簿価を100万円とする)
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
固定資産除却損 | 100万円 | 建 物 | 100万円 | 建物を有姿除却する |
固定資産を売却した場合
仕訳例⑦)残存簿価100万円の建物を40万円で売却した時の仕訳
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
未入金 | 40万円 | 建 物 | 100万円 | 建物を売却し、40万円取得予定 |
固定資産売却損 | 60万円 | 固定資産売却損は特別損失となる |
固定資産管理における注意点
固定資産の管理に必要な実地棚卸
棚卸資産だけでなく、固定資産の管理についても「固定資産の棚卸」は重要です。
棚卸資産同様、固定資産管理台帳に登録されている資産が実際にあるかどうか、適切に利用されているかを設置現場にて確認する作業を実地棚卸といいます。決算の前には、1つ1つの固定資産について現物と照合し、固定資産管理台帳を更新しておきます。
よくある管理方法としては、固定資産の取得時に現物に「管理ラベル」を貼付しておき、管理番号や取得日等を表示しておきます。
管理ラベルの目的は、固定資産と費用購入した資産の区別をすることと、現場の固定資産と管理する側の固定資産の紐づけをすることです。実際の固定資産の実地棚卸にあたっては、固定資産のシステムから固定資産台帳を出力し、設置場所の現場担当者に確認を依頼することになると思います。
固定資産台帳は、会計帳簿の一つとして7年間の保存が義務付けられるものですが、会計システムの機能の1つとして資産台帳機能を利用する方法以外に、固定資産管理専用ソフトを利用する方法があります。固定資産管理専用ソフトを利用すると、バーコードやICタグなどで管理するしくみが備わっているものもあり、決算前の固定資産の実地棚卸が早くできるというメリットがあります。
また、多目的に利用する固定資産などでは、減価償却費をどの業務に配分するかという「配賦」についても専用ソフトに充実しているものが多いです。そのため、資産の数が増えてきたら固定資産管理専用ソフトの利用が作業の効率化につながります。
まとめ
固定資産として一旦登録すると、廃棄するまで社内の管理を盤石なものにしておく必要があります。減価償却期間が過ぎても、有形固定資産の場合は簿価1円として除却するまで残るため、その場合でも実地棚卸での確認作業は続きます。最近では、一定期間のみの利用であれば固定資産をレンタルなどの方法で活用するケースも増えてきているようです。資産の買い換え時などには、管理面も含めて購入の他にレンタルやリースなどを検討してみましょう。
▼参考URL
大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。
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