個人事業主の節税対策に必須!所得金額を圧縮する経費などを徹底解説

[取材/文責]阿部正仁

確定申告シーズンになると、納税額が気になってくるのではないでしょうか。個人事業主が節税対策を考えるのは当然のことです。節税対策として、まず浮かぶのが経費ですが、少し視点を変えることで、別の節税対策がわかります。今回は所得税の節税対策を多角的に検証します。

所得金額を圧縮することで個人事業主が得られる節税効果

そもそも節税対策を実施するためには、その効果を知ることが得策です。たとえば、所得金額を圧縮するためにウェブ広告の掲載費用を投入したと仮定します。10万円の節税を期待したのに、実際は3万円程度しか納税額が下げられない事態に陥ることがあり得ます。

節税効果は所得金額に比例する

個人事業主の所得金額に対する税金は所得税と住民税が課されます。また、特定の業種では事業税も負担しなければなりません。そのなかでも所得税は累進課税制度により、所得金額に比例して税率が高くなります。そのため、同額の経費を負担しても所得金額の高い個人事業主ほど節税効果が大きくなります。

所得税の税率の基準となる所得金額は、収入金額から経費を差し引いた残額ではありません。この残額は合計所得金額であり、所得税の税率は扶養控除など所得控除をマイナスした課税所得金額によって決まります。

税率ごとの節税効果をシミュレーションする

経費や所得控除を用いて節税対策をするためには、事前に節税効果を予測できることに越したことはありません。その補助輪として、実際に税率ごとの節税効果をシミュレーションしましょう。今回は地下鉄の中つり広告に100万円を投入すると仮定します。

所得金額 税率(カッコ内は所得税と
住民税の合計税率)
100万円の経費に対する所得税と住民税の
節税効果
195万円以下 5%(15%) 100万円×15%=15万円
195万円超~330万円以下 10%-9万7500円(20%) 100万円×20%=20万円
330万円超~695万円以下 20%-42万7500円(30%) 100万円×30%=30万円
695万円超~900万円以下 23%-63万6,000円(33%) 100万円×33%=33万円
900万円超~1,800万円以下 33%-153万6,000円(43%) 100万円×43%=43万円
1,800万円超~4,000万円以下 40%-279万6,000円(50%) 100万円×50%=50万円
4,000万円 45%-479万6,000円(55%) 100万円×55%=55万円

所得金額と税率によって節税効果の差が激しくなります。たとえば、最高税率55%で節税対策をした場合、最低税率15%と比較して「55%÷15%=約3.7倍」の節税効果が得られます。

経費は名目ではない!事業に関連する費用が節税対策になり得る

仕事と直結するセミナー代などが経費に落とせることは容易に想像できます。しかし、セミナー後の懇親会費は仕事と無関係ではないが、夕食を兼ねているため、経費に落とせるかどうか迷うところでしょう。この場合、「夕食」という名目ではなく、あくまでも「事業に関連する・しない」ことが経費に落とすための判断材料です。

経費に落とすときは事業との関連性を検証しよう

「事業に関連する費用」が経費に落とすための大原則です。

たとえば、電気工事業が忘年会費を負担したと仮定します。得意先が主催する忘年会の参加費用の場合は、相手との親睦を図ることで、仕事の受注につなげられるかもしれません。つまり、営業を兼ねているため、事業に関連しているといえます。

一方、数名の同業者と忘年会の2次会でスナック代を負担した場合、事業に関連するかどうかは不明です。泥酔状態なら事業と関連付けることは難しく、プライベート用の費用と考えるのが自然です。

つまり、経費として落とせるかどうかは事業との関連性によって決まります。

事業とプライベートを兼用している費用も経費に落とせる

費用の中には事業とプライベートを区分できない項目があります。その場合、費用1,000円のうち、事業割合分だけ経費に落とせます。たとえば、事業割合が50%の場合は、
「1000円×50%=500円」だけが経費に落とせる金額です。

おもに次の費用が挙げられます。

(1)車関連費用

・ガソリン代
・車の購入費用 など

(2)自宅関連費用

・自宅の家賃代
・固定電話代やスマートフォン代などの通信費
・電気代など水道光熱費 など

事業割合はどう算定するの?

結論からいうと、事業割合を厳密に算定することはできません。毎年、同じ値を用いることで、恣意(しい)性を排除するほうが大切です。たとえば、ガソリン代の事業割合を去年は80%、今年は90%と毎年変更すると、「都合よく操作しているのでは」と税務署から疑われてしまいます。

それでは、事業割合が毎年同じ値なら問題ないのでしょうか?いいえ、現実とかけ離れているのは問題です。たとえば、月額10万円の自宅の家賃代について、事業割合が80%と申告していたと仮定します。しかし、過去5年間分の税務調査で事業割合は60%しか認められなかった場合、追加で下記の所得金額を計上しなければなりません。

月額の家賃10万円×事業割合の差20%(申告分の80%-税務調整で指摘された値60%)×12カ月×5年=120万円

このように、事業割合について税務調査で間違いの指摘を受けると、過去にさかのぼるため、追加で計上する所得金額(=追加で納付する税金)は多額になりかねません。

しかし、これでは確定申告をするとき、不安になってしまいます。そこで、頼りになるのが専門家です。税理士などは事業割合についての事例を知っています。そのため、最初は事業割合の算定を専門家に相談することをおすすめします。

実際に相談するときは、車関連費用なら仕事用の使用頻度がわかる資料(業務日報など)、自宅関連費用なら仕事用に使用する面積の分かる資料(自宅の見取り図など)を用意するのがポイントです。

節税対策の定番!青色申告のメリット

青色申告はきちんと帳簿を作成する個人事業主に対して適用する制度です。税法上の特典があります。なかでも代表的な項目を3つ挙げます。

(1)青色申告特別控除

複式簿記で記帳する場合は65万円の所得控除が受けられます。簡易的な帳簿の記帳の場合は10万円の所得控除が受けられますが、会計ソフトへ入力すると自動的に複式簿記で記帳できます。したがって、事業所得の場合は「会計ソフトへの入力=青色申告特別控除65万円」と考えて差し支えありません。

(2)青色事業専従者給与

年末時点で15歳以上の家族に対する給料が税務署へ届出た金額の範囲内で経費に落とせます。たとえば、300万円と届け出れば、同額(300万円)の給料が経費の範囲内です。

それに対して、白色申告は経費に落とせる年末時点で15歳以上の家族に対する給料は、原則配偶者は86万円・そのほか50万円以内です。

(3)消耗品を一括で経費に落とせる金額が拡充される

パソコンなどの消耗品が一括で経費に落とせる金額は原則10万円未満です。しかし、青色申告の場合は30万円未満に拡充されます。

たとえば、23万円の応接セットを購入して使用したと仮定します。白色申告の場合は10万円以上なので一括で経費に落とせませんが、青色申告の場合は30万円未満なので一括で経費に落とせます。

節税対策は経費に落とすだけでない!ほかにもたくさんある

経費に落とすことのほかにも節税対策があります。ここでは代表的な項目や少し変わった項目を取り上げます。

小規模企業共済への加入がおすすめ

サラリーマンは老後の生活を保障してもらうために会社から退職金がもらえます。しかし、小規模事業主は引退後の生活が保障されるとは限りません。そこで、小規模企業共済という退職金制度を設けています。個人事業主だけでなく、小規模法人の役員も加入できます。優遇税制などについて解説します。

(1)掛金

月々の掛金は1,000円~7万円まで500円単位で自由に設定できます。そして、掛金の全額が所得控除の対象です。

(2)共済金および解約手当金

基本的に一括で受け取るときは退職所得、分割で受け取るときは公的年金等の雑所得です。ここでは前者のケースで解説します。

・退職所得の計算方法

(収入金額-退職所得控除)×50%=退職所得

・退職所得控除
勤続年数 退職所得控除
20年以下 40万円×勤続年数(最低額80万円)
20年超 70万円×(勤続年数-20年)+800万円

小規模企業共済の場合、勤続年数は原則加入期間です。ただ、未納期間がある場合などは、勤続年数の計算方法が原則とは異なります。

たとえば、掛金が月1万円の小規模企業共済への加入期間15年で、個人事業主が共済金180万円受け取ったと仮定します。退職所得の金額は次のとおりです。

・退職所得控除

40万円×加入期間15年=600万円

・退職所得

共済金より退職所得控除のほうが大きいため、0円です。つまり、所得税は課されません。

所得控除の適用もれが起きやすい項目

配偶者や扶養家族にまつわる所得控除の適用もれは意外に多くなっています。主な項目を3つ挙げます。

(1)寡婦・寡夫控除

これらの所得控除は最低でも27万円の所得控除ができます。適用条件は収入金額から経費を差し引いた合計所得金額が500万円以下かどうかで違ってきます。

・合計所得金額500万円以下

女性は夫と死別した場合やシングルマザーの場合に適用できます。前者は扶養親族の有無は適用条件と関係ありません。一方、男性はシングルファーザーの場合に適用できます。

・合計所得金額が500万円超

女性はシングルマザーのみが適用できます。男性は適用できません。
※この場合のシングルマザー・シングルファーザーは合計所得金額が38万円以下(アルバイト収入103万円以下)の扶養親族の生活費を負担している場合を指します。

(2)障害者控除

本人または扶養親族が障害者の場合は最低でも27万円の所得控除が適用できます。扶養控除と違い、16歳未満の扶養親族にも適用されます。

(3)別居中の親族の生活費を負担している場合

「扶養控除=同居」ではありません。扶養親族と別居中でも生活費の面倒を見ている場合は、扶養控除が適用でき、最低でも一人あたり38万円の所得控除ができます。

実は法人の役員も経費に落とせる

個人事業主が法人を設立した場合、役員報酬を受け取った役員にも経費が認められます。それが給与所得控除です。給与所得控除とは給与所得者の概算経費であり、目安と金額は次のとおりです。

年収 給与所得控除
162.5万円以下 65万円
162.5万円超180万円以下 収入金額(年収)×40%
180万円超360万円以下 収入金額×30%+18万円
360万円超660万円以下 収入金額×20%+54万円
660万円超1,000万円以下 収入金額×10%+120万円
1,000万円超 一律220万円

法人は個人事業主と同じように事業に関連する費用や役員報酬が経費に落とせるのはもちろん、さらに役員自身の経費として落とせます。つまり、法人と個人に対して、2重の経費が認められているのです。

まとめ

節税対策は経費ありきではありません。節税効果を検証し、経費に落とせるものや所得控除など多角的な節税対策を紹介しました。さらに、法人化による役員の経費にも触れています。節税対策は紹介したもののほかにもたくさんあります。まずは節税対策を紹介したサイトの閲覧をおすすめします。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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