どこまで許される?企業会計原則における重要性の原則
決算書がほぼ確定したかと思われるときに「金額が間違っていた」「勘定科目が適切でない」などの訂正が発生することがあります。修正伝票をすぐに起票できる状況にあれば修正すべきですが、締め処理や決裁などで修正に手続きがかかる場合もあります。
このような場合の「重要性の原則」の適用のしかたについて、この記事では解説します。
中小企業でも適用?重要性の原則とは
企業会計原則の中の「重要性の原則」
重要性の原則とは、会計において重要性が乏しいものは簡便な会計処理方法を認める原則です。この原則は、企業会計原則の注解において定められたもので、企業会計原則の中で基本となる一般原則として掲げられているものではありません。しかし、一般原則に準ずる重要な原則とされます。
企業会計原則とは、昭和24年に現在の金融庁にあたる企業会計制度対策調査会が初めて制定した会計基準です。商法などの改正とともに昭和57年に修正されるまで「公正なる会計慣行の規定」として企業会計のよりどころとなってきました。その後は、「リース取引」や「減損」などのトピックごとに作る会計基準にそれぞれ従うことになりました。
新たな会計基準と企業会計原則が矛盾する場合には、新たな基準を優先することとなっていますが、企業会計の基盤としての企業会計原則は今もなお健在です。
平成31年2月に公表された「中小企業の会計に関する指針」は、中小企業が財務諸表などの計算書類を作成する際に、採用することが望ましい処理や注記等をまとめたものです。この指針にも、「重要性の原則は、本指針のすべての項目に適用される」と示されるように、大企業ばかりでなく、中小企業においても「重要性の原則」による会計処理が認められています。
さらに、中小企業関係者等が主体となって設置された「中小企業の会計に関する検討会」で定められた「中小企業の会計に関する基本要領」においても重要性の原則は認められています。
このように、金額的、項目的に重要性の乏しい取引についてまで、常に厳密な取り扱いを求めるものではないというのが「重要性の原則」であり、企業規模を問わず重要性の原則は適用されているのです。
重要性の原則の内容とは?
重要性の原則について、企業会計原則では次のように記述されています。
企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。
重要性の原則は、財務諸表の表示に関しても適用される。
正規の簿記の原則とは、企業会計原則の一般原則の一つで、「正確な会計帳簿の作成」と、「その正確な会計帳簿をもとに財務諸表を作成すること」との二つを求める原則のことです。
正規の簿記の原則にしたがった結果、決算処理にあたって軽微な間違いなどを「重要性の乏しいもの」として訂正せずに済ますということは現実的には多いと思います。このように重要性の原則とは、正確性を求める会計処理の中で実務寄りの柔軟なルールでもあるのです。
「簡便な方法によることも認められる」重要性の原則ですが、どこまで簡便な方法が許されるのかが気になるところです。実際のところどうなっているのかを、引き続き解説していきます。
重要性の原則の具体例とは?許容範囲は?
現実的には、どこまで簡便な方法が許されるかは具体的に数値にまで落とされたルールはありません。
一般に、重要性の原則には「質的な重要性」と「量的な重要性」があると言われます。質的重要性とは、金額の大小に関係なく、その取引が業務上重要であるか否かという点を重視する基準です。使用される「勘定科目」が事業の状況を示す上で影響度が大きいものは重要度大と判断します。質的重要性で判断するものの代表としては、現金や預金があります。
現金や預金については、質的重要性という観点から重要性の原則は適用されず、厳格さが求められます。現金・預金以外にも厳格な処理が求められる例を挙げておきます。
- 親会社や子会社など関連当事者との取引
- 役員報酬、賞与
- M&A(合併や買収)に関する取引
また、量的重要性とは一定の金額以下となるものは簡便な処理をするという基準です。例えば、20万円未満の減価償却資産を一括償却資産として経費処理するのも重要性の原則の一例であると言えます。
重要性の原則の具体例は、企業会計原則には次のように示されています。
このように重要性の原則は、経費、経過勘定、棚卸資産など貸借対照表にも損益計算書にも広く浅く、影響があるものなのです。
重要性の原則の判断は難しい
落としどころを見つけて、継続すること
大企業における重要性の判断については、最終的には監査法人に従うことになります。
監査法人は、監査上の重要性の基準値をもっており、監査で発見した誤りが財務諸表の利用者の意思決定に重要な影響を与えるかどうかによって、修正や後発事象についての判断をします。
監査においては、「重要性の基準値」として、例えば税引前利益の5%などの基準値があっても、その時の状況により別の割合が採用される場合は多々あります。
中小企業においても、税引前利益を指標として基準値を設定することも可能ですが、毎期税引前利益が大きく変動する場合には使いづらいと言えます。例えば赤字(損失)になった場合には、利益の5%は計算できなくなりますが、重要性の判断基準は毎期必要なのです。
重要性の判定基準は相対的に安定させておくべきです。そこで、直近数年分の税引前利益の平均値とすれば安定してきます。大企業における監査の「重要性の基準値」を参考に、「税引前利益の平均値の5%」なとど考えるのは理にかなっているといえます。
結局、株主や融資元金融機関などの意思決定に大きな影響を与えない金額がいかほどなのかについて、明確な根拠を求めるのは難しいということです。
「税引前利益の±5%」よりも「税引前利益の±2%」のほうが精度の高い処理だといえますが、個々について「厳密な処理をするためのチェックや調査にかかるコスト」と「厳密な処理から得られる財務諸表の精度向上度合」を比較し、後者が明らかに大きい場合には重要性が大きいと判断すべきです。
これを繰り返し、その企業の重要性判断における原則的な金額基準値が決定され、継続的に運用され、また見直されていきます。
結局のところ重要性の判断は難しく、「費用対効果」の算定に悩むようであれば、取引を処理するほうがよいといえるでしょう。
まとめ
重要性の原則は、利害関係者の意思決定に影響しないかどうかが決め手であり、実務的なルールです。しかし、実務担当者が判断し、適用できる原則ではありません。会計処理の大前提は、「正確な会計帳簿の作成」であるので日々の処理のチェックを怠らないようにしましょう。
▼参考資料
大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。
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