個人事業主の節税方法を徹底解説〜法人化も視野に入れよう〜

[取材/文責]阿部正仁

確定申告する際に、節税が頭をよぎるという個人事業主の方も多いのではないでしょうか。賢く節税するためにも、どこにポイントをおいて考えていくべきなのかを知ることが大切です。今回は、個人事業主に課税される税金の特徴から節税方法まで徹底解説します。

個人事業主に課税される税金とは?

課税される税金は「所得金額に対する税金」と「事業活動での取引自体に対する税金」の2タイプに大別できます。そこで、個人事業主が節税できる税金の種類と節税方法のアウトラインを紹介します。

主な税金は4種類ある

個人事業主に課税される税金を上記のタイプ別に見ていきましょう。

(1)所得金額に対する税金

所得税・住民税・事業税が挙げられます。それぞれの特徴は次のとおりです。

・所得税

国税であり、税務署へ申告する税金です。税率は5~45%までの7段階に区分され、所得金額に比例するのが特徴です。

・住民税

地方税です。税率は所得金額に関係なく一律10%です。また、非課税対象者のほかは、所得金額の10%と別に均等割が一律5,000円課税されます。

・事業税

地方税ですが、課税される業種は不動産業などに限定されています。税率は業種に応じて、3%・4%・5%のいずれかです。

(2)事業活動での取引自体に対する税金

主に消費税です。上記(1)と異なり、赤字でも課税されます。特徴は消費税を払いすぎた場合、原則還付される点です。

確定申告は税務署だけで大丈夫、その意味は?

所得税と消費税の確定申告をすれば、税金の計算は完結します。地方税の住民税と事業税は、所得税の確定申告の情報をもとに自治体で計算してくれるからです。つまり、所得税と、住民税や事業税は連動していることを意味します。

税務署へ申告する所得税と消費税に絞って節税対策を施せば、自動的に住民税や事業税の節税につながります。

所得税の節税方法の基本

結論から申し上げます。課税所得金額を下げることが所得税の節税方法の基本です。しかし、闇雲にお金を負担しても、節税できるとは限りません。ポイントをきちんと押さえる必要があります。節税方法の基本について解説します。

まずは所得税の計算構造を理解しよう

「経費に落とす」などをテーマにした税金関係の書籍を本屋で見かけます。しかし、所得税の節税方法の一つに過ぎません。ほかにも方法はあります。そのことを理解するために、所得税の計算構造を見ていきましょう。具体的には次の順序で計算します。

(1)合計所得金額を計算する

事業活動による収入金額から経費と青色申告特別控除(最高65万円)を差し引いた残額です。つまり、事業活動で獲得した利益に近い金額です。

(2)課税所得金額を計算する

合計所得金額から医療費控除などの所得控除を差し引いた残額です。所得控除は生活に必要な費用をベースに計算しています。つまり、家計でいう可処分所得に近い金額です。

(3)年間の所得税を計算する

課税所得金額に税率を掛けて計算します。具体的な税率は次のとおりです。

課税所得金額 税率
195万円以下 5%
195万円超~330万円以下 10%-9万7,500円
330万円超~695万円以下 20%-42万7,500円
695万円超~900万円以下 23%-63万6,000円
900万円超~1,800万円以下 33%-153万6,000円
1,800万円超~4,000万円以下 40%-279万6,000円
4,000万円 45%-479万6,000円

(4)納付する所得税を計算する

年間の所得税から「住宅ローン控除」や「得意先から入金されるときに天引きされる源泉所得税」などを控除した残額です。予定納税額(所得税の前払い)がある場合には、その金額も差し引きます。
以上、所得税の計算構造を明らかにしました。ここからは、所得税の節税方法について「経費」「所得控除」「税率」の視点から解説します。

経費に落とす節税のメリット・デメリット

経費に落とすことについてメリットが強調される傾向にありますが、後述する所得控除と比べてデメリットもあります。

(1)メリット

青色申告の場合、収入金額から経費を差し引ききれない赤字額は、翌年以降3年間所得金額と相殺できます。これを繰越控除といいます。

たとえば、収入金額1,000万円・経費1,200万円、赤字額は「1,000万円-1,200万円=▲200万円」と仮定します。翌年の所得金額が500万円の場合、合計所得金額は「500万円-200万円=300万円」と相殺した残額です。

(2)デメリット

所得金額から差し引けるハードルが所得控除よりも高い点です。経費に落とすためには、事業と関連していることが絶対条件です。

たとえば、同業者との忘年会費用を経費に落とすためには、業務上の提携先の紹介など事業活動に役立っていることを税務署に説明できるようにする必要があります。忘年会が単に雑談の場合は事業と関連しているとはいえず、経費としてみとめられない可能性が高くなります。

このように経費に落とす節税方法のポイントは、事業と関連していることを客観的に説明できるようにすることに尽きます。

所得控除は確実に節税できるが、繰越控除はできない

扶養控除や医療費控除など所得控除は税法上の条件を満たせば、確実に合計所得金額から控除できます。経費のように事業と関連しているかどうかは問われません。

しかし、所得控除が合計所得金額から引ききれない場合、繰越控除ができません。たとえば、合計所得金額から引ききれない医療費控除3万円があると仮定します。この3万円は繰越控除ができないため、翌年以降の所得税の節税効果は得られません。

節税するために法人化を視野に入れよう

上記のとおり、課税所得金額が695万円を超えると所得税の税率は23%になります。これに住民税の税率10%をプラスすると、所得金額に対する税率は33%です。業種によっては、さらに事業税の税率3%~5%が加えられます。

一方、法人の所得金額に対する税率は約30%であり、法人税・住民税・事業税の税率の合計値です。これを実効税率といいます。

要するに、個人事業主の場合、課税所得金額が695万円を超えるとき、節税方法として法人化を検討するタイミングといえます。

消費税の節税方法は3パターンある

取引先から預かった消費税をプールする方法として「消費税の納税を免除する」「簡易課税制度を選択する」の2つあります。また、「消費税の還付を受ける」ことも検討しましょう。これら3つの節税方法について解説します。

消費税の納税を免除する

取引先から預かった消費税を全額プールできる節税方法です。条件は前々年の課税売上高が1,000万円以下であることが基本です。たとえば、年商2,000万円の個人事業主が消費税を免除する目的で、課税売上高を1,000万円以下まで落とすのは非現実的といえます。

そこで、法人成りして消費税の納税を免除する方法を検討する価値があります。具体的には、設立時に資本金1,000万円未満の会社を設立すれば、最長2年間消費税が免除されます。これは前々年度の課税売上高がない(0円)ことによります。

簡易課税制度で預かった消費税の一部をプールしよう

本来、納税すべき取引先から預かった消費税は次のように実額で計算します。これを原則課税制度といいます。
・消費税の納税額=得意先や顧客から預かった消費税-仕入先など取引先へ支払った消費税(=仕入税額控除)
ところが、簡易課税制度の場合、仕入税額控除は得意先や顧客から預かった消費税をベースに概算額を計算します。簡易課税制度は前々年の課税売上高が5,000万円以下の個人事業主に適用できる特例です。仕入税額控除の計算方法は次のとおりです。
・仕入税額控除(概算額)=得意先や顧客から預かった消費税×みなし仕入率
みなし仕入率は業種別の原価・経費率に応じて次のとおりです。

業種 みなし仕入率
卸売業 90%
小売業 80%
製造業や建設業など 70%
飲食店業 60%
サービス業など 50%
不動産業 40%

簡易課税制度により、「実額で計算した仕入税額控除<概算額で計算した仕入税額控除」になる場合、結果的に取引先から預かった消費税の一部をプールできます。
たとえば、次の古着屋の小売店が簡易課税制度を採用していると仮定します。
・課税売上高2,160万円
・得意先や顧客から預かった消費税160万円
・実額での仕入税額控除80万円
原則課税制度により納付すべき消費税を実額で計算した場合は「160万円-80万円=80万円」です。
一方、簡易課税制度により納付すべき消費税を計算すると次の金額になります。小売店なのでみなし仕入率は80%です。

・仕入税額控除の概算額:160万円×みなし仕入率80%=128万円
・納付すべき消費税:得意先や顧客から預かった消費税160万円-仕入税額控除の概算額128万円=32万円

以上から簡易課税制度を採用することで、「実額で計算した納付すべき消費税80万円-概算額で計算した納付すべき消費税32万円=48万円」の取引先から預かった消費税がプールできます。
ただし、簡易課税制度を選択した場合、2年間は本則課税制度により実額で計算できないため、注意が必要です。

課税事業者を選択して消費税の還付を受けよう

前述のとおり、消費税の還付を受けられますが、次の条件を満たす必要があります。
・得意先や顧客から預かった消費税<仕入税額控除(消費税を取引に支払い過ぎている分を取り戻すため)
・消費税の納税を免除されていない個人事業主・法人(=課税事業者)

そこで、仕入税額控除が多額になるケースと課税事業者を選択する方法について解説します。

(1)仕入税額控除が多額になるケース

これは、輸出業と多額の設備投資をした場合です。

・輸出業

商品などを国内で購入して海外へ販売する事業形態です。国内で購入した場合には、消費税も付随して支払うため、仕入税額控除の金額にカウントされます。一方、海外へ販売するときは、税法上は得意先や顧客から消費税を預かっていないものとして計算します。これを輸出免税といいます。つまり、「得意先や顧客から預かった消費税(0円)<仕入税額控除」となります。

・多額の設備投資をした場合

たとえば、1,000万円単位の設備投資をした場合、付随して支払う消費税は多額です。2,160万円(本体価格2,000万円・消費税160万円)の機械を購入した場合、仕入税額控除は160万円増加します。

この支払いは必ずしも現金預金の支出を意味しません。解約することができないリース契約を結んだ場合には、支払総額に対する消費税が仕入税額控除にカウントされます。また、自動車などをローンで購入する場合も同様です。

(2)課税事業者を選択する方法

消費税の納税を免除すると基本的には取引先から預かった消費税をプールできますが、反対に支払い過ぎた場合でも還付が受けられません。そのため、自ら課税事業者を選択する必要があります。

課税事業者になるためには、還付を受けようとする年の前年の末日までに税務署へ届出書を提出しなければなりません。たとえば、平成30年に課税事業者を選択する場合には、平成29年12月31日が届出書の提出期限です。

ただし、次の点に注意しましょう。
・課税事業者を原則は2年間継続しなければならない(2年間は消費税の納税を免除できない)
・100万円以上の設備投資やソフトウエアなどを購入した場合は3年間課税事業者を継続し、簡易課税制度を選択できない

まとめ

紹介した節税方法の中でも、法人成りの検討や消費税の課税事業者の選択などは慎重に検討する必要があります。これは選択ミスを軌道修正することができないからです。個人事業主にとって大切なことは、取り入れられる節税方法に気づくことです。これにより、専門家へ相談することで不足している知識を補えるでしょう。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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