法人がストックオプションを導入した場合の税金の処理方法

[取材/文責]長谷川よう

役員や従業員への報酬の一環として、あるいは優秀な人材の確保などを目的として、法人で導入されていることが多いストックオプション。すでに導入している法人も、これから導入を考えている法人も、ストックオプションを導入した場合の税金がどうなるか気になるのではないでしょうか。今回は、ストックオプションと税金の関係について解説します。

ストックオプションの概要と流れ

ストックオプションとは

ストックオプションと税金の関係を見ていく前に、まずはストックオプションとは何かを確認しましょう。

 

ストックオプションとは、簡単に言うと、「その法人の従業員や役員に、会社の株式を将来取得する権利を付与する」いわばインセンティブ制度です。あらかじめ購入できる価額を決めているので、従業員や役員は、将来その法人の株価が上昇した際に、有利な価格で株式を取得することができ、得することができます。

 

従業員としては、法人の株価が上がれば上がるほど、得をする制度なので、自分の勤めている法人の業績を上げるために一層努力します。また、法人としても業績があがるだけでなく、優秀な人材が他の法人に流出することを防いだり、優秀な人材を採用しやすくなったりするメリットがあります。

ストックオプションの流れと会計処理

ストックオプションは、将来株式を取得する権利を従業員や役員に与える行為ですが、実は会計処理が必要となります。ここでは、ストックオプションの流れとその会計処理について見ていきましょう。ストックオプションの流れは、次のようになります。

 

①ストックオプションを付与する対象者を決める。

②ストックオプション1個についての公正な評価単価を決める(第三者機関などに依頼)。

③ストックオプションの数を決める。

④実際にストックオプションを付与する。

⑤従業員によるストックオプションの行使、または失効。

 

では、流れに沿って会計処理を見てみましょう。いくつかの会計基準によって、費用処理することが決まっています。そのため、ストックオプションの会計処理では、「株式報酬費用」勘定と「新株予約権」勘定を使用します。

 

例)

事業年度の初めにストックオプションの対象者を10名、ストックオプション1個についての公正な評価単価5,000円、1人あたりのストックオプションの数200個(1個=1株)、1人あたりのストックオプションは評価単価5,000円×200個=100万円と決定した。付与日から2年経過すると権利を行使できるものとする。なお、退職予定者を1人とする。

・ストックオプション付与時の仕訳

ストックオプション付与時は、退職予定者を除いた金額を計上します。また、総額ではなく、1年分の金額のみ計上します。

 

計上するストックオプションの金額=100万円×(10人-1人)×1年/2年=450万円

 

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
株式報酬費用 450万円 新株予約権 450万円 ストックオプションの付与
・権利行使時の仕訳

従業員がストックオプションの権利を行使したら、株式を従業員に渡すことになります。

そのため、資本金の増加と考えます。従業員に渡す株式は、新株の場合と自己株式の場合があります。

 

例)

従業員1人が権利行使し、200万円を普通預金で受け取り、新株を発行した。すでに費用計上しているストックオプションの額は100万円である。

 

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
普通預金 200万円 資本金 300万円 ストックオプションの行使
新株予約権 100万円

ストックオプションを発行した場合の税金

ストックオプションには税制非適格と税制適格がある

ここまでは、ストックオプションの流れと会計処理を確認したので、ここからは税務について見ていきましょう。

ストックオプションには「税制非適格」と「税制適格」の2つがあります。付与するストックオプションがどちらに該当するかで、ストックオプションの税務の取り扱いが異なります。

税制適格以外のものが税制非適格となるので、ここでは税制適格の要件を簡単に見ていきましょう。主なものは、次のとおりです。

①付与対象者

自社または子会社の取締役、執行役または使用人であること。

②権利行使期間

付与決議の日から2~10年までの間。

③権利行使価額

ストックオプション付与時の一株あたり価額以上で、権利行使価額が年間1,200万円を超えないこと。

④発行形態

・株主総会の決議で募集事項が決定された無償発行(役務提供の対価として発行されたものを含む)のもの

・譲渡禁止のもの

であること。

ストックオプションの税務

では、ストックオプションの税務を見ていきましょう。

法人は、ストックオプションを付与すると、その評価額を権利行使までの期間で費用計上していく必要がありました。では、税務上損金として計上する時期はいつなのでしょうか。

これは、税制非適格と税制適格で異なります。ストックオプションの税務を考えたときに重要となる時期は次の3つです。

 

・ストックオプション付与(新株予約権発行)時

・従業員の権利行使時

・従業員がその株式を売却した時

 

上記3つの時期に注目して、税制非適格と税制適格をそれぞれで見ていきましょう。

①税制非適格

税制非適格のストックオプションでは、従業員の権利行使時に損金計上します。

それ以外では損金計上することができません。

まとめると次の通りです。

 

時期 税務処理
ストックオプション付与(新株予約権発行)時 損金計上不可
従業員の権利行使時 損金計上
従業員がその株式を売却した時 法人では関係なし

②税制適格

税制適格のストックオプションでは、そもそも損金計上できません。

まとめると次の通りです。

時期 税務処理
ストックオプション付与(新株予約権発行)時 損金計上不可
従業員の権利行使時 損金計上不可
従業員がその株式を売却した時 法人では関係なし

 

税制非適格で従業員の権利行使時のみ損金計上ができたり、税制適格で損金計上ができなかったりする理由には、ストックオプションを取得した従業員の税務に合わせているからです。そのため、ストックオプションを取得した従業員(個人)の税務も確認する必要があります。

ストックオプションを取得した場合の税金(個人)

ストックオプションを取得した場合の処理(税制非適格)

ストックオプションを取得した従業員(個人)の税務も、税制非適格と税制適格で異なります。まずは、税制非適格から確認します。

 

税制非適格では、権利行使時と株式を売却した時に課税されます。権利行使時は給与として、株式を売却した時は譲渡所得として課税されます。まとめると以下の通りです。

 

時期 税務処理
ストックオプション付与(新株予約権発行)時 課税なし
従業員の権利行使時 課税あり(給与)
従業員がその株式を売却した時 課税あり(譲渡所得)

 

ストックオプションにより、従業員はあらかじめ決めた安い価格で高い価格の株を購入できます。そのため、その差額は得をしたことになり、給与として課税されます。取得した株を売却した場合は、通常の株売買と同じであるため、購入時の時価と売却時の価格の差額(利益)について所得税がかかります。

 

例えば、30万円の時価の株式をストックオプションにより15万円で取得し、後に40万円で売却した場合は、次のようになります。

 

・従業員の権利行使時  株式の時価30万円-取得価格15万円=15万円が給与課税

・従業員がその株式を売却した時 売却価額40万円-株式の時価30万円=10万円が譲渡所得

ストックオプションを取得した場合の処理(税制適格)

次に、税制適格の場合です。税制適格の場合は、従業員がその株式を売却した時のみ課税されます。まとめると以下の通りです。

 

時期 税務処理
ストックオプション付与(新株予約権発行)時 課税なし
従業員の権利行使時 課税なし
従業員がその株式を売却した時 課税あり(譲渡所得)

 

ストックオプションにより従業員は、あらかじめ決めた安い価格で高い価格の株を購入しますが、税制適格の場合は、権利行使時の課税を繰り延べ、従業員がその株式を売却した時のみ課税します。取得した株を売却した場合は、権利行使時の価格と売却時の価格の差額(利益)について所得税がかかります。

 

税制非適格と同じ例の場合で見てみましょう。

30万円の時価の株式をストックオプションにより15万円で取得し、後に40万円で売却した場合は、次のようになります。

 

・従業員の権利行使時  課税なし

・従業員がその株式を売却した時 売却価額40万円-権利行使時の価格15万円=25万円が譲渡所得

 

税制適格では、ストックオプション付与(新株予約権発行)時、従業員の権利行使時についてストックオプションを発行した法人、取得した従業員ともに税務処理を行わないことになります。

まとめ

ストックオプションは、役員や従業員への報酬の一環や優秀な人材の確保などを目的として、法人で導入されます。しかし、その手続きや会計処理、税務関係については複雑です。

会計処理での費用計上時期と税務上の損金計上時期が異なったり、そもそも税務上では損金に計上できなかったりする場合もあります。ストックオプションの税務で不明点がある場合は、税理士などの専門家に相談したほうがよいでしょう。

 

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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