共有名義の不動産を売却する方法と売却に対する税金について

[取材/文責]長谷川よう

不動産は、ひとつの物件を一人が所有しているとは限らず、複数の人でひとつの物件を所有していることも多いです。複数の人が名義人となっている共有名義の不動産は、単独名義の不動産に比べ、売却が難しいといわれています。
そこで、ここでは共有名義の不動産を売却する方法と、売却に対する税金について詳しく解説します。

共有名義不動産とは何か

まず、共有名義不動産とはどのようなものか見ていきましょう。

 

現金や車など、個人が持っている資産の多くは、一人が単独で所有しています。しかし、不動産においては、ひとつの土地や建物を複数の人で所有しているケースも少なからずあります。複数の人が所有している不動産のことを、共有名義不動産といいます。

 

不動産は、登記簿に所有者の名前が記載されています。共有名義不動産の登記簿には、共有者全員の名前が記載されています。

 

不動産を誰がどれだけ所有しているのかは「持分」として表示されます。持分とは権利のことです。例えば、兄弟で半分ずつ、不動産を所有する権利を持っている場合は、それぞれ1/2ずつの持分となります。

 

では、なぜ共有名義の不動産が存在するのでしょうか。不動産が共有名義になる原因のひとつが、相続です。相続では、遺族間で亡くなった人の財産を分割します。現金や預金などの財産であれば、簡単に分割できますが、不動産は分割して相続することができません。そのため、共有名義不動産として所有する権利を分割し、相続することになります。

共有名義の不動産を売却する方法

単独所有の不動産の場合は、自分が売却したいと思えば、自分ひとりの意思で、売却を進めることができます。しかし、共有名義の不動産を売却する場合には、自分ひとりの意思では、売却が進められないこともあります。

 

そこで、ここでは共有名義の不動産を売却する方法について見ていきましょう。

自分の持分のみ売却する方法

実は、持分は売却ができます。つまり、自分の所有する権利のみを第三者に売ることができるのです。不動産そのもの全部を売却するわけではないので、他の所有者へ売却してよいかどうかの確認をとる必要ありません。

 

共有名義の不動産の場合、第三者に売却したくないと考える共有者がいてもおかしくありません。自分の持分のみ売却する方法の場合、売却時に他の所有者の許可がいらないため、他の共有者とトラブルにならずに売却ができるメリットがあります。

 

しかし、共有名義不動産の一部だけを購入したいという人は少なく需要が低いため、売却価格は相場よりも低くなる可能性が高くなるデメリットがあります。

共有名義不動産すべてを売却する方法

不動産の売却で最も一般的なのが、不動産すべてを売却する方法です。共有名義不動産であっても、それは同じです。共有不動産をすべて売却し、得た売却代金は共有者全員で分割することになりますが、その際には、持分に応じて売却代金を分割します。

 

例えば、兄の持ち分が2/3、弟の持ち分が1/3である共有不動産が3,000万円で売却された場合、兄は売却代金のうち、3,000万円×2/3=2,000万円を、弟は3,000万円×1/3=1,000万円を受け取ることになります。自分の持分のみを売却する場合と違い、不動産を丸ごと売却できるため、需要も高く、売却価格も高くなるメリットがあります。

 

ただし、共有名義不動産すべてを売却する場合には、共有者すべての同意が必要です。一人でも反対者がいれば売却できないデメリットがあります。

分筆して売却する方法

共有している不動産が土地のみの場合は、分筆して売却することが可能です。分筆とは、登記簿上で、1つの土地を2つ以上の土地に分けることをいいます。つまり、共有名義の土地を所有者一人ひとりの単独所有の土地に分け、それぞれ新たな地番が付けられます。分筆した土地は所有者の単独所有の不動産となるため、自由に売却できるメリットがあります。

 

ただし、土地を分筆するためには、土地を測量し、土地の境界線を確定させて境界標を設置したり、分筆するための登記を行ったりと、多くの手続きをするための時間と費用がかかるデメリットがあります。

共有名義不動産を売却したら、確定申告と納税が必要

共有名義不動産であっても、自分の持分のみ売却する方法など、さまざまな方法で売却することが可能です。ただし、共有名義不動産を売却し、売却益が出たら、税金を納める必要があります。

 

そこで、ここからは共有名義不動産を売却した後の税金の処理について見ていきましょう。

共有名義不動産の売却にかかる税金とは

共有名義の不動産を売却して売却益が出た場合は、売却益に対して、所得税など税金が課されます。不動産を売却した場合の所得を譲渡所得といいます。譲渡所得は、次の計算式で求めます。

 

譲渡所得金額=収入金額 - (取得費+譲渡費用) -特別控除額

取得費とは、不動産の購入費や登記費用などの購入時にかかった費用のことです。
譲渡費用とは、仲介手数料など売却時にかかった費用のことです。
特別控除額は、マイホームを売却したときの3,000万円控除など、一定の要件を満たしたときに受けられる控除のことです。

 

例えば、購入価格2,800万円の土地を5,000万円で売却し、取得費と譲渡費用はがそれぞれ100万円ずつかかった場合、譲渡所得金額は、次のようになります。

 

譲渡所得金額=収入金額5,000万円 - (購入価格2,800万円+取得費100万円+譲渡費用100万円) =2,000万円

 

この2,000万円に税率を乗じて、納める税金の金額を計算します。

 

では、税率はいくらになるのでしょうか。実は、不動産の譲渡所得に対する税率は、売却した不動産を何年所有していたかによって異なります。譲渡した年の1月1日現在で所有期間が5年以下の場合は、短期譲渡所得に、5年超の場合は長期譲渡所得になります。
それぞれの税率は、次のようになります。

 

  • 短期譲渡所得
    所得税率30%、特別復興所得税率0.63%、住民税9% 合計39.63%
  • 長期譲渡所得
    所得税率15%、特別復興所得税率0.315%、住民税5% 合計20.315%

 

上述した例の不動産の所有期間が5年だった場合、納める税金は次のようになります。

 

  • 所有期間が5年のため、短期譲渡所得に該当する。
    税金の納付額=譲渡所得金額2,000万円×税率39.63%=792.6万円

共有名義不動産の売却における確定申告の注意点

共有名義の不動産を売却した場合は、確定申告が必要です。確定申告を行う際の注意点には、次のようなものがあります。

 

  • ①分離課税用の申告書を使用する
    個人の所得には、サラリーマンの給与所得や個人事業主の事業所得など、さまざまな所得があります。給与所得や事業所得は、一般的な確定申告書(第一表、第二表)を用いて確定申告を行いますが、不動産の譲渡所得については、分離課税用の申告書(第三表)も作成して、確定申告を行う必要があります。
    また、確定申告書とは別に、譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]の作成も必要です。
    不動産の譲渡所得がある場合の、確定申告に必要な書類は次のとおりです。

    • 確定申告書AまたはB
    • 確定申告書 第三表(分離課税用)
    • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]
  • ②共有者全員が、それぞれ確定申告を行う
    自分の持分のみを売却したり、分筆した後の自分の土地を売却したりする場合は、問題ありませんが、共有名義不動産すべてを売却する場合の確定申告では、注意すべき点があります。それは、共有者全員が、それぞれ確定申告を行うということです。

 

確定申告は、不動産単位ではなく、個人単位で行う必要があります。そのため、共有者全員が確定申告を行い、自分の持ち分に対する税金を支払う必要があるので、注意が必要です。

まとめ

共有名義不動産は、複数の人が所有しているひとつの不動産のことです。そのため、単独所有の不動産と比べ、売却方法は複雑です。

 

また、共有名義不動産すべてを売却する場合は、共有者全員がそれぞれ確定申告を行う必要があります。共有名義の不動産を売却した場合は、正しく確定申告を行いましょう。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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