NPO法人の運営に必須な税金、決算、確定申告、経理について徹底解説
NPO法人を運営するためには税金、決算、確定申告、経理の知識を避けて通ることはできません。しかし、株式会社などの普通法人とは異なり、ルールは独特です。たとえば、NPO法人は収入や経費を収益事業と収益事業以外に区分することが求められます。そこで、NPO法人の運営に必須な各種知識について解説します。
そもそもNPO法人に課税される税金とは?
NPO法人にも税金は課税されますが、株式会社のような普通法人とは異なります。そこで、NPO法人に課税される税金について解説します。
NPO法人に課税される税金の種類を紹介
NPO法人は次の税金が課税されます。
(1)普通法人と全く同じように課税される税金
おもに次の通りです。
①法人住民税の均等割
NPO法人の規模に応じて、所得金額に関係なく年7万円以上課税される税金です。
②消費税
物品の販売やサービス提供に伴い預かった消費税から支払った消費税を差し引いた残額が課税される税金です。
③源泉所得税
給与、退職金、原稿料や講演料などの報酬を支払うときに天引きする源泉所得税のことを指します。
④不動産取得税
土地建物などの取得に伴い課税される税金です。
⑤固定資産税、都市計画税
1月1日時点で所有する土地建物などの固定資産に対して課税される税金です。
(2)NPO法人の収益事業に係る所得金額に対してのみ課税される税金
法人税、法人住民税の法人税割(法人税×住民税率)、法人事業税が課税されます。言い換えれば、収益事業以外の所得金額に対しては課税されません。
収益事業の範囲について解説
法人税、法人住民税の法人税割、法人事業税を計算するために、収益事業は次の34種類に限定されています。
・物品販売業
・不動産販売業
・金銭貸付業
・物品貸付業
・不動産貸付業
・製造業
・通信業
・運送業
・倉庫業
・請負業
・印刷業
・出版業
・写真業
・貸席業
・旅館業
・料理店業その他の飲食店業
・周旋業
・代理業
・仲立業
・問屋業
・鉱業
・土石採取業
・浴場業
・理容業
・美容業
・興行業
・遊戯所業
・遊覧所業
・医療保健業
・技芸教授業
・駐車場業
・信用保証業
・無体財産の提供業
・労働者派遣業
NPO法人は収益事業と収益事業以外の所得を区分経理する必要がある
法人税などの計算を行うためには、所得金額を収益事業と収益事業以外の事業に区分経理をする必要があります。たとえば、NPO法人の会費収入は収益事業以外の所得金額であるため、法人税などは非課税です。しかし、雑誌などの出版物の販売収入は収益事業のため、法人税などの課税対象となります。
NPO法人設立に必要な税務上の手続きについて解説
普通法人とNPO法人では設立に必要な税務上の手続きが異なります。そこで、NPO法人設立のケースについて説明します。
収益事業を行う場合は税務署に対し、税務上の手続きが必要
NPO法人の場合、設立日ではなく、収益事業の開始日から2月以内に「公益法人等又は人格のない社団等の収益事業開始の届出」の提出が必要となります。たとえば、設立と同時に収益事業を開始する場合は設立日から2ヵ月後が提出期限です。しかし、設立日よりも収益事業の開始日が遅ければ、提出期限は後者の日から2ヵ月以内となります。
道府県民税、市町村民税は収益事業の有無に関係なく税務上の手続きが必要
収益事業の有無に関係なく住民税の均等割が課税されるため、NPO法人を設立した場合には、都道府県や市区町村に対して税務上の手続きが必要となります。
NPO法人は自治体により均等割が減免、免除される
NPO法人は自治体により住民税の均等割が減免(軽減)、免除されます。ここでは、東京都を例に均等割の免除について見ていきましょう。免除される条件は次の通りです。
(1)4月1日から翌年3月31日まで全く収益事業を行っていないNPO法人であること
たとえば、収益事業を行っていたNPO法人が7月中に収益事業を止めた場合、止めた年の翌年4月1日から翌々年3月31日の期間まで免除の対象となります。
(2)決算月に関係なく、4月30日までに次の書類を所轄する都税事務所へ提出すること
①都民税の均等割申告書
②都民税(均等割)免除申請書
収益事業を行う場合は青色申告の申請をセットに行う
NPO法人を設立し、収益事業を開始した場合、青色申告の申請をセットで行うことで、節税対策で有利となります。青色申告承認申請書の提出期限は次のいずれかのうち早い日の前日となります。
(1)収益事業の開始日から3ヵ月後
たとえば、収益事業の開始日が8月1日の場合、提出期限となる3ヵ月後の前日は10月31日です。
(2)決算日
たとえば、9月30日が決算日の場合、提出期限となる決算日の前日は9月29日です。
NPO法人の収益事業と収益事業以外の経理区分について解説
NPO法人は所得金額を収益事業と収益事業以外に分けるため、経理区分が必須となります。そこで、経理区分について解説します。
経理区分するポイントは共通経費の配分である
たとえば、電車代は収益事業または収益事業以外のために負担したかどうかを区分することができます。しかし、共通経費は収益事業と収益事業以外の両方が含まれている経費のことを指すため、たとえば事務所家賃などを明確に区分することはできません。そのため、共通経費として合理的に配分する必要があります。
共通経費の配分方法の具体例を紹介
共通経費は上記の電車代のように厳密に経理分けすることができないため、客観的な区分基準を用いて収益事業と収益事業以外の経費に配分します。具体的には次の通りです。
(1)人件費(報酬、給料、賃金、賞与、退職金など)
収益事業と収益事業以外の従事割合(人員の割合)で配分します。
(2)福利厚生費、事務用消耗品費など
従事割合で配分します。
(3)建物関連費用(地代家賃、減価償却費、火災保険料、修繕費、固定資産税など)
使用割合または面積割合で配分します。
(4)暖房費、冷房費など
面積割合または容積割合で配分します。
(5)機械工具、器具備品、車両運搬具などの減価償却費
使用割合で配分します。
(6)借入金の利子
収益事業と収益事業以外に係る帳簿価額(借入金残高)の比率で配分します。
(7)その他の費用(個別的な基準が適用し難いもの)
収益事業と収益事業以外の収入金額の比率で配分します。
NPO法人の決算について解説
NPO法人の決算は普通法人と同じ点、独特な点が混在します。そこで、収益事業を行っている場合と行っていない場合に分けて解説します。
収益事業を行うNPO法人の所得金額に対する税率は普通法人と同じである
収益事業を行うNPO法人の収益事業に係る所得金額に対する税率は中小法人の普通法人と同じです。法人税の税率は次の通りです。
期首が平成30年3月31日以前 | 期首が平成30年4月1日以降 | |
---|---|---|
年800万円以下の部分 | 19%(15%) | 19%(15%) |
年800万円超の部分 | 23.4% | 23.2% |
なお、年800万円以下の部分のかっこ書きの15%は期首が平成31年3月31日までの年度に適用される税率です。
収益事業を行っていないNPO法人の決算
収益事業を行っていない場合、法人税が課税されないため、税務署へ確定申告の提出は不要です。しかし、年間の収入金額が8,000万円を超える場合、決算日の翌日から4ヵ月以内に、損益計算書または収支計算書を税務署へ提出することが義務付けられています。また、提出する損益計算書または収支計算書は事業収入について事業の種類ごとに区分することが求められます。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/23500061.htm
まとめ
NPO法人の税金は普通法人と違い、所得金額を収益事業と収益事業以外に区分するのが特徴です。特に区分するのが難しい共通経費は区分基準を明確にすることで経理処理や税金の計算をスムーズに行うことができます。このようにNPO法人の税金は独特のルールを知ることが理解するポイントとなります。
参考文献・URL
- https://www.jicpa-knk.ne.jp/download/doc/hieiri_npo_q&a_201306.pdf
- http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=340CO0000000097#167
- https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_4.htm
- http://www.tax.metro.tokyo.jp/kazei/info/npo2008.pdf
- https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_14.htm
- https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/21/14.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/23500061.htm
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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