決算日までにできる法人の税金対策とその注意点について解説

[取材/文責]阿部正仁

決算日が近づくと利益や納税額が気になるでしょう。ところが決算日間際では、税金対策の選択が限られてします。たとえば、在庫を大量購入して販売できなれば、仕入原価として経費に計上することはできません。しかしそれでも、決算日間際でも可能な税金対策は存在します。その方法と注意点について解説します。

消耗品、在庫を活用した税金対策

消耗品や在庫の大量購入が必ずしも税金対策につながるとは限りません。むしろ、所得は圧縮できず、お金だけが減少するケースがあります。そこで、消耗品と在庫を用いた税金対策について解説します。

消耗品を大量購入する税金対策のポイント

プリンターのインク代など消耗品は基本的には使用した時点で経費に計上します。そのため、大量購入しても開封しないで使用しなければ、所得を圧縮することはできません。

しかし、消耗品については購入した時点で経費として落とせる特例が存在します。たとえば、文房具を決算日までに大量購入すれば、未使用でも経費で落とせます。その条件は次の通りです。

(1)決算日までに消耗品が納品されていること
(2)毎年度、消耗品を購入した時点で経費として計上する経理処理を実施すること

仮に決算日までに未使用分の消耗品を今年度は経費に計上、来年度は経費に計上せず資産計上するなど、年度ごとで自由に選択することは認められません。

在庫を活用した税金対策のポイント

在庫は消耗品と違い、未使用分を経費で落とす特例は存在せず、基本的に売却した時点ではじめて売上原価を経費に計上します。しかし、「在庫が陳腐化したなど売却できない場合」や「売値を下げざるを得ないこと」により通常の価格(当初の売価)で販売できないことが明らかな場合は、特例として「仕入原価から処分価格を差し引いた残額」を経費で落とせます。具体例は次の通りです。

(1)季節商品で売れ残った場合

過去の実績や常識的に考えて、季節商品が通常の価格で販売できない場合は特例が認められます。

(2)新商品を発売した場合

電化製品などの商品や使用方法がたとえ同じでも、型式、性能、品質などが著しく異なる新製品が発売されたことにより、処分価格に設定せざるを得ないなど通常の方法により販売する場合は特例が認められます。

(3)破損、型崩れ、たなざらし、品質変化などがあった場合

たとえば、コンビニエンスストアの菓子が破損した場合、商品価値がなく販売することができないとします。その場合、処分価格が0円のため、仕入原価と同額を経費で落とすことができます。

短期前払費用を活用した税金対策

そもそも前払費用とは、サービスなどの対価として支払ったが、決算日までにサービスの提供を受けていない部分の金額を指します。通常、その部分の金額は資産計上をし、所得は圧縮できません。しかし、たとえサービスの提供を受けていなくても、短期前払費用の特例により経費で落とせる特例が存在します。そのため、税金対策には有効な項目といえます。

そもそも短期前払費用とは何か?

(1)サービスに対する支払いであること

物件の家賃などサービス提供を受けるための支払いであることが短期前払費用の特例を受ける大前提です。そのため、ホームページ制作費などの手付金は対象外となります。

(2)支払った年度にサービス提供が開始していること

たとえば、3月決算の法人が広告宣伝費を支払ったとします。その場合、決算月の3月までに広告掲載をすることが必要です。仮に広告掲載期間が翌期の4月以降であり、支払った年度に掲載されない場合、短期前払費用の特例は受けられません。

(3)サービス提供期間が1年以内であること

たとえば、保険料について短期前払費用の特例を受けるためには、支払対象期間が1年以内であることが求められます。つまり、サービスの提供期間が1年を超える場合は特例が認められません。

(4)実際に決算日までに支払っていること

そもそも短期前払費用は支払った前払費用を資産計上でなく、経費で落とすための制度です。そのため、実際に支払っていないサービス費用は対象外です。

(5)時の経過に応じて経費で落とせること

「時の経過に応じて経費で落とせる」とは、確実にサービス提供を受けることを意味します。たとえば、年払いの保険料を支払ったとします。支払対象期間中は確実に保証されるため、短期前払費用の特例が認められます。

(6)等質等量のサービス提供が受けられること

そもそも等質等量とは、契約期間中のサービス内容が継続的に質と量が同じことを意味します。たとえば、物件の賃貸や掲載広告などは月ごとにサービス内容の変更がありません。それが短期前払費用の特例を受けるための条件となっています。

(7)継続適用すること

所得操作の恣意(しい)性を排除するため、継続適用が求められています。たとえば、物件の家賃を年払いするとします。今年度は短期前払費用の特例を受けて支払金額を全額経費で落としたり、翌年度は前払費用について資産計上して所得を圧縮しなかったり年度ごとで自由に選択することは認められません。

短期前払費用になるもの、ならないもの

そもそも短期前払費用として経費で落としていた100万円が税務調査で認められないと、同額の所得が加算され、税金は「100万円×税率30%=30万円」が課税されてしまいます。そのため、短期前払費用の対象となる項目を知ることが大切です。等質等量かどうかが分岐点となります。

(1)短期前払費用になるもの

おもに地代家賃、保険料、広告宣伝費などサービス内容が等質等量である項目として挙げられます。

(2)短期前払費用にならないもの

おもに税理士報酬、コンサルティング料、給料などが挙げられます。いずれもサービス内容は毎月等質等量が保証されません。たとえば、税理士報酬やコンサルティング料はクライアントの状況によってサービス内容が異なるのが一般的です。

固定資産を活用した税金対策

固定資産は支払金額が大きくなる傾向にあります。そのため、経費で落とせる対象金額が大きくなり、税金対策に有効です。

税金対策はおもに2パターンある

固定資産を活用した税金対策の基本は購入年度でいかに多くの金額を経費として落とすかどうかです。それを可能にするパターンはおもに2つです。

(1)30万円未満の固定資産を購入する

青色申告の中小企業は30万円未満の固定資産を購入年度で経費に一括計上することができます。たとえば、25万円のパソコンを3台購入すれば、「25万円×3台=75万円」が経費で落とせます。しかし、30万円未満の固定資産を経費に一括計上できる限度額は年300万円以内です。

(2)特別償却や特別控除を受ける

そもそも固定資産は一括で経費に計上できないのが基本です。しかし、新品のソフトウェアなら70万以上など一定の固定資産は、購入年度で特別償却により多額の経費を計上したり、特別控除により法人税から控除したりすることができます。

経費で落とせるタイミングは使用した年度

一般的には購入年度で経費に計上できると思われがちですが、厳密には使用した年度です。たとえば、25万円のパソコンを購入したとします。しかし、未開封などで未使用の場合は経費で落とすことはできません。あくまでも「使用した事実」または「いつでも使用できる状態」にすることが固定資産を経費で落とすタイミングです。

まとめ

いかがでしたか。
決算日までにできる税金対策を取り上げました。しかし、固定資産を未使用のままにするなどやり方を間違えると、後日税務調査で間違いを指摘されて、課税されてしまうリスクが潜んでいます。この記事で税金対策について正しい知識を身につけましょう。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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