損失を無駄にしない!損失を節税につなげるためのポイント徹底解説

[取材/文責]山本麻衣

事業者からすれば「損失」はできるかぎり避けたいもの。しかし事業を続けていれば損失に直面してしまう日はやがて訪れるでしょう。そんな時に損失を逆手に取って上手に利用すると、実は節税に活かせることはご存知でしょうか。今回は、損失を損失で終わらせずに節税に繋げるための方法をいくつかご紹介します。

損失の定義とは

まずは法人税法における損失の位置づけを見てみましょう。法人税法第22条3項には「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする」とあり、その項目として原価の額、費用、損失の3項が挙げられています。つまり、損金を構成する3要素のうち1つが損失なのです。また法人税法第22条第1項において「各事業の所得金額は益金の額から損金の額を控除したものとする」と書かれているように、法人に対する所得税は「益金−損金」を元に計算されます。従って、損金に換算される金額が多いほど税額は減ることになります。

それでは、その損金を構成する原価の額、費用、損失の間にはどのような違いがあるのでしょうか。原価の額はその名の通り、仕入れに用いた金額です。費用は原価より大きな範囲をカバーする単語で、仕入れに用いた金額に加えてその他の雑費なども含めた金額となっています。これら2つに共通するのは、事業の利益に繋がるものであるということです。一方の損失は、利益に繋がらない支出を指します。突発的に生じることも多く、事業主にとっても予測が困難なため、特段の注意が必要になります。加えて損失にはもう1つ大きな特徴があります。それは、損失の大部分は控除の対象とならないという点です。つまり損金を構成するもののうち、損失に限っては損金算入に厳しい条件が課せられているということです。今回は、損失のなかでも控除の対象となりうるものについて解説して行きます。

赤字と黒字を相殺しよう!「損益通算」

各種所得金額の計算において生じた損失のうち、一定のものについては、黒字が出た他の種類の所得額から控除することが認められています。これを損益通算と呼び、その対象となるのは不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得の4種類における損失です。ただしこの4つの中にもそれぞれ条件があり、それを満たさないことには損益通算を適用できません。例えば不動産所得に関しては、土地取得のための負債の利子に相当する部分の金額や、通常生活に必要ない別荘等の資産の赤字、あるいは一定の組合契約に基づく事業においてその組合の特定組合員から生じた赤字は、損失と見なされないため損益通算に組み込まれません。

譲渡所得に関しても、多くの条件があります。例えば、株式などの申告分離課税の譲渡所得とされるものは、原則として他の種類の所得との損益通算が認められません。つまり株式の譲渡に関して発生した損失は、同じく株式の譲渡に関して発生した益金しか相殺することができません。他には先物取引や居住用財産以外の土地建物も株式と同じく申告分離課税ですので、これらの譲渡に関しても同様のことが言えます。

損失額が大きい場合には「損益繰越」を

前項では損益通算にはいくつかの条件があることを確認しました。しかしたとえ損益通算ができたとしても、損失の額が大きければ控除しきれないこともありえます。所得から損失を除いた上でなおも残るこの損失のことを、純損失といいます。ある年の損益はその年の中で完結するのが原則ですが、純損失に関しては翌年以降にまで控除を繰り越すこと、すなわち損益繰越ができます。これは最大3年までの繰越が可能で、その損失が生じた年に損益繰越を行う旨を記載した確定申告書を提出した上で、翌年以降も毎年確定申告を行なっていることが条件となります。青色申告者であれば純損失の全額を繰り越すことができますが、青色申告者以外は繰越できる金額に制限があり、変動所得の損失と被災事業用資産の損失の金額のみ繰り越すことができます。

雑損控除について

前項で扱った純損失と同様に繰越可能なものとして、雑損控除というものがあります。これは自身の資産が震災や火災などの災害または盗難や横領によって損なわれた際に受けられる控除です。被害が甚大で損害額が大きく控除の最高額を超える場合には、最大で3年繰越ができます。この控除の対象はあくまで生活に必要な資産であるため事業での損失は含まれませんが、ついでに覚えておいて損はないでしょう。なお、似た言葉なのでややこしいですが、ここでの雑損控除とは、事業所得の計算における「営業に関連しない損失のうち、小額なため関連性が低いもの」という意味での雑損失とは性格を異にするものですので注意が必要です。

条件次第ではさかのぼることも? 「損失繰戻し」

ここまで「ある年に生じた損失を翌年以降に繰り越して控除する」ことについて述べてきましたが、最後に繰戻についても説明します。ある年に損失が生じたとして、その前年の黒字からその額を控除すると前年分の所得税額が減る場合、その差額の還付を受けることができ、これを損失繰戻しと呼びます。その条件としては毎年コンスタントに青色申告者として確定申告をしている必要があり、繰戻しをしたい損失が出た年に還付請求書を提出すれば繰戻しができます。

☆ヒント
今回見てきたように損失は損金と混同されがちですが、正確な理解が必要とされる部分であり、控除に際しても多くの例外や条件、ルールが存在します。これをうまく活用すれば、たとえ損失が出てしまっても所得税を減らせる場合がありますし、損失の額が大きければ翌年以降に控除を繰り越すこともできます。私たちビスカスは、こうした税制の細部にも精通した優秀な税理士を数多く紹介していますので、この機会に相談してみてはいかがでしょうか。

まとめ

今回は損金の一種としての損失について解説してきました。損失は本来利益につながらないものであるため控除の対象とはならないのですが、一定の条件を満たしたものに関しては控除を受けることができます。また、繰越や繰戻しなどの便利な制度もあるので、この機会に損失においての理解を深めておきましょう。

東京大学卒。現、同大学院所属。
学生起業、海外企業のインターンなどの経験を経て、外資系のコンサルティング会社に内定。
自分の起業の経験などを踏まえてノウハウなどを解説していきます。

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