農業法人とはどんな法人?農業法人と農業法人にかかる税金について
新聞やニュースなどで、今、農業をする若い人が増えているとたびたび報じられています。実は、農業をめぐる環境はここ数年で少しずつ変わってきており、要因のひとつとして農業法人があります。ここでは、農業法人とはどのようなものか、また、税金はどうなっているのかなど、農業法人について詳しく解説します。
農業法人とはどんな法人?
農業法人には2種類ある
簡単にいうと農業法人とは、農業により収入の大部分を得ている法人のことです。農業法人には、農事組合法人と会社法人の2種類があります。
①農事組合法人
農事組合法人とは、農業生産についての協業を図ることや、組合員の共同の利益を増進することを目的として設立する法人のことです。農業に関する共同利用施設の設置や農作業の共同化に関する事業、農業の経営の事業を行うことができます。発起人には3人以上の農民が必要で、農民や農業協同組合などが組合員となり、経営を行います。主に農民の仲間や集落農営を法人化する場合は、農事組合法人を設立します。
②会社法人
株式会社など、一般的な法人として農業を営むのが会社法人です。ただし、農業を営むためには、農地法の設立要件を満たした構成員が1人いることや、構成員や役員に60日以上の農作業従事義務があります。主に家族経営で農業を行い、法人化する場合に会社法人を設立します。
農地所有適格法人とは
農業法人には、農事組合法人と会社法人の2種類があります。いずれの場合であっても、農業経営を行うための農地を取得するには、さまざまな要件を満たす必要があります。農地を取得できる農業法人のことを「農地所有適格法人」といいます。
農地所有適格法人になるための特別な申請は必要ありませんが、農地を所有する際とその後継続して次の要件を満たす必要があります。
①非公開会社である株式会社、持分会社(合名会社、合資会社など)、農業組合法人
②売上の半分以上が農業によるものであること
③農業関係者が議決権の1/2以上を所有していること
④役員の過半数が年間150日以上農業に従事し、役員または重要な使用人(農場長等)のうち、1人以上が年間60日以上農作業に従事すること
※そもそも農地を利用しない農業を営む法人や、農地を借りて農業を営む法人の場合は、農地所有適格法人である必要はありません。
農業法人のメリットとは
農業法人の経営上のメリット
農業法人には多くのメリットがあります。ここからは、農業法人のメリットについて見ていきましょう。
まずは、農業法人の経営上のメリットです。農業法人の経営上のメリットとして、次のようなものが挙げられます。
①家計と事業の分離
個人経営の農家では、家計と事業の財政面、経営面での分離ができていないことが多くあります。法人化することで、お金や時間の面でプライベートと仕事で区分がつき、経営管理能力が向上します。
②信用力の向上
法人化により、お金や時間の面でプライベートと仕事で区分がつくことや、決算書などの書類の正確性が担保されることにより、金融機関など対外的な信用力が向上します。
③優秀な人材の確保
法人化することで、社会保険などの福利厚生の充実ができ、より優秀な人材を確保することができるようになります。
④経営者の意識改革
これまでの農業従事者から経営者になることや、従業員が増えることなどの責任から、より経営者としての意識が強くなります。
⑤事業承継の円滑化
身内や従業員の中から有能な人間を選び、事業承継をすることができます。
農業法人の制度上のメリット
次に、農業法人の制度上のメリットを見ていきましょう。農業法人の制度上のメリットとして、次のようなものが挙げられます。
①社会保障制度
法人になると、健康保険や厚生年金、雇用保険などの社会保険制度に加入することができます。経営者、家族はもちろんのこと、従業員に対しても、充実した社会保障が可能となります。
②資金・融資面の優遇
法人化し、対外的な信用力が向上することで、金融機関からの融資が受けやすくなります。また、金融機関だけでなく、農業経営基盤強化資金の貸付限度額が増額したり、無担保無保証の貸付が受けられたりと、優遇されます。
農業法人と税金の関係
会社法人と農事組合法人の税金
では、農業法人の税金はどのようになっているのでしょうか。実は、会社法人と農事組合法人では少し税金の仕組みが異なります。それぞれ見ていきましょう。
①会社法人
農業法人における会社法人は、農業を行う非公開会社である株式会社や持分会社(合名会社、合資会社など)になります。法人税法上の普通法人に該当するため、普通法人と同じ税率で法人税や法人住民税、事業税などが課されます。主な税率は以下のとおりです。
・法人税
開始事業年度 | 平成28年4月1日~
平成30年3月31日 |
平成30年4月1日~
平成31年3月31日 |
|
---|---|---|---|
資本金1億円以下 | 所得 年800万円以下 | 15.0% | 15.0% |
所得 年800万円超 | 23.4% | 23.2% | |
資本金1億円超 | 23.4% | 23.2% |
このほか、法人税額の4.4%の地方法人税が課されます。
・法人住民税
課税されます。税率は各市町村・都道府県の条例で定めます。
・法人事業税
課税されます。税率は各都道府県の条例で定めます。
②農事組合法人
農事組合法人は、事業に従事する組合員に賃金等の給料を支給するかどうかで、税金の仕組みが異なります。
事業に従事する組合員に賃金等の給料を支給する農事組合法人は、普通法人とみなされ、法人税が会社法人と同じ税率となります。事業に従事する組合員に賃金等の給料を支給しない農事組合法人は、協同組合等とみなされ、普通法人より税率などの優遇を受けることができます。
農事組合法人の主な税率は以下のとおりです。
・法人税(協同組合等とみなされる場合)
開始事業年度 | 平成28年4月1日~
平成30年3月31日 |
平成30年4月1日~
平成31年3月31日 |
---|---|---|
所得 年800万円以下 | 15,0% | 15,0% |
所得 年800万円超 | 19.0% | 19.0% |
・法人住民税
課税されます。税率は各市町村・都道府県の条例で定めます。
・法人事業税
農業生産法人である農事組合法人が行う農業(畜産業等を除く)については非課税。
農業法人と個人経営農業の税制面の違い
農業法人と個人経営農業では、税率以外に税制面でも大きく異なります。原則、農業法人のほうがメリットが大きいです。農業法人(青色申告を前提)の税制面のメリットには次のようなものがあります。
①経営者への給料
個人経営農業では、経営者への給料は経費にすることができません。しかし、農業法人の場合は役員報酬として経費にすることができます。
②家族への給料
個人経営農業では、原則家族への給料は経費にできません(青色申告で一定の要件を満たした家族への給料のみ、専従者給与として経費にできる)。農業法人の場合は、家族への給料も経費にすることができます。
③欠損金の繰り越し
個人経営農業では、欠損金(赤字)が出た場合、翌年以降3年間繰り越すことができますが、農業法人の場合は9年(平成30年4月1日以後に開始する事業年度は10年)繰り越すことができます。
④退職金を経費にできる
個人経営農業では、経営者の退職金を経費にすることができませんが、農業法人の場合は経費にすることができます。
⑤農業経営基盤強化準備金を経費にできる
個人経営農業では、農業経営基盤強化準備金を経費にすることができませんが、農業法人の場合は、認定農業者に限り経費にすることができます。
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まとめ
農業法人は、個人経営農業に比べ、経営上、制度上、税制上それぞれでメリットがあります。今、個人経営農業をしている場合は、農業法人を設立した方が有利といえるでしょう。しかし、法人化には大きな労力も伴います。農業法人化を考えている場合は、設立の前に、是非この記事を参考に、家族や農業仲間としっかり方向性等を話し合いましょう。
参考URL
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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