法人が株を売買すると税金に影響を与える!株の売買時の処理方法

[取材/文責]長谷川よう

法人が株を売買すると、売却益や売却損などがでます。売却益や売却損は損益科目なので、税金に影響します。そのため、売却益や売却損を正しく求めることが重要です。株を売買したときの売却益や売却損の考え方は、商品を販売したときの損益と考え方が異なります。そこで今回は、株の売買時の処理方法を解説します。

まずは、会計上と税務上の株の取り扱いを知ろう

株は会計上4つの種類に分かれる

実は株の取り扱いは、会計上と税務上で異なります。そのため、株の売買時の処理方法を確認する前に、それぞれの取り扱いを理解する必要があります。

まずは、会計上の取り扱いです。株は会計上、売買目的有価証券、満期保有目的有価証券、子会社・関連会社株式、その他有価証券の4つの種類に分かれます。

①売買目的有価証券

売買目的有価証券とは、短期的な価格の変動を利用して、利益を得るために取得した有価証券のことです。

勘定科目は「(売買目的)有価証券」勘定を使用し、決算時に所有しているものは時価で評価します。

②満期保有目的有価証券

満期保有目的有価証券とは、満期まで所有する意図をもって保有する有価証券です。

勘定科目は通常「投資有価証券」勘定を使用します。満期日が決算日の翌日から1年以内に到来する場合は「有価証券」勘定を使用します。

決算時に所有しているものは時価で評価せず、原則、帳簿価額のまま(償還有価証券を除く)です。

③子会社・関連会社株式

子会社・関連会社株式とは、子会社や関連会社の所有を目的とした株式です。

勘定科目は通常「投資有価証券」勘定または「子会社・関連会社株式」勘定を使用します。決算時に所有しているものは時価で評価せず、帳簿価額のままです。

④その他有価証券

その他有価証券とは①~③以外の有価証券です。勘定科目は通常「投資有価証券」勘定を使用します。決算時に所有しているものは原則、時価で評価せず、帳簿価額のままです。

ただし、市場価格のある株を多量に有している場合は、時価で評価します。

株は税務上2つの種類に分かれる

株は会計上4つの種類に分かれますが、税務上は大きく分けて、売買目的有価証券と売買目的外有価証券の2つの種類に分かれます。

①売買目的有価証券

売買目的有価証券とは、会計上の売買目的有価証券と同じく、短期的な価格の変動を利用して、利益を得るために取得した有価証券のことです。しかし、この売買目的有価証券も種類があります。代表的なものは次の2つです。

・専担者売買有価証券

税務上の売買目的有価証券は、主としてこの「専担者売買有価証券」に相当します。

トレーディング業務を行うために独立した専門部署によって運用されており、定款に有価証券の売買を業としていることを記載していることなどが必要な有価証券で、絶対に時価評価をする必要があります。

・ 短期売買目的で取得したということを、帳簿書類に表示した有価証券

専担者売買有価証券以外の株式です。独立した専門部署がなくても、帳簿書類に短期売買目的で取得したということを記載し、売買目的有価証券勘定で処理した株式です。時価で処理します。逆に言えば、税務上は短期的な価格の変動を利用して、利益を得るために取得した有価証券でも、帳簿書類にその旨を記載しなければ、時価評価する必要がありません。

※その他、金銭の信託に属する有価証券もあります。

②売買目的外有価証券

売買目的有価証券以外の有価証券です。

決算時に所有しているものは時価で評価せず、原則、帳簿価額のまま(償還有価証券を除く)です。

「その他有価証券」で会計上、時価で評価している場合の評価損益は、税務上では否認されるので注意が必要です。

株を購入したときの処理方法とは

株の取得原価に入れるものと入れないもの

ここからは、株を購入したときの処理方法を確認しましょう。株を購入する場合は、購入代価以外にもいろいろな経費がかかります。そのうち、株の取得原価に絶対入れなければならないものと、入れなくてもいいものがあります。

①株の取得原価に入れるもの

購入手数料や委託手数料などの購入にかかる手数料

②株の取得原価に入れなくてもいいもの

・名義書換料

・通信費

例えば、株の購入代価10万円と購入手数料1万円がかかれば、株の取得原価は10万円+1万円の11万円となります。

 

購入以外に、交換や贈与などで株式を取得する場合があります。この場合は、取得時の時価をもって取得原価にします。

ただし、非上場株式等の場合は時価はなく、取得原価がわかりません。その場合は、類似業種比準価額や純資産価額などを用いて評価しますが計算が複雑なため、税理士などの専門家に相談しましょう。

株を購入したときの処理方法

では、株を購入したときの仕訳を見てみましょう。

 

例)株を10万円で購入し、購入代価10万円と購入手数料1万円、通信費1,000円の合計111,000円を現金で支払った。
借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
有価証券 100,000円 現金 111,000円 株購入
有価証券  10,000円 購入手数料
通信費  1,000円 通信費

 

購入手数料1万円は、取得原価にしなければならないため有価証券で、通信費1,000円は取得原価にしなくても良いため、経費科目の通信費で処理します。

株を売却したときの処理方法とは

まずは譲渡原価を求めよう

次に、株を売却したときの処理を確認しましょう。株を売却したときに損益を計算するために必要なことは、いくらの株をいくらで売ったかということです。いくらで売ったかは、売却価額なので把握できます。そこで、いくらの株を売ったのか、つまり譲渡原価を求める必要があります。

譲渡原価の算出方法は、総平均法または移動平均法で求めます。算出方法を総平均法にする旨の届け出を税務署に出していない場合は、移動平均法で求めます。

①総平均法

期首の有価証券の帳簿価額と期中に取得した有価証券の取得価額を合計し、その総数で除して平均単価を算出する方法です。

 

1株当たりの価格=期首有価証券の簿価+当期に取得した有価証券の取得価額期首有価証券の数+当期に取得した有価証券の総数

②移動平均法

取得の都度、取得直前の帳簿価額と取得した有価証券の取得価額を合計し、これらの総数で除して平均単価を算出する方法です。

 

1株当たりの価格=取得直前の有価証券の簿価+新たに取得した有価証券の取得価額取得直前の有価証券の数+新たに取得した有価証券の総数

 

では、具体例で総平均法と移動平均法の計算を見てみましょう。

 

例)期首   1,000株 600,000円

5月10日   500株 360,000円 購入

6月20日   500株 売却

7月10日  1,000株 800,000円 購入

8月20日   300株 売却

①総平均法

・1株当たりの価格
(600,000円+360,000円+800,000円)/(1,000株+500株+1,000株)=704円
・譲渡原価

6月20日 704円×500株=352,000円

8月20日 704円×300株=211,200円

②移動平均法

・1株当たりの価格

5月10日 購入時

(600,000円+360,000円)/(1,000株+500株)=640円

 

7月10日購入時

(640,000円※1+800,000円)/(1,000株※2+1,000株)=720円

 

※1 6月20日時点の株式数 1,000株+500株-500株=1,000株

※2 6月20日時点の帳簿価額 1,000株×640円=640,000円

 

・譲渡原価

6月20日 640円×500株=320,000円

8月20日 720円×300株=216,000円

株を売却したときの処理方法

では、株を売却したときの仕訳を見てみましょう。

 

例)移動平均法で計算した譲渡原価 320,000円の株を400,000円で売却し、普通預金で受け取った。
借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
普通預金 400,000円 有価証券 320,000円 株売却
有価証券売却益  80,000円 売却益

 

上記の例で、300,000万円で売却した場合の仕訳は、次のとおりです。

 

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
普通預金 300,000円 有価証券 320,000円 株売却
有価証券売却損  20,000円 売却損

まとめ

今回は、株を売却した場合の処理方法について確認しました。株を売却したときの売却益や売却損は税金に影響を与えるため、正しく計算する必要があります。そのためには、株を購入したときの処理や、売却したときの譲渡原価の計算を正しくしなければなりません。

ぜひ、この記事を参考に、正しい処理を行いましょう。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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