個人事業主と法人の役員に役立つ税金の累進課税について解説

[取材/文責]阿部正仁

個人に対する税金は事業でのもうけの金額や財産額に比例して税率が高くなる累進課税を採用しています。たとえば、事業でのもうけの金額によって、所得税の税率は違います。しかし、個人事業主が法人化し法人役員に就任することで、税率を下げることは可能です。そこで、個人と法人役員の累進課税について解説します。

そもそも累進課税とは?

累進課税とは、お金を持っている人に対して高い税率を適用する制度です。それでは、詳しく見ていきましょう。

累進課税とは所得金額、財産額と税率が比例する制度である

累進課税でのお金を持っている人の尺度は所得金額(もうけ)と財産額です。これらの金額に比例して税率は高くなります。お金持ちから多く課税する税金は生活保護などお金を持っていない人に分配されます。この分配のことを所得の再分配といい、累進課税の考え方です。

おもな税目の税率について紹介

基本的に累進課税は個人に対して適用されます。おもな税目は所得税、相続税、贈与税です。それぞれの税率を見ていきましょう。

(1)所得税

課税される所得金額に対して次の税率が適用されます。

課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

(2)相続税

各相続人に配分される相続税法上の相続財産(法定相続分に応ずる取得金額)に対して次の税率が適用されます。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

(3)贈与税

贈与財産から年110万円の基礎控除を控除した残額に対して次の税率が適用されます。

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1000万円以下 40% 125万円
1500万円以下 45% 175万円
3000万円以下 50% 250万円
3000万円超 55% 400万円

所得税の累進課税の対象となる所得、ならない所得について解説

個人事業主の確定申告の対象税目である所得税は累進課税の対象になる所得と対象にならない所得に区分されます。

そもそも所得税は総合課税と分離課税に大別できる

所得税の税率は総合課税と分離課税に大別できます。総合課税とは事業所得や給与所得などのさまざまな所得を合算したもので、累進課税の対象になります。一方、分離課税はさまざまな所得を合算せず、総合課税とは異なる税率を適用します。

総合課税の対象となる所得

総合課税の対象となる所得は次の通りです。

(1)利子所得

預金利息など源泉所得税が天引きされるものを除いた利子のことを指します。

(2)配当所得

株式投資などの配当金のことを指します。しかし、次の配当金を除きます。

・源泉分離課税とされるもの

・確定申告をしないことを選択したもの

・平成21年1月1日以後に支払を受けるべき上場株式等の配当について、申告分離課税を選択したもの

(3)不動産所得

不動産投資による所得のことを指します。

(4)事業所得

事業活動による所得のことを指します。しかし、株式等の譲渡による事業所得を除きます。

(5)給与所得

役員報酬や従業員の給与に対する所得のことを指します。

(6)譲渡所得

おもに事業用資産となる自動車などの売却による所得のことを指します。しかし、分離課税が適用される土地、建物等、株式等の譲渡を除きます。

(7)一時所得

保険金収入などによる所得のことを指します。ただし、源泉分離課税とされるものを除きます。

(8)雑所得

副業収入や年金収入などによる所得のことを指します。ただし、分離課税が適用される先物やFX取引による所得を除きます。

分離課税の対象となる所得

分離課税の対象となる所得はおもに次の通りです。

・土地、建物等の譲渡による譲渡所得

・株式等の譲渡所得

・先物取引やFX取引による雑所得

・預金利子による利子所得

・退職金

法人の役員の累進課税について解説

法人の役員には役員報酬に対して累進課税が適用されます。個人事業主の場合とは所得金額の計算方法が異なります。それでは、詳しく解説します。

そもそも役員報酬とは給与所得である

法人の役員は会社から役員報酬が支給されるため、給与所得となります。給与所得の計算方法は次の通りです。

年収-給与所得控除額=給与所得

給与所得控除額は年収(給与等の収入金額)に応じて次の金額となります。

給与等の収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額)
給与所得控除額
1,800,000円以下 収入金額×40%
650,000円に満たない場合には650,000円
1,800,000円超 3,600,000円以下 収入金額×30%+180,000円
3,600,000円超 6,600,000円以下 収入金額×20%+540,000円
6,600,000円超 10,000,000円以下 収入金額×10%+1,200,000円
10,000,000円超 2,200,000円(上限)

 

給与所得控除額は年収に比例して減少します。その結果、年収に占める給与所得の比率は年収に比例します。たとえば、次の年収で比較しましょう。

(1)年収800万円

給与所得は次の通りになります。

年収800万円-給与所得控除額200万円(年収800万円×10%+120万円)=600万円

その結果、年収に占める給与所得の比率は「給与所得600万円÷年収800万円=75%」となります。

(2)年収2,000万円

給与所得は次の通りになります。

年収2,000万円-給与所得控除220万円=1,780万円

その結果、年収に占める給与所得の比率は「給与所得1,780万円÷年収2,000万円=89%」となります。

 

つまり、年収に比例して所得税の負担が大きくなります。

役員退職金の場合の累進課税

そもそも役員退職金は退職所得となります。役員の場合、計算方法は次の通りです。

(1)勤続年数が5年超

(退職金-退職所得控除額)×50%=退職所得

(2)勤続年数が5年以下

退職金-退職所得控除額=退職所得

退職所得控除額は勤続年数に応じて次の通りになります。

勤続年数(=A) 退職所得控除額
20年以下 40万円 × A
(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超 800万円 + 70万円 × (A – 20年)

 

また、退職所得は分離課税であり、税率は課税退職所得金額に比例します。

課税退職所得金額 所得税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え 4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

まとめ

累進課税によって、お金持ちのほうが高い税率が適用されます。しかし、所得税の分離課税や法人化により事業主を法人役員にすることで、所得税の税率を下げることが可能です。つまり、累進課税による税率を下げることが個人の節税につながります。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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